かかりつけのケアマネとドクター
-在宅での生活支援の経験から-
労働調査協議会客員調査研究員 白石利政
週4回、朝夕続いた義母のデイサービス利用時の送迎が昨年末に突然終わった。享年95歳。夫と死別してからの17年間、車で15分くらいの隣町に住む長女の生活支援をうけ在宅で生き抜いた。このうち6年と3ヶ月、次女(妻)が同居して主たる介護者としてこれに加わった。そのきっかけは7年前に一過性ではあったが、せん妄で異常行動を引き起こし、ついで骨折による長期入院となり、退院後の一人暮らしは無理との判断からであった。私と娘も一緒に横浜から西へ800キロ、移り住むことになった。高齢者の生活をそばで見ながら「介護支援専門員(ケアマネと略)」と「主治医」の役割の大きさを痛感した。ともに今後のあり方が検討されているようだ。
2012年の退院後は車椅子生活。介護度は要介護2(2018年10月要介護3)。同居後まもなくしてケアマネの司会のもとサービス担当者会議がもたれた。本人と家族のほか、デイサービス先の介護責任者、介護用品レンタル先の担当者も出席していた。ケアプランの説明の後に契約書が取り交わされた。これがケアプランの聞き始めであり、介護はチーム作業であることを実感した。介護保険で利用したのはデイサービス(週2回、のちに週4回 )と介護用品(電動ベッド、車椅子、スロープ。のちにトイレ用アーム)である。
ケアマネの存在は大きい
介護保険の利用者にとってケアマネの存在は大きい。このケアマネ、2000年4月から施行された介護保険制度では「要介護者等からの相談に応じ、要介護者等がその心身の状況に応じ適切なサービスを利用できるよう市町村、サービス利用者等との連絡調整等を行う者であって、要介護者が自立した日常生活に必要な援助に関する専門的知識・技術を有する者として介護支援専門員証を受けたものをいう」と定義されている。ドイツ在住の川口マーン恵美氏によると、「ドイツには、日本でいうケアマネージャーはいない」と「(「老後の誤算 日本とドイツ」)。
ケアマネについて佐藤信人氏は「介護保険制度の創設を検討するに当たっては、保険給付のサービスをどのようこ行うべきかが大きな課題でした。介護保険の保険給付が、もし、現金給付の仕組みだったらどうでしょう。給付された現金をどのように使うか、サービスに替えようと預金しようと利用者の自由になります。たとえサービスに替えたとしても、どのようなサービスを使うかは利用者の判断で自由です。この場合にはケアマネジメントは導入されなかったかもしれません」と、述べている(「ケアプラン作成の基本的考え方」)。この佐藤氏、「霞が関を去るとき、当時の老健局長であった堤修三さんから『ケアマネの父』の称号を奉られた人です」(大熊由紀子「物語 介護保険下」)。
このケアマネ、専門性の向上が課題となっている。その一環として、厚労省は2014年、ケアマネの受験資格を?法定資格(介護福祉士、看護師等)取得後、登録後
の従事期間が5年以上かつ900日以上、?特定の施設等で法により必須とされる相談援助業務の従事期間が5年以上かつ900日以上、へと変更。経過措置を経て2018年から実施された。その結果、受験者数は49,333人、合格率は10.1%、ともに過去最低となった(図参照)。この落ち込みが、「ケアマネVer.2」の誕生の年となることを期待したい。
医師の専門で変わる病名
主治医(整形外科医)の往診は同居当時、偶数月は週2回、奇数月は週1回であった。昨年の3月、第3腰椎の圧迫骨折で総合病院に1ヶ月入院、その後リハビリのため転院した病院で2ヶ月かかった。これが言われるところの在院日数の長さであり、病院のマンパワー不足のため在院日数の減・病床の効率的利用がさまたげられていることか、と実感した。しかし家族にとっては、正直なところ一息つけた。
退院後の往診は週2回、お願いした。このほか、半年に1回、総合病院の腎臓内科を受診、顎骨壊死後の治療で口腔外科での2週間に一回の受診が続いた。
この1年、「頭がガンガンする」「眠れん」の訴え、特に不眠については毎夜となった。鎮痛剤や睡眠薬の投与を控えるため市販整腸剤やお菓子のタブレットなどを渡すもその効果は期待できず、主治医の紹介で脳外科を受診、診断名は神経性変性型認知症。納得できず知り合いのさらに知り合いの情報で心療内科を受診、診断名は老人性鬱病。切羽詰まっての「はしご受診」。困ったのはその都度、処方箋が出され知らない薬がでること。「主治医」がいなければ薬の管理は到底できない。また、このことで経験したことは、医師の専門によって診断名がでること。最後に朝食中倒れ救急車で運び込まれた病院では心臓弁膜症、これで亡くなった。
「総合医」「総合診療医」のあり方が検討されている。その必要性の4つの視点のなかに「?高齢化に伴い、特定の臓器や疾患を超えた多様な問題を抱える患者が今後も増えること」が挙げられている(厚労省「専門医の在り方に関する検討会 報告書」 2013年)その通りだと思う。
要介護者(義母)は介護と医療の保険制度内のサービスと、「かかりつけ」のケアマネと医師の助けをかり在宅での生活を通せた。ケアマネの「バージョンアップ」と「総合医」「総合診療医」の定着を望む。ある偉人の言葉に「後でわかること。それは戦場での働き、賢者の怒り、友の苦しみ」というのがあるらしい。いろいろ思い当たるが、「友」を義母の2人の娘とすれば、うなずけることが多い。