欧州経済、エネルギーのロシア依存度が高く苦慮
東北大学名誉教授 田中 素香氏
ロシアによるウクライナ侵攻で軍事的緊張が高まり、NATO、EUの結束は強まっているが、エネルギーのロシア依存度が高いためヨーロッパ経済は厳しさを増している。経済分析研究会では、2022年11月12日、ヨーロッパ経済について長年研究してきた田中素香氏を招いて欧州経済の実態について報告していただいた。ロシアからの原油、天然ガス供給が止まり、インフレから金利引き上げが進むのでヨーロッパ経済はさらに厳しくなる。EUはエネルギー共通政策によって危機を乗り切る以外ないだろうとの見方を示した。
対ロシアで結束だが差異も
EUとイギリスは、ウクライナ支援に積極的な姿勢を示している。ロシアへの経済制裁もEUの全加盟国が賛成しており、ウクライナをEU加盟国候補として認めている。さらにロシアに融和的な態度をとる中国に対しても非常に厳しくなっている。EUは元をたどると「不戦共同体」でヨーロッパの不戦は80年続いてきた。その「ヨーロッパ不戦80年」をプーチンが破壊したと見ていることもあり、各国ともEU支持の世論が高まっている。
とはいえロシア制裁をめぐってEU内に差異がある。バルト3国、ポーランド、チェコなど中東欧諸国はウクライナに全力支援だ。他方、フランス、ドイツ、イタリアは、ロシアも同じヨーロッパだから共存共栄という考え方が強い。早期戦争終結、核兵器不使用でロシアを説得にあたっている。
その西欧の中でも差がある。イギリスは反ロシアだが大陸は親ロシアが定着していた。戦後共産党が強く反米親ソだったこともある。イタリアは左派、右派とも親ソだった。この流れは続いている。
加えてロシアに対するエネルギー依存度が国によって異なる。フィンランド、中東欧諸国は100%、ドイツも50%ロシアに依存しているが、フランスは10%程度でイギリスはほとんど輸入していない。
ロシア依存度が高いドイツは揺れている
こうした中でEU最大の大国ドイツの対応が揺れている。ドイツは、西独時代にブラント首相が東方政策をとり、旧ソ連圏に対して融和政策に転換、ソ連からの天然ガスのパイプラインを敷設した。ドイツ統一後、メルケル政権はさらにロシアへの依存を強めた。「エネルギー重商主義」という批判もあるほどだ。メルケル氏は、対ロシア、対中国だけでなく、自国の利害を優先しEUのまとめ役としての責務を果たさなかったと田中氏は厳しく批判した。
共通エネルギー政策に活路
コロナ禍は、経済だけでなく社会に大きな痛手となった。そこでEUは経済回復に向け復興基金をつくり動き出す矢先にウクライナ戦争が始まった。ロシアからのエネルギー供給が厳しくなり、消費者物価上昇率が上昇したことで、ECB(欧州中央銀行)は引き締め政策に転換、景気後退覚悟で利上げに向かっている。
IMFの経済見通しでは、経済の落ち込みの影響は長引くと見ている。2030年くらいまでは成長率も下がるだろう。EU経済の活性化に向けた施策のヒントはコロナ対策として始めた「復興基金」だ。100兆円の復興基金はコロナで落ち込んだ中東欧諸国とイタリア、スペイン、ギリシャなど南欧諸国向けにグリーン化、デジタル化などのため返済不要の資金提供を行っている。この効果は大きくイタリアのポピュリスト政権のEU批判も止まったほどだ。
ドイツはエネルギーの脱ロシア化策として、浮体式LNG設備(貯蔵LNG船)を5隻つくっている(3隻は完成)。また、石炭を復活、22年末で止める予定だった3基の原発を23年4月まで延期するなどの施策を駆使している。綱渡りは続くだろう。
EUとしては、グリーン化を進めつつ原油、天然ガスを共同調達する共通エネルギー政策が考えられる。原油などの共同輸入だけでなく、備蓄の義務づけや暖房温度の設定などだ。
つまり、ウクライナ戦争からの復活のために、もうひとつ復興基金をつくるというアイデアだ。この考え方は財政同盟につながるもので、そこに行かないと収まらないと田中氏は強調した。