すべての人に地域生活、居宅生活への移行支援を
街角ウオッチャー 金田 麗子
2021年2月、横浜市神奈川区の生活支援課が、コロナ禍で失業、住居を失った女性からの生活保護申請書を受理しないという悪質な対応をして、支援団体からの抗議に対し後日、謝罪をしたことが報道された。
保護申請に対応した職員は、施設入所が保護申請の条件であると誤った説明をしたという。生活保護法には「居宅保護の原則」があり、施設の入所を強制することは禁じられている。
厚生労働省は公式サイトの生活保護紹介ページで、「住むところがない人でも申請できます」「例えば、施設に入ることに同意することが申請の条件ということはありません」とわざわざ説明をしているが、現場ではそれが守られていない実態があるのだ。抗議を受けて横浜市もHP上で謝罪した。
今回の事例は、一職員の無知からおきたことではない。職員が部所の他の職員と相談して対応していることは、女性の証言でも明らかで、横浜市、少なくとも神奈川区の生活保護申請に対する常態化した対応だったと思われる。
実際2014年度の厚生労働省「生活保護世帯の居住実態に関する調査」によると、横浜市の生活保護受給世帯の30%が、「簡易宿泊」「施設その他」「無料低額宿泊所」に居住している。同じ政令市の川崎市は11%で、民間公営住居などの居住がほとんどであることからしても、横浜市の宿泊所や施設居住率の高さは顕著だ。
入居期間が長期化する「無料定額宿泊所」
「無料定額宿泊所」は1990年代から生活保護を受ける人を住まわせる形態で急増し、事業者によっては劣悪な住環境で生活保護費を搾取する「貧困ビジネス」のケースも少なくない。2015年厚生労働省「無料低額宿泊事業を行う施設に関する調査」によると、全国537か所、入所者は約15,600人いる。入所者は40歳~65歳が最も多く、次いで65歳以上が多く高齢化している。
施設の利用期間は一年以内が35%、次いで4年以上が32%。短期自立が進まず、長期間の滞在が常態化している。昨年東京都の多摩地域の地方議員グループが、東京、神奈川、千葉で行ったアンケート調査では、入居期間平均が一年を超えた自治体は10市あった。最長は武蔵村山市の5~6年だった。このように生活困窮者の自立支援の目的が形骸化されていることがわかっている。ケースワーカー不足の福祉事務所が、管理のしやすい施設利用を固定化しているようにみえる。
昨年私の勤務先のグループホームに入居した55歳のKさんは、20代初めから16回精神病院に入退院を繰り返してきた。身寄りもなく生活保護を受給しているKさんの退院先は救護施設の短期入所である。救護施設は生活保護法に基づく社会福祉施設で、「身体上又は精神上著しい障害があるために地域生活が困難で、かつ生活に困窮している人の生活援助を行う」施設である。
体験入居に現れたKさんは、ふっくらとした上半身に対し、異常に細い曲がった足でふらふらと歩いていた。統合失調症の薬よりも高血圧、糖尿など内科の薬を沢山飲んでいた。おおぜいの人と行動することがストレスで疲れてしまうKさん。大きな規模の救護施設はミスマッチだったと思われる。きれい好きで自分の部屋も、台所も、風呂もピカピカに磨き、着替えや濡れたものはすぐに洗濯する。
Kさんは玄関の鍵をかけるということを知らなかった。長い間、家の鍵を持つ経験をしていなかったからだ。自分の部屋ができて嬉しそうで、表情も内科の症状も落ち着いて、じっくり治療に専念できるようになり、この一年は入院しなくても良かった。
「救護施設」も入所者の長期化、高齢化が進んでいる。古い統計だが、2010年度の全国救護施設協議会の資料によると、入所期間平均14年、10年以上の入所が約半数を占める。65歳以上の入所者が約半数である。
2016年度全国救護施設実態調査では、救護施設入所者約16,000人に対し、2015年度一年間の居宅生活への移行者は約1,000人とまだまだ少ない。生活保護のケースワーカーが一度も面接に来ないこともあると指摘している。
「生活困窮者自立支援法」に基づいても、「障害者自立支援法」に基づいても、地域生活、居宅生活への移行支援をすすめていくことは、自治体の責務なのである。