行き詰まりを見せる韓国の「輸出主導型成長モデル」
福島大学経済経営学類教授 佐野 孝治氏
2月15日に開かれた研究会は、福島大学経済経営学類教授の佐野孝治氏に「厳しさ増す韓国経済」と題して話していただいた。佐野氏は、文在寅政権は「所得主導政策」で内需主導型への転換をはかろうとしているが、1997年以降続けてきた「輸出主導型成長モデル」から脱却できず、むしろ行き詰まりをみせているとした。
中国依存がマイナスに作用
1997年のアジア通貨危機を経て韓国経済がとってきた「輸出主導型成長モデル」は、97年以前の「国民経済指向型成長モデル」から転換させたものだが、グローバル経済化の進展と中国の台頭という韓国経済を取り巻く環境の変化に対応したモデルと言えた。
その結果、当然のことだが輸出依存度は高まった。1990年代半ばにGDP比で25%台だったのが2017年は37.5%となったが、経済成長に大いに寄与した。輸出の成長寄与度が最も高かった2011年では実質成長率3.6%に対し5.3%の寄与度となった。
まさに輸出主導型で経済成長を成し遂げたのだが、資材も部品も技術もグローバルに調達するため世界経済が停滞すれば輸出は減少する。金融情勢にも左右される。それ以上に問題なのは、中国への依存度を増したことだ。半導体産業を中心として、中国を軸とするグローバル・サプライ・チェーンに組み込まれたのである。
中国経済が順調な時はいいが、米中貿易摩擦で中国経済の成長が鈍化すると大きな影響を受けてしまう。一時的に対米輸出が増え「漁夫の利」を得たものの、中長期的にはダメージは少なくない。また、徴用工問題から悪化した日韓関係によって、日本が行った「ホワイト国外し」なども日本が独占的に生産し、供給する半導体生産に不可欠な素材に打撃を与えるわけで、韓国経済の脆さを衝かれる形となった。
さらに「輸出主導型成長モデル」は、内需を長期的に停滞させ経済成長率の鈍化を招いた。もともと財閥系企業の独占体制による歪みという問題も抱えているのだが、低賃金周辺労働者や外国人労働者の増加だけでなく中間層の没落による韓国社会の二極化と階層の固定化を招いたのである。
持続可能でない文在寅政権の「所得主導成長」政策
そこで文政権は、「所得主導成長」を掲げ、最低賃金の大幅引き上げや働き方改革で雇用の創出を図り、家計への所得分配を拡大させ、国内需要を拡大して好循環を生み出す成長モデルへの転換をはかろうとした。
具体的には最低賃金を2018年に16.4 %、19年に10.9%増と一気に引き上げたほか、公共部門の雇用拡大、基礎年金、失業手当の増額、児童手当の創設などを行った。このため再分配後所得のジニ係数は改善された。格差是正の効果はあったと言える。しかし、急激な人件費の高騰で自営業者が廃業などに追い込まれたため、20年は2.9%引き上げ率を下げざるを得なかった。財政も支出拡大で悪化した。佐野氏は、政策の方向性は悪くなかったが、持続可能な政策と言えないと疑問を呈した。
韓国経済「崖っぷち論」は当たっていない
このように、韓国経済は「輸出主導型成長モデル」 から容易に抜け出す道がないのが現状だが、佐野氏は、韓国経済はこれまでも外的ショックに対して経済・経営システムも進化させてきた。グローバリゼーションに対する強靭性も持っているので「崖っぷち論」も「セルコリア(韓国売り)」等の危機論はあてはまらないと見ている。
出席者との討論の中で焦点となったのは、環境整備をせずに最賃を急激に上げたことだが、佐野氏は「文政権は最賃をあげれば経済はうまく行くと信じていたのではないか」との見方を示した。