第38回研究会
コロナ禍で雇用のしわ寄せは非正規労働者に
独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏
第38回経済分析研究会は、2021年11月6日「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」と題して独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILT)主任研究員の高橋康二氏が報告を行った。新型コロナウイルス感染拡大で旅行・飲食業を中心に雇用は悪化したが、特に非正規労働者は厳しい状況が続いた。コロナショックの特徴は雇用減ではなく労働時間減が生活悪化に結びついたこと。休業手当を雇用調整助成金で補填する政策が失業者の増大を防いだ。しかし、非正規労働者には不十分だった。また、これまでのキャリアが生かせず、収入減になる転職が多く課題は多いと分析した。
雇用調整助成金が失業・無業化を防いだ
高橋氏はJILTの各種調査を継続的に行っている。コロナショックにおける雇用の状況を詳細に報告した。
コロナショックで就業者数を100万人減らしたが、減ったのは大半が非正規労働者、正規労働者は逆に増加している。非正規労働者の中で特に多いのが、女性が主力のパートやアルバイト。このため女性の就業者数が大きく減った。また、飲食と移動に制限がかかったことで、宿泊業・飲食サービス業が大きな打撃を受け就業者数を減らしている(図)。
コロナショックの最大の特徴は労働時間を減らしたこと。企業が休業手当を出し国が雇用調整助成金で補填した。この政策はコロナの長期化で解雇だけでなく自発的な失業・無業化も防ぐ効果があった。リーマン・ショックの時のような失業者の大幅増加を防いだ。
非正規労働者は労働時間減少→収入減少→家計が赤字化
しかし、いくつかの問題も生じた。ひとつは雇用調整助成金で補填されるにも関わらず、非正規労働者には休業手当が十分適用されなかったこと。このため減収となり家計を赤字化させている。労働時間減少→収入減少→家計が赤字化という連鎖を強めた。
もうひとつは休業手当に頼った半面、転職の問題がおろそかになった。コロナショックは宿泊業・飲食サービス業など特定の業界を直撃したため、業種を超えて転職すると経験やスキルを十分に活かせず月収が低下するからだ。
他方で打撃を受けた宿泊業・飲食サービス業などでは、雇用を継続した人たちも厳しさがあった。緊急事態宣言の繰り返しで先の見えない状況が続いたため、仕事満足度を低下させた。飲食・宿泊業の人の仕事満足度は38.7%も下がっている。お客さんの来ないホテルで掃除するだけの日が続けば、モチベーションは低下するのは当然だろう。また、女性は仕事満足度だけでなくメンタルな面でも指標は明らかに低下している。自殺者増と結びついていると指摘した。
高橋氏は「休業手当による賃金補填だけでは限界がある。活躍できるような転職の仕組みがつくるべき」と述べている。
再就職支援が課題
高橋氏は、コロナ禍で増えたテレワークにも触れたが、総じて緊急事態対応として導入された側面が強く、仕事の充実感、生産性、効率性は低い。総じて、現在の職場では、テレワークはうまくいっていないと評価した。
日本的雇用慣行に由来する正規/非正規の差別があったが、それ以外に「人手不足のため正規労働者を手放したくないので、非正規労働者を解雇・雇い止めする」という別の論理も働いたのではと指摘した。また、急増しているフリーランスについては、非正規労働者よりも苦境に立たされていたと指摘。フリーランス対策は大きな課題となると述べた。
総じて雇用維持のスキームだけでは限界。労働移動も支援の必要性がある。その際には、転職・再就職に伴う収入の低下を抑えることが重要。マッチングの向上とか産業間移動、職業間移動に際して職業訓練を施すことの重要性の述べ講演を締めくくった。
高橋氏の提起を受けて出席者との質疑を行った。フリーランス、女性に対する影響、産業再編成の可能性などで質疑があった。高橋氏の報告は、詳細な調査をもとにしたもので説得力がありコロナ禍の雇用の問題点を浮き彫りにしたと思う。(事務局蜂谷 隆)