これまでの研究会

これまでの研究会 >> 記事詳細

2019/10/21

第32回研究会報告

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
主要国中銀の非伝統的金融緩和
再び緩和政策に向かう各国中銀の中で行き詰まる日銀

専修大学経済学部教授 田中 隆之氏

 7月13日に開かれた第32回研究会は、専修大学経済学部教授田中隆之氏に「金融政策はどこへ行くのか-主要国中銀の『出口』と日銀」と題して話していただいた。田中氏は各国中銀の非伝統的金融緩和を詳細に分析、各国中銀が出口を考えながら緩和政策を行ってきた中で、出口戦略のない日銀による緩和の問題点を指摘した。特に政府の負債が多額な現状では緩和のし過ぎは危険と警鐘を鳴らした。

「インフレ予想形成」は疑問

 田中氏は、非伝統的金融緩和を大量資金供給、大量資産購入、フォワードガイダンス、相対型貸出支援、マイナス金利政策の5つに整理、それぞれの問題点を指摘した。
 
 「大量資金供給」は、銀行が中銀に預ける準備預金を増やすことでコールレートを下げ、企業への貸し出しを増やす狙いがあるが、貸し出し増は準備預金残高ではなく自己資本に規定される。準備預金を増やしただけでは長期金利は下がらず信用創造は起こらないと述べた。

 「大量資産購入」は長期国債大量購入と別に民間資産の買い入れがある。その代表格は日銀によるETF(上場投資信託)とJ-REIT(不動産投資信託)購入。資産価格の引き上げによる景気刺激に狙いがある。

 「フォワードガイダンス」は、中銀が将来の短期金利を低く抑えること約束をするもので、長期金利も下がる。日銀による2001年からの量的緩和政策に含まれていた。効果は実証されている。「インフレ予想形成」は、目標の物価上昇率を超えれば引き締めに転ずると人々が思えば効果はない。また、高いインフレ率を唱えないと効果が出ないなど疑問が多いとした。
 マイナス金利政策は、マイナス0 .1%にして長期金利を下げたが、イールドカーブがフラット化したことで銀行は利ざやが取れず経営が厳しくなり、うまくいっていない。

 各国中銀を見るとFRB(米連邦準備制度理事会)は量的緩和を3回実施後、物価上昇率2%達成前に利上げを開始、テーパリング、再投資縮小も始めた。BOE(イングランド銀行)は2回実施したが、資産購入はやめてフォワードガイダンスに変更。ECB(欧州中央銀行)はマイナス金利を4%まで下げた後、国債を購入したが、その後やめた(図表参照)。
 

財政破綻スパイラルを起こさずに資産購入から撤退が課題

 各国中銀が早めに出口に向かったのに対し、日銀の出口はまったく見えない。「2%物価上昇」は6年経っても達成せず失敗、さらに日銀の債務超過になる可能性や財政破綻の可能性を高めただけでなく、利ざや縮小による金融機関収益の圧迫もある。こうした厳しい状況の中で「出口」戦略を考えると、財政破綻スパイラルを起こさずに資産購入からどう撤退するか課題となる。そのためには「2%物価上昇」を長期的目標にして長短金利操作を停止、量的緩和に戻して少しずつ購入量を減らし、市場に長期金利急上昇抑制を織り込ませることが必要と述べた。

 ただ世界は再び金融緩和方向へと動き始めたので日銀は厳しくなった。考えられる緩和策はマイナス金利の深掘り、10年物国債金利誘導目標引き下げのほか「2020年春ごろまで低い長短金利維持」というフォワードガイダンスの強化も考えられる。
  
 金融情勢の展望としては、金融正常化といってもゼロ金利以前に戻ることはない。各国中銀は国債を抱えながら超過準備への付利の調整になるとの見通しを示した。問題は緩和のし過ぎは財政の持続可能性の維持と対立することにあると述べた。
 
 参加者からの質疑では、MMT(現代貨幣理論)に対する評価については、理論的にはあり得るが、現実的にはムリと否定的な見方を示した。日銀の破綻はあり得るのか、日銀が準備預金に付ける付利などで活発な論議などが交わされた。



09:54

LINK

次回研究会案内

第44回研究会
「21世紀のインドネシア経済-成長の軌跡と構造変化」

講師:加納啓良氏(東京大学名誉教授)

日時:5月11日(土)14時~17時

場所:専修大学神田校舎10号館11階10115教室(会場が変更となりました。お間違えないように)

資料代:500円
オンライン参加希望者は、以下の「オンライン参加申し込み方法」をお読みの上、トップページの「メルマガ登録」から参加申し込みしてください。
オンライン研究会参加申し込み方法

 

これまでの研究会

第34回研究会(2020年2月15日)「厳しさ増す韓国経済のゆくえ」(福島大学経済経営学類教授 佐野孝治氏)


第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12f日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授田中隆之氏)

これまでの研究会報告