主要国中銀の非伝統的金融緩和
再び緩和政策に向かう各国中銀の中で行き詰まる日銀
専修大学経済学部教授 田中 隆之氏
7月13日に開かれた第32回研究会は、専修大学経済学部教授田中隆之氏に「金融政策はどこへ行くのか-主要国中銀の『出口』と日銀」と題して話していただいた。田中氏は各国中銀の非伝統的金融緩和を詳細に分析、各国中銀が出口を考えながら緩和政策を行ってきた中で、出口戦略のない日銀による緩和の問題点を指摘した。特に政府の負債が多額な現状では緩和のし過ぎは危険と警鐘を鳴らした。
「インフレ予想形成」は疑問
田中氏は、非伝統的金融緩和を大量資金供給、大量資産購入、フォワードガイダンス、相対型貸出支援、マイナス金利政策の5つに整理、それぞれの問題点を指摘した。
「大量資金供給」は、銀行が中銀に預ける準備預金を増やすことでコールレートを下げ、企業への貸し出しを増やす狙いがあるが、貸し出し増は準備預金残高ではなく自己資本に規定される。準備預金を増やしただけでは長期金利は下がらず信用創造は起こらないと述べた。
「大量資産購入」は長期国債大量購入と別に民間資産の買い入れがある。その代表格は日銀によるETF(上場投資信託)とJ-REIT(不動産投資信託)購入。資産価格の引き上げによる景気刺激に狙いがある。
「フォワードガイダンス」は、中銀が将来の短期金利を低く抑えること約束をするもので、長期金利も下がる。日銀による2001年からの量的緩和政策に含まれていた。効果は実証されている。「インフレ予想形成」は、目標の物価上昇率を超えれば引き締めに転ずると人々が思えば効果はない。また、高いインフレ率を唱えないと効果が出ないなど疑問が多いとした。
マイナス金利政策は、マイナス0 .1%にして長期金利を下げたが、イールドカーブがフラット化したことで銀行は利ざやが取れず経営が厳しくなり、うまくいっていない。
各国中銀を見るとFRB(米連邦準備制度理事会)は量的緩和を3回実施後、物価上昇率2%達成前に利上げを開始、テーパリング、再投資縮小も始めた。BOE(イングランド銀行)は2回実施したが、資産購入はやめてフォワードガイダンスに変更。ECB(欧州中央銀行)はマイナス金利を4%まで下げた後、国債を購入したが、その後やめた(図表参照)。
財政破綻スパイラルを起こさずに資産購入から撤退が課題
各国中銀が早めに出口に向かったのに対し、日銀の出口はまったく見えない。「2%物価上昇」は6年経っても達成せず失敗、さらに日銀の債務超過になる可能性や財政破綻の可能性を高めただけでなく、利ざや縮小による金融機関収益の圧迫もある。こうした厳しい状況の中で「出口」戦略を考えると、財政破綻スパイラルを起こさずに資産購入からどう撤退するか課題となる。そのためには「2%物価上昇」を長期的目標にして長短金利操作を停止、量的緩和に戻して少しずつ購入量を減らし、市場に長期金利急上昇抑制を織り込ませることが必要と述べた。
ただ世界は再び金融緩和方向へと動き始めたので日銀は厳しくなった。考えられる緩和策はマイナス金利の深掘り、10年物国債金利誘導目標引き下げのほか「2020年春ごろまで低い長短金利維持」というフォワードガイダンスの強化も考えられる。
金融情勢の展望としては、金融正常化といってもゼロ金利以前に戻ることはない。各国中銀は国債を抱えながら超過準備への付利の調整になるとの見通しを示した。問題は緩和のし過ぎは財政の持続可能性の維持と対立することにあると述べた。
参加者からの質疑では、MMT(現代貨幣理論)に対する評価については、理論的にはあり得るが、現実的にはムリと否定的な見方を示した。日銀の破綻はあり得るのか、日銀が準備預金に付ける付利などで活発な論議などが交わされた。