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2020/12/02

第35回研究会

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
現場から見たバブルの形成から崩壊を克明に報告
                   金融取引法研究者 笠原一郎氏

 第35回経済分析研究会は、「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」と題して金融取引法研究者笠原一郎氏が報告を行った。笠原氏は1981年から2014年まで日本証券金融に在籍、バブル化から崩壊、金融危機そしてリーマン・ショックという激動の30年余を金融業界に身を置いてきた。今回の研究会報告は、この経験から自分史と絡み合わせて金融の歴史を紐解いた。

 今回は、会場での参加に加え初めての試みとしてzoomによるオンライン参加を行った。

80年代の株取引事件に裏社会が関与

 笠原氏が在籍した日本証券金融は、信用取引における融資・貸株といったバックファイナンス機能を持つ証券金融会社で、空売りができるので相場師、仕手筋がこれを使うケースが多い。このため株取引の裏側を知る立場にあるという。

 80年代はJapan as No.1と言われた時代で、金利は下がり余剰資金が大量に株式市場に流入、多くの人が株は下がらないと信じていた。株式市場は相場師と仕手戦の時代だった。情報をいち早くキャッチ、買い集め売り抜くというものだ。当時はインサイダー取引規制もない時代で、要件整備と罰則化されたのはタテホ化学事件(1987)以降だ。
 
 笠原氏は、報告の中でいくつかの事件を取り上げた。相場師小谷光浩による 蛇の目ミシン株買い占め事件、雅叙園観光事件、平和相互銀行事件などは暴力団が関与、相場師と大手銀行も絡んで最後は逮捕・起訴となるが、自殺、射殺などという展開も少なくなかった。裏社会が株式市場に次々入ってきたのである。まさに「(証券会社は)船底一枚下は地獄」という状況だったのである。

 バブル経済が崩壊し、銀行には不良債権が膨張、金融危機となった。当時、強い国際競争力を保持していた日本の銀行の力を弱めるためBIS規制(自己資本比率規制の強化)が行われ、不良債権を増やす要因となった。そこで政府は金融システム改革を打ち出したが、住専の不良債権処理を公的資金注入で解決しようとして世論の反発にあい迷走した。

 97年秋の三洋証券による会社更生法適用申請の2日前に笠原氏に電話が入り、処理に奔走したという。インターバンク市場では、一行が破綻すると猜疑心が強まり資金調達できなくなり、拓銀が破綻した。次に損失隠しが表面化した山一証券が自主廃業、さらに長銀、日債銀の経営が傾き98年10月に金融安定化法案成立となった。

 小泉政権で竹中金融担当相が打ち出した厳格化を求める金融再生プログラムによって、不良債権はさらに増加した。政治家が口を出し始めたのもこの時期だ。笠原氏は当時モフ担(財務省担当)で、財務省に「塩爺(塩川財務相)ファイル」があるのを見たという。また、金融庁は株価下落は空売りが原因とみなし、日本証券金融に空売り規制せよと言い出した。笠原氏は金融庁に「ルール上、空売り規制はできない」と反論したが、その後、空売り規制違反で外資系証券会社に対する処分を連発した。

 2003年にりそな銀行に公的資金を注入し、ようやく日本経済は上向くが、この時、登場したのがホリエモンと村上ファンド。堀江氏のやり方は「ITの仮面をつけたギャンブル会社」、村上ファンドも脅しの手法でそれまでの買い占めファンドと同じで「バブルのあだ花」と断じている。
 
資産は見えない価値にある 

 時間の関係でリーマン・ショックについてほとんど触れられなかったのは残念だったが、詳細な内容はバブル時代から崩壊をたどる日本金融のプロセスを改めて捉え返す上で資料としても価値があるのではないか。

 最後に笠原氏は、日本経済再生には潜在する資産を生かすことが必要と述べた。経済の流れは、AI、知財、暗号資産など見えない資産にシフトしている。英国の「金融立国」復活モデルには、大英帝国時代のCITY・租税回避地という裏の仕組みの遺産があった。このイギリスの例から示唆されるのは、潜在資産をどう生かすかにあるという提起もおもしろいと思った。(事務局 蜂谷 隆)


16:39

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講師:加納啓良氏(東京大学名誉教授)

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