これまでの研究会

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2019/06/10

第31回研究会報告

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途上国のインフラ投資支援
政府・企業レベルの日中共同参加が求められる

                  専修大学経済学部准教授 
徐 一睿氏

 2019年4月27日に開かれた第31回研究会は、専修大学経済学部准教授徐一睿氏に「インフラ投資は中国経済の切り札になるのか」と題して話していただいた。徐氏は中国のインフラ投資の中でも、一帯一路などで途上国に対する投資を中心にその役割について論じた。途上国のインフラ需要は強く、資金が足りない。日本など先進国が逃げ腰になっている中で、中国がやらざるを得なくなっている。今後は中国単独ではなく、日本などとの共同参加が必要なことを強調した。

途上国のインフラニーズは強い
 
 インフラ投資は途上国とっては極めて重要で、実際に日本が調査したデータを見ても、アジア諸国は極めて強いインフラ整備のニーズがある。しかし、資金不足はボトルネックとなって進まないというのが現状だ。中国は途上国とはいえ、すでにインフラ整備がかなり進んでいるため、中国の余剰資金を資金不足の途上国に移すことは理にかなっている。一帯一路自体の評価があることは分かるが、途上国にとってベターな方法を考えるべきだろう。

 一帯一路は国際公共財というよりも地域公共財と考えるべきだ。国際協力によって地域公共財を共同供給することが求められている。地域公共財としてのインフラの財源は、途上国では税収にしても国債の発行による調達も厳しい。しかも世銀、ADBなどからの融資も十分受けられないのが現状だ。

公私連携(PPP)に注目

 こうした状況の中で中国が頼られているのだが、徐氏が注目しているのは新たな資金調達手段としての公私連携(PPP)である。PPPは徴税やサービスの提供、資金調達などすべて政府が責任を負う方式とは異なり、プロジェクトの核となる「民間運営者特別目的事業体」を設立し、同事業体が中心となって事業を行う。政府の役割は限定的となる。

 たとえばスリランカのハンバントタ港はアジアとヨーロッパ、アフリカを結ぶ主要航路にあり、ハブ的な役割を担うことになるが、同港の開発はPPPで行われた。一部ムダはあるが積極的に評価すべきだ。

 ところが日本ではメディアなどからの批判は多い。そのひとつは「債務の罠」というものだ。スリランカ政府と中国政府は2016年に合意し99年の借地契約が結ばれ中国が実質的な運営権を握った。99年といっても最長99年で、途中でスリランカ政府が買い戻すことは可能だ。中国は4億ドルを6.3%の金利で貸しているが、スリランカの5年物の国債8.2%より低い。また、借款は中国からが圧倒的に多いのは問題という批判も、むしろ日本やインドが貸そうとしないためだ。

 スリラン政府と中国の国営企業間は「運命共同体」と見られている。損得は共になのだが、もっともリスクを負っているのは中国企業だ。リスクを負いながらやっている点も見逃すべきではない。

 ただそれでも中国に対する警戒感は途上国だけでなく、他の先進国にもある。中国方式に対する国際世論は、PPPは歓迎するが中国は怖いというものだ。そこで徐氏は中国一国に頼るのではなく、いくつかの政府が共同で参加し協力し合うと同時に監視し合う仕組みを提案している(図参照)。

 日本企業は日立、富士フイルム、パナソニック、日通などが一帯一路に積極的に関わっている。日本企業は先進国に強く途上国に弱い。中国は逆なので日中の企業協力は補完的になるので、双方にメリットが大きいはずだ。日本政府、企業の参加が期待されるとした。

 質疑では多くの質問、意見が出されたが、中国経済にとってのインフラ投資の意味について論じてほしかったという指摘もあった。(事務局 蜂谷 隆)


07:28
2018/12/28

第30回研究会報告

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中央銀行にお金を作らせて景気拡大、社会保障拡大を
                                                     立命館大学経済学部教授 松尾 匡氏

 2018年11月10日に開かれた第30回研究会は、立命館大学経済学部教授松尾匡氏に「ポストアベノミクスの経済政策を考える」と題して話していただいた。松尾氏はなぜ野党候補は安倍首相率いる保守勢力に負けるのか?という問いから出発、経済に後ろ向きな姿勢に問題があると診断、景気を拡大し生活を安定させる姿勢に転じる必要性を訴えた。そのための財源は国債を増発して日銀に買い取らせる。黒田日銀の「異次元緩和」と似ているが、財政支出拡大とセットにして量的緩和を行うという自説を強調した。

力強いデニーの前向きの経済公約

 松尾氏はまず新潟知事選、京都府知事選、沖縄県知事選を取り上げ、景気拡大の政策を打ち出した野党候補は勝つか負けても票を伸ばしているが、触れない候補者は票を減らしていると指摘、長期不況と小泉改革で厳しくなった生活の改善を求めているのだが、安倍政権になって少し改善した。野党候補者はこの要求に応えていない。

 世界を見るとグローバル企業が大きな利益を得て格差が拡大した。これに対して中道左派的な人達は「財政は厳しい」として十分対応していない。このため民衆の不満は極右あるいは急進左派に向かった。しかし、で欧米の左派は反緊縮政策を提唱している。この動きに注目すべきだ。ギリシャ危機と同時期に危機に陥ったアイスランドは、中央銀行が大量の国債を買うことで政府支出を増やし経済を立ち直らせた。ポルトガル、カナダ、スウェーデンも同様の政策で成果を上げている。

ヨーロッパの左派のブレーンの活発な論争

 ヨーロッパの左派のブレーンには、主流派ケインジアンのニューケインジアン左派のレンルイス、クルーグマン、非主流派のケインジアンにはウォーレン・モズラーらMMT (現代貨幣理論)と称する人達がいる。MMTは、通貨発行権を持つ政府にデフォルトリスクはないので、政府支出に制約はないと言い切っている。また、非主流派の中には民間銀行による信用創造の廃止を主張する人達もいる。
イギリス労働党党首コービンの公約の目玉は、イングランド銀行の量的緩和で作ったマネーで、住宅やインフラの投資をする「人民のための量的緩和」だ。2017年の総選挙で反緊縮マニフェストを掲げ大躍進した。レンルイスなどMMTに近いケインジアンがブレーンになっている。

 アメリカのサンダースの公約は「5年間で1兆ドルの公共投資」だ。スペインのポデモスも「人民の経済プロジェクト」を打ち出し、フランスの大統領選挙で2割獲得したメランションも、公的投資で景気を刺激し350万人の雇用創出を公約に掲げた。

量的緩和と政府支出増のセットでインフレ目標達成

 ただニューケインジアンとMMT・信用創造廃止派あるいはコービノミクスと市民配当・ヘリマネ派の間でも論争がある。とらえ方や重点の置き方に差はあるが共通理解も多い。通貨発行権を持つ国家は破綻しない。課税は市中の購買力を抑えインフレを抑制する手段で、財政収支の帳尻合わせに意味はない。不完全雇用であれば通貨発行による政府支出拡大でもインフレは悪化しない。民間が貯蓄超過なら財政赤字は問題ないなどだ。

 松尾氏は左派ニューケインジアンの立場をとっている。中央銀行が国債を買うこと政府支出を増やすが、「インフレ目標達成まで政府は支出を増やす」という国民の予想形成による実質利子率低下を重視する。アベノミクスによる金融緩和(黒田日銀の「異次元緩和」)は財政支出拡大とセットになっていないので不十分と批判、野党は福祉や教育などに重きを置いた財政支出拡大による積極的な経済政策を持たないと安倍政権を倒すことはできないというのが結論である。(事務局 蜂谷 隆)


20:48
2018/11/28

第1回ミニ研究会

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グローバル経済の限界は保護主義では克服できない
                  横浜市立大学名誉教授 金子 文夫氏

 経済分析研究会では、新たな試みとしてこれまでの正規の研究会とは別に規模を縮小して行うミニ研究会を2018年9月30日に開催した。第一回は横浜市立大学名誉教授の金子文夫氏に「米中貿易戦争のゆくえ」と題して話していただいた。現在進行形のテーマであったが、金子氏は米中貿易戦争の課題と論点を整理したうえで、トランプ政権の異常さと保護主義だけに着目するのではなく、その背景に中国の台頭による覇権争いとグローバル経済の歪み、限界があること、また今後の方向性はグローバルガバナンスの強化に求められるとした。

中国の覇権の野心に米が危機感

 金子氏の講演は以下の通り。トランプ政権は「国内に生産と雇用を取り戻す」として、特に11月の中間選挙に勝つことを意識している。その通商戦略は国家主権を優先するというもので、WTOの決定より米国の国内法が優先、通商交渉も多国間ではなく2国間に重点を移すというもので、TPPから離脱、NAFTAの見直しを図っている。

 まず、鉄鋼25%とアルミ製品に
10%の追加関税を日本、カナダ、EUなどに発動したが、こじつけだが安全保障への脅威を理由としている。メキシコとは原産地規則として部材調達比率を75%に引き上げ、賃金条項、数量規制、為替条項などで合意した。メキシコで自動車、自動車部品生産している企業への影響は大きい。カナダとは農産物分野と紛争解決処理制度で詰めの交渉を行っている(その後、合意)。日本とは日米首脳会談でTAGという形での交渉開始で合意した。

 これらと次元の違うのが中国。米国の貿易赤字相手国でも中国が47.1%と断トツに高いためだ。トランプ政権は中国に対して自動車・半導体・金融市場開放、赤字1000億ドル削減を要求、中国は受け入れを表明したため一旦は休戦という話になったが、トランプ大統領は認めなかった。

 そして第1弾として輸入品818品目340億ドルに25%追加関税発動、第2弾として160億ドル、279品目、25%追加関税を発動した。9月には第3弾として2000億ドル、5745品目、10%から25%への関税引上げ(1月実施)を発動した。中国はそれぞれに報復制裁を行ってきたが、第3弾は600億ドルにとどまった。トランプ政権が第4弾を行えば中国は対抗手段がない。

背景に米中ハイテク覇権抗争

 こうした背景には中国の先端技術分野での技術力向上に対する米国の危機感がある。中国の特許の国際出願数は増加、人材育成も進み技術力を高めている。さらに製造大国から製造強国へという「中国製造2025」を掲げている。米国は「中国製造2025」の見直しを求め、ZTE(中興通訊)などへの半導体販売の禁止のほか、産業ロボット、新素材などへの関税強化をはかっている。外国企業による米ハイテク企業の買収・合併に対する規制も強めている。

グローバル化に対し国家によるコントロールは限界

 金子氏は以上のように問題を整理した後、米中貿易戦争の根底にあるグローバル覇権構造をめぐる論議として主要な見方を紹介した。①米中貿易戦争はトランプ政権による一時的攪乱で、グローバル化の流れは不変、②保護主義の台頭は当然で、国内調達の重視など新しい保護主義の時代に入る、③行きすぎたグローバル化に対して保護主義ではなく民主主義と国家主権を取り戻し、経済を規制していくべきというものである。

 世界覇権をめぐる展開については、米中によるG2、G20による協調(多極化)、新しい冷戦、Gゼロ(無極化)という4つのシナリオが考えられるが、金子氏は、米国の従来型覇権国家からの変質は明確で、軍事力とドル基軸通貨は維持はするが、世界全体のシステム維持よりも自国の利益を優先するだろう。しかし、経済・金融・情報のグローバル化に対し国家によるコントロールは限界がある。グローバル・ガバナンスを追求すべきとして講演を締めくくった。(事務局 蜂谷 隆)


20:58
2018/10/11

第29回研究会

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人口減少と労働生産性の低下の時代を射抜く新しい経済学
       大東文化大学経済研究所兼任研究員 石水 喜夫氏

 2018年6月16日に開かれた経済分析研究会(現代の労働研究会と共催)は、大東文化大学経済研究所兼任研究員石水喜夫氏に「転換期の日本経済 誤った課題設定と翻弄された労働組合」と題して話していただいた。石水氏は講演の中でデータをもとに分析する能力を持つこと、人口減少と労働生産性の低下の時代になって、正しい時代認識を持つと同時に、この時代を分析しうる経済理論の構築の必要性を強調した。

経済を総合的にみる視点

 講演は、生産、消費、投資、政府支出といったデータを相互に結びつけて分析すると消費増税後の反動もあって、2014-16年は明らかに落ち込んでいた。労働組合幹部は「反動減はない。賃上げだ」と言っていたが、鉱工業生産指数は落ち、雇用も所定内時間も所定外時間も減少、賞与も下がった。明らかに労働投入量で調整していた。
 日本経済がおかしくなったのは、アベノミクスの柱である異次元緩和で円安にしたことで、輸入物価が上がり実質国民所得は低下したためだ。名目賃金は上がったが物価も上昇し実質賃金は下がった。確かに有効求人倍率は上がっているが(4月で1.59)、リーマン・ショック前と比較すると建設、測量技術者が異常に高い。これはアベノミクスの国土強靭化で公共投資によるものと見るべきだろう。

 利益と賃金の関係を経年的にみると、高度成長の第1期は利益が上がれば賃金も上がった、第2期は利益が上がっても賃金は上がらない。第3期は賃金を削って利益を出す時代に分けられる。今は第3期、実質賃金が下がる時代になった。こうした現実と向きあわないといけない。経済全体も民間消費支出主導から設備投資に頼る経済にシフトした。その設備投資も設備更新に変わり、生産能力が上がっても資本量全体は増えなくなった。人口減少と技術革新の動向からすると設備投資による成長の時代も終わった。

ハロッドの動態モデルは有効

 石水氏は、新たな段階に入った日本経済にマッチした経済理論として、ケインズのモデルを動学化したハロッドの「動態経済学序説」のモデルを示した。特徴のひとつは、企業経営にちょうどういい資本稼働率(95%程度)で運営を続ける成長率を保証成長率という概念を用いたことだ。現実の成長率が保証成長率を下回るとどんどん落ち、上回るとさらに上に行くようになるとした。

 さらに自然成長率という概念もいている。自然成長率は、労働力人口の増加率と労働生産性の上昇率で規定されている。自然成長率が保証成長率を上回っている時、これが高度成長なのだが、自然成長率を生かし切って成長することができる。ところが低成長時代になると逆に自然成長率は保証成長率よりも低くなってしまう(図)。人口が減少し自然成長率が低下する時代は、企業が欲するだけの成長を実現することができない。いくら公共投資をしても自然成長率を超えて保証成長率に近づくことはない。

 この時代に必要な経済政策は、企業がむやみに高い成長を志向しないよう保証成長率を下げること。そのためには格差を是正してマクロの貯蓄率を下げて消費を増やすか、鉄道、電力などの整備でより多くの資本を使う環境をつくり資本係数を上げることが求められると、石水氏は提起した。

現代日本にも通用するドラッカーのナチス批判

 最後に石水氏は、実質賃金がマイナスになった時代としてヒットラーの時代を取り上げ、日本の現状の危うさと重ね合わせた。この時代を的確に捉えていたのはドラッカーで「絶望した大衆は不可能なことを可能にする魔術師にすがる」これがファシズムだ。都合の良い経済データだけを取り出し、強い経済を目指す手法の危険性とそれを見抜くための経済理論の必要性を強調し講演を終わった。(事務局 蜂谷 隆)




19:07
2018/07/04

第28回研究会報告

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一帯一路の「国際公共財」としての意味は大きい
      国士舘大学21世紀アジア学部教授 平川 均氏

 2018年3月24日に開かれた第28回研究会は、国士舘大学21世紀アジア学部教授平川均氏に「『一帯一路』でアジアはどう変わるか」と題して話していただいた。一帯一路は中国が覇権を強めるための独自の経済圏形成ととらえる見方が多いが、平川氏はアジアにおける「国際公共財」としての側面も見ないと正確に理解できないのではないかと述べた。また今後の世界経済は人口の多い中国、インドに加えASEANが牽引するようになるとの見通しを示し、中国はこの動きをうまく取り込んでいると述べた。

日本政府は時代の変化を見誤った

 一帯一路にはふたつの側面がある。ひとつは中国の覇権と地政学的な対策。もうひとつは世界経済のフロンティア創出という側面で、これは「21世紀のマーシャル・プラン」的、すなわち国際公共財的な側面である。

 一つ目の中国の覇権と地政学的な対策という面は、習近平国家主席の自信と野心から来ているが、これは圧倒的な外貨準備など中国経済の飛躍的発展がある。経済規模の拡大で資源消費国となり、周辺国やアフリカからの資源確保が必要となった。TPPへの対抗策という面だけでなく、リーマン・ショック後に中国が4兆元の景気対策を行ったことで生じた国内過剰生産の解消策という面もある。

 二つ目の国際公共財的な側面は、これまで注目されなかった地域でインフラ整備によって新しい市場、フロンティアの創出である。恩恵を被る中央アジア諸国や利害が一致するASEANだけでなく、これまで対立してきたインドやパキスタンあるいはロシアとも協調的な枠組みができつつある。具体的には上海協力機構、ユーラシア経済連合などである。こうした中でヨーロッパ諸国も動き始めた。それまで共通の対中政策を持たなかったEUもインフラ優先で協力関係ができ、イギリスも国際金融のセンター維持の観点から動いた。日本はAIIBに加盟していないが、中国の覇権的な動きだけを見て、こうした国際的な動きを見ようとしなかったのではないか。

 平川氏の講演の後半は、20世紀後半以降の直接投資の構造変化についてで、先進国の企業が他の先進国に投資するというモデルから70年代ころからの途上国の低賃金を使って先進国に輸出するモデルとなった。現在は新興経済国の潜在市場に着目して新興国で生産するというモデル「PoBMEs投資発展モデル」に変わってきている。人口が多いことが潜在的大市場経済となる。中国、インド、ASEANなどこれに当てはまる。一帯一路はこの時代の流れにうまくマッチしているとの見方を示した。
 
「PoBMEs投資発展モデル」の可能性

 平川氏の提起を受けて参加者からの質疑を受けた。中国の覇権的動きが強まる中で他国とのwinwinの関係は築けるのか、人口減少・高齢化に向かう中国経済は本当に発展するのかなど、多くの質問、疑問が出された。また、人口の多い国々が経済発展するという潜在的大市場経済のモデルをどう見るのかという点も論議された。(事務局 蜂谷隆)


 



08:26
2018/03/11

第27回研究会

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少しずつ金利の変動幅を広げていった方が良い
                                   リコー経済社会研究所所長 神津 多可思氏

 2018年1月20日に開かれた第27回研究会は、リコー経済社会研究所所長神津多可思氏に「異次元緩和の出口戦略を考える」と題して話していただいた。黒田日銀総裁によって進められてきた「異次元緩和」が行き詰まりをみせ、出口戦略を含め金融政策の転換が議論となっていることもあり、多くの質問・意見が出て熱気高まる討論が行われた。神津氏は、日本経済の不振と物価が下がり続けるデフレを一括りにして、2%のインフレにすればよいとした異次元緩和にはムリがあったこと、正常化の過程で一気に金利が上昇する可能性があるので、ゆっくり金利が上がるようにすることが必要と述べた。神津氏の講演は、長年日銀の政策担当者として白川総裁までの総裁を支えてきたこともあり、日銀の金融政策としてどうするのか、日銀はどうあるべきなのかを意識して論じていたことが印象的であった。

経済の不振とデフレを一括りにしたことの誤り

 バブル経済崩壊後、金融機関の不良債権処理に2005、6年ころまでかかっている。ちょうどその時期は、中国が台頭しグローバル経済の環境は大きく変わり、国内も少子高齢化が進み出し産業構造の変化が起こっていたのだが、金融機関が不良債権処理に追われたこともあり、新しい産業への転換が十分進まなかった。

 こうした中でマイルドなデフレは続いていたのだが、確かにマイルドなデフレが続くと経済は落ち込
むことは事実。そこでマイルドなデフレをマイルドなインフレにすれば良いという発想から2%のインフレ目標が設定され異次元緩和が進められた。リフレ派の理論は、バックボーンとなった「貨幣数量説」も期待に働きかけるという考え方も理論的にはおかしい。

 今後、金融政策が正常化されれば図の下に下がった線から右肩上がりの線のようになるが、その時に金利の上昇は避けられず、混乱の可能性があるとの認識を示した。

一時的な混乱はあるが破綻はない
 
 神津氏の提起を受けて参加者からの質疑を受けた。論点のひとつは今後、金利が上昇すると日銀は金融機関が日銀に預けている当座預金の金利(付利)を上げざるを得なくなり、
逆ざやから債務超過となり信用問題が発生するのではないか、という点であった。神津氏は日銀の一時的な赤字はありうるが、中長期的にはわずかなコストで銀行券を発行できる(シニョリッジ)ので問題は生じない。もし日銀が破綻するという事態になればそれは国家の破綻を意味すると述べた。

 出口戦略との関連では、異次元緩和は第2次安倍政権によって行われているもので、これを変えるためには選挙を通じて政治を変える必要があると述べた。また、「低炭素社会に向けて日本は国際的な信用を落としている」という指摘に対して、環境問題も金融政策も国際的な信用を高めることが重要と指摘、最後に「国際社会の中で名誉ある地位を占めたいと思う」という憲法の前文を引用し、講演会を終了した。(事務局 蜂谷隆)


 



11:10
2017/11/10

第26回研究会

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労働側からの「AI化〇原則」の提案が必要
          グローバル産業雇用総合研究所所長 小林 良暢氏  
                          
 第26回研究会は、2017年10月3日に開催、グローバル産業雇用総合研究所所長小林良暢氏に「AI革命『激変する雇用としごとの未来』」と題して話していただいた。AI(人工知能)、IoT、フィンティック、クラウドファンディングなど「第4次産業革命」は、すでに始まっており、AIによって人間がやる仕事はなくなるのでは?など議論が活発になっている。小林氏はAI革命で仕事がなくなることだけにスポットを当てることを批判、むしろ仕事の内容が変わることに着目すべきとした。併せて企業自体が生き残れるかどうかも問題になると指摘した。雇用は少ない日数や短い時間の勤務など「すきま雇用」や副業などが増えるとし、労働団体が「AI〇原則」をつくって対応する必要があるとした。

AI革命で会社が変わる。仕事が変わる。なくなるかもしれない
  AIやIoTによる第4次産業革命蒸気機関の第1次産業革命に始まる資本主義の歴史の中で4番目に位置する産業革命になるという時代認識を持つ。その第4次産業革命が進むと、仕事の中には完全になくなるものも出てくる。なくなる仕事としてはスーパーのレジ、運転手、コールセンター、速記者などである。しかし、ここだけを見ているとコトの本質を見誤る。雇用形態は非正規やフリーなどが増える。ネットを媒介して個人で働く「クラウドワーカー」はアメリカではすでに4000万人もいるが、こうした働き方も増えてくるだろう。

 さらにAI化が進むと同じ仕事でも生き残る人と消える人が出てくる。例えば営業でルートセールスは不要になるが、人間関係を重視し情に訴える営業は残る。品質管理も通常のものはAIに置き換えられるが、企画立案、戦略決定は残る、というように分岐が鮮明になる。つまり仕事の内容が大きく変わるのである。

 近年、議論になっているベーシックインカムについては、公的職業教育や積極的雇用政策などを先行させ、それでも就業できない人を対象にすべきであると述べた。
小林氏は、AI論議で陥りがちな文明論的な議論に傾斜することなく、あくまで仕事・雇用・労働に視点を置いて分析、今後は分配が問われるので労働組合から積極的に提起していくことが重要と述べた。
 
労働時間短縮で労働分配を高める

 参加者による質疑・討論は、現在進められている安倍政権による「働き方改革」による非正規労働者との格差問題、労働力移動などのテーマに広がった。議論の中で焦点となったのは、AI化により労働の内容が変わると資本にとって労働の意味も変わるので格差や分配が大きな問題になるという点であった。小林氏は労働が企業と結びついて成り立つという関係が変わらないという見方で、80年代初めの電機労連の「ME化3原則」は議論のスタートになるのではないか、と述べた。分配の内容として労働時間短縮を提起していくことが重要ということで議論を締めくくった。(事務局 蜂谷 隆)


10:53
2017/09/09

第25回研究会

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トランプ政権が守ろうとしているのはオールドエコノミー
                  専修大学経済学部教授 鈴木直次氏
                            
 2017年6月3日に開かれた第25回研究会は、専修大学経済学部教授鈴木直次氏に「トランプ政権の通商政策と自動車産業」と題して話していただいた。デトロイトを中心に白人労働者がトランプ当選の後押しをして注目されたが、ビッグスリーはメキシコなど他国に生産拠点を移し、米国での自動車生産を担っているのは日独韓メーカー。技術革新など競争で負けたことが要因。このためビッグスリーの拠点であるデトロイトが崩壊した実情を浮き彫りにした。また、鈴木氏はトランプの通商政策はオールドエコノミーの生産と雇用を守ろうとしており、実現は中長期的には難しいという見方を示した。

トランプ政権の通商政策はいずれ破綻の可能性

 トランプ政権の経済政策は、Trumponomicsと言われているが、大規模な減税を打ち出している。この面ではレーガノミクスの新版という評価がある。他方、10年間で1兆ドルのインフラ投資を行うとしており、この面では1930年代のルーズベルトが行ったニューディール政策の新版と見ることもできる。相反する評価があるということは、両方の側面があることを示している。これに環境やエネルギーなどの規制緩和が加わる。

 また、通商政策は「不公正貿易」によって貿易赤字を強いられているので、二国間交渉で是正することが必要と考えている。ターゲットになっているのは中国、日本、メキシコの3カ国。ただ中国との交渉では、具体的にはすでに決まっているものや小粒なものだけで、ほとんど効果はないのではないか。

 さらに多国間枠組みを否定し2国間交渉へというのが基本的な考えで、TPPは離脱した。NAFTAは離脱ないしは再交渉としていたが、自動車産業からの突き上げもあり離脱の選択肢はなくなった。再交渉も取り上げられているのは「原産地規則」の強化程度。現行の62.5%を上げる。日本メーカーはすでに80%程度まで上げているので影響はないと見られる。

 通商交渉を担う組織的な枠組みを変えようとしたが、結局、商務省が全般的な政策決定を行い、通商代表部が具体的な交渉を行うという従来の枠組みに落ち着いてしまった。

 トランプ政権の政策は、短期的には個別企業への要請などで成果は出るが、長期的には効果は出ないだろう。マクロの政策からすると財政赤字が増加して金利が上昇、ドル高になり、輸出が不振になって輸入が増える。80年代のレーガンノミクスと同じことが起こるのではないか。ラストベルトの製造業を維持するのは非常に難しい。設備の老朽化と技術革新の遅れで生産性は低い。その割には賃金が高い。人材育成も行っていないからだ。
 
日独韓が支える米国の自動車産業
 
 以上の鈴木氏の提起を受けての質疑を行った。NAFTAの「原産地規則」、南北の賃金差、自動車産業は衰退しているのか、といった質問があった。米国の自動車産業は衰退していない。デトロイトが衰退しただけで南部には各社の生産拠点が増え雇用も拡大している。担い手が日独韓メーカーに変わっただけと鈴木氏は答えた。日本メーカーは、ギリギリまでレイオフをせず、また社内での人材育成に力を入れている。こうしたことが受け入れられているのではと述べた。

 トランプ政権の通商政策だけでなく自動車産業の置かれた状況に対する認識を深めることができた。ただ今後の自動車産業はこれまでの延長線上に描くことはできない。鈴木氏も指摘していたが、100年に一度の技術革新が始まっているからだ。米国も日本もドイツもこの渦の中でもがくことになるだろう。(事務局 蜂谷 隆)


11:22
2017/09/01

日本経済シンポジウム

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経済分析研究会設立5周年記念シンポジウム
日本経済、再生か破綻かで議論
                                     
 経済分析研究会が設立されて5年目を迎えた。これまでに24回研究会を行ったが、節目の5周年ということで3月11日にシンポジウムを開催した。会場は100人近くの人が集まり、緊張感のある議論に終始熱気があふれていた。パネラーは法政大学法学部教授水野和夫氏、埼玉大学大学院人文社会科学研究科長伊藤修氏、獨協大学経済学部教授須藤時仁氏、埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授宮﨑雅人氏、進行役は横浜市立大学名誉教授金子文夫氏が行った。シンポジウムの第一部は各パネラーから報告で、第2部はパネラー間の議論とフロアからの質問を受け、議論を行った。

再分配の強化では一致

 水野氏の報告。トランプ大統領の登場の背景には中間層の没落がある。建国以来米国を担ってきた白人労働者の賃金の低下、失業率の増加、自殺率の上昇、薬物中毒の増加である。これはグローバル経済がもたらしたものだ。トランプは国内に製造業による雇用を創り出そうとしている。しかし、世界秩序に対する責任よりも国内を優先しており、世界経済は転換点にきている。日本の賃金は伸びず消費は低迷している。このため投資をしても空き家に象徴されるように、将来家計が不良債権を背負うのではないか。

 伊藤氏の報告。日本経済は3つの分野で良くない状態と悪い絡み合いが生じている。プライベート分野は、企業の横並び行動で共倒れとなった。人件費削減も多くの企業が行ったことで、全体の消費を萎縮させた。マインド面では人々の意識に「やけくそ」が強まり、パブリックな分野で社会保障を狙い撃ちにしている。社会のフレームワークを変えることが必要だ。

 須藤氏の報告。将来に対する不安が高まり安全資産としての貨幣を保蔵する貨幣愛が強まっている。これは90年代後半以降の日本型経済システムの崩壊が背景にある。大蔵省による護送船団方式、メーンバンクシステム、長期雇用慣行、これらに支えられて消費、設備投資が安定し需要が拡大した。企業は、銀行による安全資産を重視する姿勢に転換した。

 宮﨑氏の報告。「自己責任」を強調するという国民の意識とムダの削減の強調で、再分配は限定的になっている。「必要原理」によって財政を立て直していくべきだ。人々の必要を満たすということで財政がきちんと仕事をすることは、結果として再分配もなされるし経済成長にもつながる。

成長をどう見るかで議論

 第2部はまずパネラー間の討論を行った。トランプ大統領の登場による日本経済に対する影響について、水野氏は世界は大きく変わるという見通しを示した。日本経済の現状について伊藤氏は社会民主主義的な方向に持って行くべきだと述べた。話題となっているヘリコプターマネーについては、須藤氏はひとつの選択肢として評価したが、伊藤氏はやっても日銀の金庫に戻るだけと述べた。また日本経済は今後、成長は可能かについても議論があった。水野氏はこれ以上の成長は限度を超えるのではないか、分配に力を入れるべきという見方を示したのに対して、宮﨑氏は負担増になっても「必要原理」で分配すれば、成長も実現できるという考え方を示した。

 フロアからの質問では、トランプ政策の評価では、内向きなのは製造業で金融のグローバル化は変わらないのではないか、GDPの成長率は低くても日本企業は海外での活動にシフトさせたことで利益は増加させているのではないか。再分配の強化の財源は国民負担増=増税しかないのではないか、など鋭い質問、意見が多数出て活発な議論が展開された。(事務局 蜂谷 隆)


10:52
2017/01/13

第24回研究会

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
中国の超格差社会の是正は可能か
                         専修大学経済学部准教授 徐 一睿氏
                  

 12月17日に開かれた第24回研究会は、専修大学経済学部准教授徐一睿氏に「中国経済-超格差社会からの脱出は可能か」と題して話していただいた。中国経済は2000年ころから急激な経済成長を遂げ、国民の生活は向上したが、富裕層が生まれ格差は広がっている。徐氏は、都市化の波の中で都市周辺の農村と地方の農村という形で、農村にも富裕層が登場、格差が多層化している現実を報告、また、所得税が全人口の2%からしか徴収されておらず、このことが格差拡大を助長しているとして、税制改革が必要と述べた。

農村内にも高所得者が増えている

 中国は急激な成長を遂げた。日本を抜いて世界第2の経済大国になった。25年には米国を抜くと見られている。しかし、ひとりひとりの中国人からすると、貧困層、低所得者層も確実に所得水準は上がっているものの、富裕層はもっと上がっているので格差は拡大している。この点は日本など先進国と異なる点だ。

 中国の格差を見る場合、単純に経済成長の恩恵を受けた都市と取り残された貧困な農村の対比で見てはいけない。というのは農村の中に裕福な層が出現している。全国的に都市化が進み、都市周辺の農民は値上がりした土地の売却などで富を得たからだ。

 税制面では、高所得者と低所得者からは所得税は取っていない。さらに固定資産税、相続税、贈与税もない。高所得者を優遇するのは成長力の源泉である彼らのモチベーションを維持するためで、低所得者から税金をとらないのは暴動を恐れるためだ。そして農業税はないので農村からもとらない。所得税は中間層に限定、人口のわずか2%に過ぎない。付加価値税が最高17%かけられており、これが国の歳入の大半を占めている。しかも、内税なので消費者は税金を取られているという認識がない。

 中国経済は今後、成長率は下がるだろう。また、内需主導に転換しなければならない。こうした点から考えると超格差社会の是正が急務になる。そのためには「公平な税制」と社会保障システムの構築が必要となる。農村を特別視しない、制度の一元化をはかることで、都市は社会保障、農村は土地という既存概念を突破することが求められている。徴税コストが低いが逆進性が高い加価値税中心となっている税制を所得税中心に転換すること、高所得者から固定資産税、相続税などを徴収する税制改革が求められるのではないか。

低所得者層の底上げをはかる

 以上の徐氏の提起を受けての質疑の中で、中国共産党について、税制改革は可能なのか、成長率が下がると矛盾が露呈するのでは、といった質問があった。中国共産党が革命で掲げた貧困層に依拠して平等な社会をつくるといった理念は遠い昔の話で、現在の共産党は政権維持のため人事権と財政を使ってうまく統治していると答えた。共産党も農村をひとつに見ており、この考え方を変え省内格差など多層化している現実から出発することがカギではないかと述べた。

 徐氏の中国論は非常に新鮮な感じがした。都市化による農村の変化が格差拡大に大きな役割を果たしているという視点を打ち出しているからだ。また、税制が中国の急成長による社会の変化に追いついていない。というよりも矛盾をきたしているという点も納得できるものだった。(事務局 蜂谷 隆)


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次回研究会案内

第33回研究会

「EU政治の混乱、経済から考える


講師:
田中 素香氏東北大学名誉教授


日時:1019日(土)14時~17時

場所:労働ペンクラブ事務所(地下鉄大手町C2B(経団連)出口、竹橋3B出口徒歩5分(
地図参照

資料代:500円














案内文
 

これまでの研究会

第23回研究会(2016年10月20日)「『同一労働同一賃金』はどこまで可能か」(東京大学社会科学研究所教授 水町 勇一郎氏)


第24回研究会(2016年12月17日)「中国の超格差社会の是正は可能か」(専修大学経済学部准教授 徐 一睿氏)

経済分析研究会設立5周年記念シンポジウム(2017年3月11日)「トランプ米大統領が分断する世界経済-日本経済、破綻か再生か」

第25回研究会(2017年6月3日)「トランプ政権の通商政策と自動車産業」(専修大学経済学部教授 鈴木 直次氏)

第26回研究会(2017年10月14日)「AI革命『激変する雇用としごとの未来』(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林 良暢氏)

第27回研究会(2018年1月20日)「異次元緩和の出口戦略を考える」((株)リコー執行役員・リコー経済
社会研究所所長 神津 多可思氏)

第28回研究会(2018年3月24日)「『一帯一路』でアジアはどう変わるか」(国士舘大学21世紀アジア学部教授 平川 均氏)

第29回研究会(2018年6月16日)「転換期の日本経済 誤った課題設定と翻弄された労働組合」(大東文化大学経済研究所兼任研究員 石水 喜夫氏)

ミニ研究会(2018年9月30日)「米中貿易戦争のゆくえ」(横浜市立大学名誉教授金子 文夫氏)

第30回研究会(2018年11月10日)「ポストアベノミクスの経済政策を考える」(立命館大学経済学部教授 松尾 匡氏)

第31回研究会(2019年4月27日)「『インフラ投資』は中国経済の切り札になるのか」(専修大学経済学部准教授 徐 一睿氏)

第32回研究会(2019年7月13日)「金融政策はどこへ行くのか-主要国中銀の『出口』と日銀」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

これまでの研究会報告