孤立しないためのゆるい絆
街角ウオッチャー 金田 麗子
引き取り手のない遺体が増えているという。引き取る家族や親族が見つからない、身元がわかっても家族や親族に引き取りを拒まれるなどの事例が急増しているという。(2024年6月9日付け「朝日新聞」)
独自の取り組みをしている横須賀市では、1990年代からこうした事例が増え始め、近年は年間50~60件にのぼるという。身寄りがない高齢者と葬儀社との間で、葬儀納骨の生前契約を結び、あらかじめ費用を預託し、死後に履行されることを横須賀市が確認する取り組みをしている。
高齢化や単身化などを背景に、頼れる身寄りのない高齢者が直面する課題は多岐にわたっている。病院や施設に入る際の保証人や手続き、葬儀や遺品整理など家族や親族が担ってきた役割を果たす人がいない高齢者が増え、サービスを提供する民間事業者は増えたが、100万円単位の預かり金が必要でトラブルも増えている。
このため厚生労働省は公的支援の仕組みを検討し、モデル事業を始めるという。一つは市町村や社会福祉協議会などに相談窓口を設け、「コーデイネーター」が配置相談に乗る。日常の困りごと、終活、死後の遺品整理などの相談を行い、それぞれ専門職や委任できる業者につなげ契約手続きを支援する。
もうひとつは市町村の委託、補助を受けた社会福祉協議会などが、介護保険などの手続き委任、代行から金銭管理、近況連絡先としての受諾、死後対応などをパッケージで提供。国による補助で少額でも利用できるようにする。
国が制度化を検討する背景
国立社会保障・人口問題研究所推計によると、65歳以上の一人暮らし世帯は2020年の738万人から2030年には887万人、2050年には1084万人へと増加。65歳以上の「独居率」は50年には男性26.1%、女性は29.3%に達する。さらにそれぞれ独居の人のうち男性の59.7%、女性の30.2%が婚姻歴がないと見込まれる。さらに子どもも兄弟もおらず、近親者がいない独居高齢者の急増も想定。
低所得者でも利用できる、生活支援から死後対応まで長期間伴走し、必要な支援をコーデイネートしていく地域の仕組みが求められている。
「東京ミドル期シングルの衝撃」(東洋経済新報社)は、東京区部単身者の4割近くを占める35歳から64歳を対象に研究をまとめた。013年に開始した新宿区の調査を踏まえてその後23区に広げ、約10年に及ぶ研究をまとめたもの。
著者の一人である宮本みち子さん(2024/4/11読売新聞)は語る。「今やシングルはマイノリティではない」
彼らの一番の不安は寝込んだときにどうするかだ。仕事中心で親族との交流の頻度が少なく、「親密圏」を持たない人が男性で目立つ。新たな親密圏の築き方として、家族の見直しによる多様な親密圏を広げる。もう一つは住宅。孤立した住宅でなく、プライバシーを確保しながら共同生活のメリットを増やしていく住まいの多様化。「従来の地縁共同体に頼る発想から多様な弱い絆を増やす発想転換が必要」と言う。
自由と仲間の助け
横浜市の寿地区は1956年頃から、日雇い労働者向けの簡易宿舎が集まってきたが、長引く不況の影響で労働者が減り、横浜市によると2013年度には、65歳以上の住人の割合が全体の50%を超え、その後も高齢化が進んだ。失業や病気など様々な問題を抱える人が増えた。
2018年に開業した「コムラード寿」は、介護ベッドを配置できる広さの間取りを確保、持病がある人のために24時間職員が常駐し、部屋にも緊急ボタンが導入されている。
その他近年建設された簡宿の多くも、高齢者や身体障がい者でも利用しやすいように、段差を解消したり、エレベーターを設置したりしている。地区のほぼ全域の簡宿に、介護サービス業者が出入りし、入居者の入浴支援などを行っている。さらに「自由さ」が簡宿の魅力。外出、食事、喫煙など、制約の多い介護施設などとの違いがある。(5月26日付け「朝日新聞」)
9年前11人が死亡した川崎市日新町の簡宿のあった地域は、市が転居指導しても、生活保護受給者は2024年3月現在で238人、65歳以上が73%である。簡宿に頼っている人は、「アパートでは、風呂の掃除もごみの分別も全部ひとりでやらなくてはならない。でも簡宿では仲間に助けてもらえる」と言う。(5月18日付け「朝日新聞」)
なるほど。宮本さんが言う「多様な弱い絆」ってこういうことかと思う。
個々人の境遇に寄り添い具体的なニーズにこたえる
私の勤務先の精神障がい者グループホームの近くに、県住宅供給公社のシニア向け集合住宅が建設中で、収入に応じて住宅費補助が付き、見守り機能が付く。
グループホームが開設以来20年入居しているメンバーのAさん(76歳)に、ホーム側がシニア住宅への入居を進めたところ、Aさんは血相を変えて怒った。「死ぬまで居られるというから来たのに」。
意外だった。Aさんは自立度が高く、通所先の作業所でも中心的な活動をしているし、ホームでも生活全般一人で何でもできる。当然独居生活を望み喜ぶかと思った。しかし違った。
独身のAさんは殆ど身寄りがない状態だ。グループホームの生活が、安心の担保だった。支援者側の思い込みがAさんの不安を無視するところだった。
「個々人の境遇に寄り添って、具体的なニーズに応答するのがケアの倫理である」(「群像」7月号「ケアの現在地」小川公代)ことを痛感した。