第39回研究会
資本主義の役割は終わった
法政大学教授 水野和夫氏
岸田首相が「新しい資本主義」を唱えたこともあって資本主義の行方に対する関心が高まっている。経済分析研究会では、資本主義に対する根源的な問いかけを続けている法政大教授の水野和夫氏に「『新しい資本主義』から考える資本主義の未来」と題して報告をしていただいた。水野氏の報告は3回目だが、持論の軸は変わりないが、さらに厚みを増した内容だった。資本主義が機能不全に陥っているが、こういう時代には過剰な資本を有効に使う以外ないと述べた。
ゼロ金利の意味するもの
「歴史の危機」というのはこれまでの社会秩序が維持できなくなっていることで、かつ次のシステムがまだ現れていない状況を指す。まさに今が「歴史の危機」にある。「歴史の危機」を知るための手がかりは、ゼロ金利の長期化にある。過去を紐解くとゼロ金利は歴史の危機に現れるからだ。
歴史的には金利が1%を下回るとほとんど投資先はなくなる。ゼロ金利は投資先がないことを意味する。つまり現在も10年後も同じだということで、現在が最も豊かだということを意味する。ということは10年先に豊かになるために貯蓄する必要がなくなるので、投資をこれ以上する必要がなくなるからだ。既存の資本で十分ということになるので資本の自己増殖をめざす資本主義も必要なくなる。資本主義の役割は終えつつあることを意味する。
しかし、現実はそうなっていない。1990年代ころから資本の自由化、金融ビッグバン、労働の規制緩和などが行われ、企業利潤率のもととなるROE(自己資本利益率)を上昇させてきた。預金金利は1%なのにROEは6-7%になっている。その結果、企業に460兆円の内部留保が積み上がった。
しかも、新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックになったにもかかわらず、総資産が10億ドル(約1200億円)以上の世界の超富裕層がパンデミックの間に増加させた資産は、コロナ前の14年間で増加させた額より多い。他方で絶望死が増えている。
内部留保を吐き出させる
なぜこのようなことが起こっているのか。水野氏は資本のふたつの定義の比較で説明できるという。ひとつはマルクスの言う「唯物論者の資本」で、G-W-G’。元手が商品になってその後、元手以上の現金になって返ってくる。これを繰り返す。つまり生産を通じて利息がつく。この資本は「常態における資本」と言うことになる。生活水準の向上に役立ってきた。
もうひとつの「資金主義者の資本」でG-G’となる。「資金主義者の資本」は国民の救済の役割を持つが、パンデミックになっても救済に当たらなかった。逆に便乗して富を増やした。
「唯物論者の資本」は固定資本は、「資金主義者の資本」は内部留保金と見なすことができる(図)。1960年以降の推移をグラフにすると、固定資本は1990年代半ばからほぼ横ばいになっていることが分かる。
企業の内部留保のうち低い金利でガマンを強いた預金者と低賃金に留めた従業員に返金すべきだ。それができないのであれば企業が内部留保で国債を購入すればいい。また、個人金融資産は2023兆円ある。このうち30兆円が相続対象資産で毎年増えていく。最高税率が適用されれば15兆円近い税収増となる。
相続税の強化だけでなく、企業の当期純利益の過剰な分にサーチャージを課せば毎年16兆-24兆円確保できる。これらを財源にして試算してみると毎年28.2兆円から36.3兆円を捻出できるので思い切った分配政策が可能となる。
ポスト資本主義は定常社会
資本主義の「中心概念」は資本(コイン)だったが、ポスト資本主義は舞台芸術になるのではないか。生活に余裕ができるので人間性向上が時代の中心になるということのようだ。経済構造は「投資中心、経済成長、プラス金利」から「個人消費支出、定常状態、ゼロ金利」に変わり行動原理も「より速くより遠く、より合理的に」から「よりゆっくり、より近く、より寛容に」と変わると提起した。
質疑では、ポスト資本主義の経済システムや「地域帝国」の概念のほか円安をどう見るかなど多数の質問があり、議論を深めることができた。(事務局 蜂谷 隆)