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2020/04/27

第33回研究会報告

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
EUは微速前進、ポピュリズムは退潮傾向か
                     東北大学名誉教授 田中 素香氏

 10月19日に開かれた第33回研究会は、東北大学名誉教授の田中素香氏に「EU政治の混乱、経済から考える」と題して話していただいた。田中氏はポピュリズムをキーワードにしてブレグジット、東西ドイツの格差問題、東欧諸国の政治動向などを詳細に報告した。EU統合の崩壊はあり得ず微速ながら前進しているとの見方を示した。

ポピュリズムの高揚の背景は第2次グローバル化

 2010年代は1930年代と並ぶポピュリズムの時代と言われている。その支持者は低学歴・低所得・ブルーカラー(非正規労働者)とされる。背景には格差の拡大や第2次グローバル化がある。サッチャー、レーガン政権以降の最高所得税率などの極端な引き下げで富裕層は莫大な富を得た。また、先進国の製造業は生産拠点を低賃金国に移す第2次グローバル化が進んだ。非正規雇用が増加、労組の弱体化で左派は中道左派、右派は中道右派になった。左右両翼が空きそこにポピュリズムが入ってきた。
 ユーロ危機でギリシャなど南欧諸国が不況になり、ECBによるマイナス金利や金融緩和策で、ようやくリーマン危機前の成長率に戻ったのが15年、そこにシリアからの大量難民が流入してきた。
 国民投票で国論は二分されたイギリスのEU離脱問題は、地域と世代ではっきり分かれている。焦点の北アイルランドはプロテスタント地域とカトリック地域で二分している。仕事や就職などでEU諸国と行き来している地域・階層は残留を支持している。離脱が多数になったのは、格差を拡大した金融中心の経済モデルの失敗を意味している。大ブリテン島と北アイルランドで一国二制度を作るしかないだろう。

 ドイツのポピュリスト政党AfDは東独を基盤としている。ナチス賛美の背景には、ナチスは西独資本主義の所産で反省の必要はないとするかつての東独の歴史認識がある。しかも、東側は統一でインフラは整備されたが、東側に本社を移した西独の大企業はゼロ。国有企業は民営化し倒産、失業者も増えたが、大企業は賃金がさらに低いチェコ、ポーランドに製造拠点を移した。今後、人口も労働人口も東側は極端に減少すると予測される。東西格差はさらに広がるだろう。統一を急ぐべきでなかった。

 東欧のポピュリズムは、ポーランドとハンガリーは、反EUで独裁、言論の自由はない。
EU加入で両国とも企業を受け入れて成長、加入効果はあったのだが、ハンガリーは親中親露、ポーランドは反独親米だ。
 EU28カ国の中国からの輸入は急増、輸出以上に増えたため対中国では赤字だ(図参照)。経済大国になった中国は外交姿勢を「強国外交」に変えた。対EU政策の柱は一帯一路で、東欧16カ国と毎年首脳会議を開催、他方でギリシャ危機時の援助などで影響を強めている。アテネに近いピレウス港の支配権を得て整備、同港を起点に物流網が作られつつある。また、中国企業の直接投資はハイテクが中心、100%出資や合弁が多くドイツは警戒感を強めている。

独の緑の党とSPDが組めば変わる

 19年の欧州議会選挙、イタリアの政権組み替えなどを見ると、ポピュリズムの時代は終わったとは言えないが、退潮傾向にあると言える。微速前進のEU統合の今後は持続可能な成長、格差・差別・貧困対策、気候変動やデジタル革命への対応などが課題となる。ドイツでは若者の支持で緑の党が伸びた。緑の党が総合的な政策能力を持ちSPDと組めばかなり変わるだろう。

 参加者からの質疑では、ブレグジットでの労働党の動き、独仏の態度のほか、ドイツの社民、緑の党の動き、中国の一帯一路の評価などで活発な論議などが交わされた。(事務局 蜂谷 隆)


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「21世紀のインドネシア経済-成長の軌跡と構造変化」

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