第37回研究会
バイデン新政権、「大きな政府」掲げ好スタート
専修大学名誉教授 鈴木 直次氏
第37回経済分析研究会は、2021年7月3日「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」と題して専修大学名誉教授の鈴木直次氏が報告を行った。バイデン政権は、分配重視の「大きな政府」を掲げ、財源は企業と富裕層からの増税というリベラル派の政策を前面に出し、好スタートを切った。コロナ禍だけでなくトランプ政権の反動もあり分配重視を求める声が根強いことが背景にある。他方でトランプ政権と異なり、人権など「理念」優先としているので、米中対立は深まるとした。ただ外交、通商政策は明確化されておらず手探り状況にあると述べた。
「最初の100日」は高い評価
バイデン政権の「最初の100日」について内外のマスコミ等の評価は概して高い。その根拠は①大胆な政策を迅速に出した、②景気は上向きでコロナ対策も成果、③構造問題に切り込んでいる、④昔のアメリカが戻ってきたという安心感、⑤多彩な人達による閣僚人事が政権運営の安定感-などだ。
バイデンは就任早々、大統領令を頻発させた。就任初日にパリ協定へ復帰、前政権の環境関連規制の変更をすべて見直す大統領令に署名した。
最大の課題であるコロナ対策は、公約の1億回のワクチン接種を3月中旬に達成、2億回を4月中旬に終え、感染者数と死亡者数とも抑え込んだ。ただ、どちらも1月前半がピークで、下降局面で大統領に就任したのでラッキーだった面もある。
「統合の危機」に切り込む政策
米国は所得格差が広がり、様々な対立軸によって社会が引き裂かれ「統合の危機」を迎えている。新政権は、これまでのトリクルダウン政策からボトムアップへの転換で福祉政策重視と「大きな政府」への転換を打ち出した。特に低中低所得者、非正規労働者、マイノリティ、女性に焦点を当てている。景気対策だけでなく貧困政策の意味合いを持っている。「統合の危機」に切り込む政策と言える。
具体的には「米国救済計画」、「米国雇用計画」、「米国家族計画」を打ち出した。このうちコロナ対策である1.9兆ドルの「米国救済計画」はすでに成立させている。
「米国雇用計画」は、8年間で総額2.7兆ドルの巨大な投資を行い、構造的な弱点と不平等を抱える古い経済を修復し作り直すと位置づけている。全米のインフラの改修を行い雇用創出する。1950年代の州際ハイウェイの建設、60年代の宇宙開発に匹敵と言われている。
「米国家族計画」は、教育機会の拡大(教育費負担軽減)、育児・介護や医療への支援、実質上の子ども手当の支給などを通じて、格差の是正を目指すとしている。
財源は「米国雇用計画」は企業増税で、連邦法人税率を引上げるほか、化石燃料への優遇税制の廃止、租税回避規制の厳格化・法人税徴収体制を強化する。「米国家族計画」の財源としては富裕層に増税する。連邦個人所得税の最高税率と富裕層のキャピタルゲイン課税も引き上げる。
外交政策の基本は、米主導の国際秩序の復活を目指すことだ。対中強硬姿勢は維持、中国を「国際秩序に挑戦する唯一の競争相手」、米中対立を「民主主義対専制主義の闘い」と規定している。理念主義の傾向が非常に強く問題が深刻になる可能性がある。
通商政策も製造業の保護と雇用創出を前面に出しており、保護主義と産業政策を一体化した面もある。TPP再加盟はないだろう。
共和党支持者も経済政策は支持
中道のバイデンはリベラルに変わった。これは国民が共和党支持者を含め「左」に移ってきているからではないか。共和党支持者も経済政策は3-6割が支持している。つまり、国民の多くが「大きな政府」を支持するようになったのでバイデンの政策も変わったということだ。民主党と共和党は、イデオロギーでは対立するが経済問題では接近している。
以上の鈴木氏の定期を受けて出席者との質疑を行った。TPP再加盟問題、「大きな政府」、政府の債務負担など巡って質疑があった。鈴木氏の報告は、バイデン政権の政策を整理して分かりやすく課題や問題点が浮き彫りになった。(事務局蜂谷 隆)