ロシア戦時経済の死角、エネルギー販売収入の大幅な減少
季刊『言論空間』編集委員 武部 伸一
2022年2月開戦以来、4年近くが経過するウクライナ戦争。日本のマスコミではロシア有利の戦況報道が続いている。だが、プーチンの戦争を支えるロシア経済に問題はないのだろうか。
原油安とルーブル高、二重の困難に直面するロシア経済
経済誌『Forbes Japan(WEB版)』25年12月2日付記事に「ロシアの石油収入が11月に激減 財政圧力が深刻化」との記事が掲載された。筆者は化学エネルギー分野専門記者ロバート・ラピエール。https://forbesjapan.com/articles/detail/86026
同記事によれば25年11月のロシア石油・天然ガス販売収入は5200億ルーブル(約1兆円)、これは前年同月比で35%の減少。1~11月期の石油・天然ガス収入累計は1020億ドル(約16兆円)、前年比で約22%の減少とのこと。
その原因は先ず、原油価格の下落。確かに25年1月時点で1バレル当たり73ドルを超えていたドバイ原油は10月には約64ドル。12%を超える下落となっている。さらに同記事によれば、ロシア原油は世界の基準価格に対し大幅な割引での取引を余儀なくされ、一部では1バレル30ドル台半ばまで下落しているとのことだ。
これに追い打ちをかけるのがルーブル高。25年12月3日付ロイター配信記事によればルーブルは今年に入り対ドルで5割近く上昇、ロシアのレシェトニコフ経済発展相は「当面ルーブル高が続く」と予測、「新たな現実と共存する必要がある」と述べている。
もちろん、一定の国内完結型の産業構造を持つロシアにとって、エネルギー販売収入の減少が即時に国内経済の崩壊を招くわけではないだろう。
しかし、Forbes記事によればロシアは連邦予算の4分の1をエネルギー収入に頼っている。このまま26年も原油安・ルーブル高の基調が続くならば、プーチンの戦争経済に大きな影響を及ぼすことに間違いはないだろう。
石油関連施設への攻撃を強めるウクライナ
現在、ウクライナ戦争の主戦場である東部ドンバス戦線においては守勢にあるウクライナだが、直近ではロシア内陸及び黒海沿岸の石油関連施設へのドローン攻撃を強めている。また報道によると本年12月ウクライナは黒海において、「影の船団」と呼ばれる制裁逃れのロシア産原油輸送タンカー2隻に水上ドローン攻撃を行い航行不能とした。
これらウクライナの攻撃では、ロシア産原油輸出が一時停止を余儀なくされる、またロシア国内特に極東などの一部地方においてのガソリン不足を招くなどの影響が出ているようだ。
一方ウクライナ国内では、11月にゼレンスキー政権有力閣僚による大規模な汚職事件が発覚し政権基盤が揺らいでいる。また国際的にはトランプ米国大統領から、繰り返し停戦(事実上ロシアへの屈服)の圧力が加えられている。
このような状況下、現在ドンバスの戦場ではウクライナの拠点ポクロウシクがロシアの攻勢で陥落の瀬戸際にある。しかしこれをロシアの圧倒的な軍事的優位と評価することはできないだろう。ポクロウシク包囲戦は1年間にわたり継続してきた。ロシア軍はその主戦力を傾注しても、廃墟となった小都市を占拠するのに1年の時間を要している。前線ではぎりぎりの攻防が続いているのだ。
ロシア国民はいつまでプーチンの戦争に耐えられるか
2022年2月開戦以降のロシア経済は、西側諸国の制裁にも関わらず、中国・インドをはじめとする非西側諸国との経済関係強化、戦時経済への移行に伴う国内需要増から、国際社会の予測を上回る好調を維持してきたと言われる。
しかし2025年、ロシア経済の大きな柱であるエネルギー輸出収入は、国際原油価格と為替レートに依存する不安定な構造にあることが明らかになった。加えて、ウクライナからの執拗な石油関連施設への攻撃が続く。
ロシア戦時経済体制は、どこまで持続可能性を維持できるのであろうか。プーチンのウクライナ侵略戦争はいつまで続くのであろうか。
朝日新聞元モスクワ支局長の駒木明義論説委員による『ロシアから見える世界 なぜプーチンを止められないのか』(朝日新書2024年9月刊)に次のような一節がある。
「もともとロシアの国民は、年金や物価の問題を巡って政権に反発することはあっても、外交や軍事といった分野は自分たちとは関係ないと考える傾向が強い。」
たしかにプーチンと「特別軍事作戦」へのロシア国民の支持率は今も低くはないようだ。しかし26年、ロシア戦時経済の行き詰まりがさらに明らかになるとすればどうか。
ロシア経済と国民の意識について注視を続け、プーチンのウクライナ侵略戦争の行方を追っていきたい。