第36回研究会
コロナ後、日本企業に勝機はあるか?
脱系列化した電子部品産業に強み
グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏
第36回研究会は、2020年11月28日(土)に「コロナ後、日本企業に勝機はあるか?」と題してにグローバル総研所長の小林良暢氏が報告を行った。小林氏は、世界をリードする京セラや村田製作所、日本電産など電子部品産業の強みを生かすことがポイントで、これらの企業は脱系列をはかり、世界のトップとなっていることから脱系列に勝機があると分析した。また急速に進むDX化で働き方も変わり、フリーランスなどが増えるので「労働者」として認め、賃金、権利を守る政策が問われると述べた。
今回は、初めての試みとしてzoomによるオンライン参加形式で行った。
DX化は急速に進んでいる
小林氏は、DXが現場を急速に変え始めていると述べた。DXは、IoT、AI、5Gを統合してビジネスに生かすもの。例えばコマツは建機にセンサーなどを付け、ドローン、3Dと結びつけて現場の建機の動きの全データを集め解析している。ヤマハもインドネシアで発売したバイクに端末を付け、給油、オイル状況などの情報を集め、新たなビジネスチャンスに繋げようとしている。
この動きは株式市場にも反映されており、メルカリ(フリマ)、フリー(事務管理ソフト)、ラクス(ITサービス)など東証マザーズに元気な会社が多い。東証一部やジャスダックの大企業より時価総額が高いという。
ただ、この面では世界の中で日本企業は立ち後れている。5Gの通信基地のトップはファーウェー、2位エリクソン3位ノキア。日本企業はベスト5に登場しない。クラウドサービスはAmazonの一人勝ちだ。自動車のEVもトップは米のテスラでシェアは18%。独のBMW、フォルクスワーゲンが続いている。日産11位、トヨタ15位だ。
しかし、その自動車はEVの動力である車載電池(リチウムイン電池)をどの企業が覇権を握るかによって自動車産業の命運が決まるため、日本企業にもチャンスはある。現在、韓国のLGと中国のCATL、パナソニック・トヨタ連合が争っている。
日本企業で最も強いのは電子部品メーカー。村田製作所、京セラ、TDK、日本電産は、いずれも世界のトップだ。信越化学の絶縁材「石英クロス」は半導体で使われている。これらの企業は系列ではない。脱系列だから世界に売れる。ここに勝機があるというのが小林氏の着眼点だ。
正社員もフリーランス化する
世界はDX化が急速に進むので、その先にある雇用問題を考えないといけない。小林氏は労働分野の専門家なので、この点は見過ごせないようだ。フリーランスはすでにIT、コンサル、マスコミなど1119万人いるがさらに増える。また、一日しか仕事をしないギグワーカーも増えている。クラウドワーカーやギグワーカーに人材をマッチングする会社も出てきている。
ところが1000万人もいるフリーランスやギグワーカーは、契約書もなければ、最低報酬の保障もなく紛争処理の制度もない。こうした人々をどのように保護の網を被せるが問題となる。
他方で正社員は、コロナ禍でテレワークが増えた。これによって意識の変化が起きている。テレワークでは業務ミッションが与えられ、自分で計画を立て時間管理をする。レストタイムが生ずればフリー時間が増え、趣味、スキル、副業が可能になる。働き方のニューウェーブが起こっており、いずれ時間フリー、雇用フリー、会社フリーになるのではないか。
「立法事実」の積み上げでフリーランスも労働者と認めさせる
正社員もフリーランス化するという見通しだが問題は多い。フリーランスは業務委託契約なので労働者として認められていない。現行法制の労働者の要件は「使用従属性」だ。使用従属性には①指揮監督、②時間の拘束、③場所の拘束、④労務対価の4つがあり、ひとつでも欠けたら労働者ではない。労基法適用外となる。しかし、日本の法律は会社主義で、雇用労働者が前提となっている、フリーワーカーは存在すら想定していないので欠陥法と言える。これを突破することがカギとなる。
フリーランスも労働法の対象にすべきということが小林氏の結論で、労働現場や取引関係の現場の実態を調査して証明する。つまり「立法事実」の積み上げで証明すればよいと言う。
リモート参加者からの質疑の中では、「世界の流れはソフトに向かっている中で「ものづくり」で勝てるのか」という点が焦点になった。小林氏は「部品産業などは強い。しばらくは手持ちの駒で勝負する以外ないのでは」と答えた。(事務局 蜂谷 隆)