途上国のインフラ投資支援
政府・企業レベルの日中共同参加が求められる
専修大学経済学部准教授 徐 一睿氏
2019年4月27日に開かれた第31回研究会は、専修大学経済学部准教授徐一睿氏に「インフラ投資は中国経済の切り札になるのか」と題して話していただいた。徐氏は中国のインフラ投資の中でも、一帯一路などで途上国に対する投資を中心にその役割について論じた。途上国のインフラ需要は強く、資金が足りない。日本など先進国が逃げ腰になっている中で、中国がやらざるを得なくなっている。今後は中国単独ではなく、日本などとの共同参加が必要なことを強調した。
途上国のインフラニーズは強い
インフラ投資は途上国とっては極めて重要で、実際に日本が調査したデータを見ても、アジア諸国は極めて強いインフラ整備のニーズがある。しかし、資金不足はボトルネックとなって進まないというのが現状だ。中国は途上国とはいえ、すでにインフラ整備がかなり進んでいるため、中国の余剰資金を資金不足の途上国に移すことは理にかなっている。一帯一路自体の評価があることは分かるが、途上国にとってベターな方法を考えるべきだろう。
一帯一路は国際公共財というよりも地域公共財と考えるべきだ。国際協力によって地域公共財を共同供給することが求められている。地域公共財としてのインフラの財源は、途上国では税収にしても国債の発行による調達も厳しい。しかも世銀、ADBなどからの融資も十分受けられないのが現状だ。
公私連携(PPP)に注目
こうした状況の中で中国が頼られているのだが、徐氏が注目しているのは新たな資金調達手段としての公私連携(PPP)である。PPPは徴税やサービスの提供、資金調達などすべて政府が責任を負う方式とは異なり、プロジェクトの核となる「民間運営者特別目的事業体」を設立し、同事業体が中心となって事業を行う。政府の役割は限定的となる。
たとえばスリランカのハンバントタ港はアジアとヨーロッパ、アフリカを結ぶ主要航路にあり、ハブ的な役割を担うことになるが、同港の開発はPPPで行われた。一部ムダはあるが積極的に評価すべきだ。
ところが日本ではメディアなどからの批判は多い。そのひとつは「債務の罠」というものだ。スリランカ政府と中国政府は2016年に合意し99年の借地契約が結ばれ中国が実質的な運営権を握った。99年といっても最長99年で、途中でスリランカ政府が買い戻すことは可能だ。中国は4億ドルを6.3%の金利で貸しているが、スリランカの5年物の国債8.2%より低い。また、借款は中国からが圧倒的に多いのは問題という批判も、むしろ日本やインドが貸そうとしないためだ。
スリランカ政府と中国の国営企業間は「運命共同体」と見られている。損得は共になのだが、もっともリスクを負っているのは中国企業だ。リスクを負いながらやっている点も見逃すべきではない。
ただそれでも中国に対する警戒感は途上国だけでなく、他の先進国にもある。中国方式に対する国際世論は、PPPは歓迎するが中国は怖いというものだ。そこで徐氏は中国一国に頼るのではなく、いくつかの政府が共同で参加し協力し合うと同時に監視し合う仕組みを提案している(図参照)。
日本企業は日立、富士フイルム、パナソニック、日通などが一帯一路に積極的に関わっている。日本企業は先進国に強く途上国に弱い。中国は逆なので日中の企業協力は補完的になるので、双方にメリットが大きいはずだ。日本政府、企業の参加が期待されるとした。
質疑では多くの質問、意見が出されたが、中国経済にとってのインフラ投資の意味について論じてほしかったという指摘もあった。(事務局 蜂谷 隆)