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2018/12/28

第30回研究会報告

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
中央銀行にお金を作らせて景気拡大、社会保障拡大を
                                                     立命館大学経済学部教授 松尾 匡氏

 2018年11月10日に開かれた第30回研究会は、立命館大学経済学部教授松尾匡氏に「ポストアベノミクスの経済政策を考える」と題して話していただいた。松尾氏はなぜ野党候補は安倍首相率いる保守勢力に負けるのか?という問いから出発、経済に後ろ向きな姿勢に問題があると診断、景気を拡大し生活を安定させる姿勢に転じる必要性を訴えた。そのための財源は国債を増発して日銀に買い取らせる。黒田日銀の「異次元緩和」と似ているが、財政支出拡大とセットにして量的緩和を行うという自説を強調した。

力強いデニーの前向きの経済公約

 松尾氏はまず新潟知事選、京都府知事選、沖縄県知事選を取り上げ、景気拡大の政策を打ち出した野党候補は勝つか負けても票を伸ばしているが、触れない候補者は票を減らしていると指摘、長期不況と小泉改革で厳しくなった生活の改善を求めているのだが、安倍政権になって少し改善した。野党候補者はこの要求に応えていない。

 世界を見るとグローバル企業が大きな利益を得て格差が拡大した。これに対して中道左派的な人達は「財政は厳しい」として十分対応していない。このため民衆の不満は極右あるいは急進左派に向かった。しかし、で欧米の左派は反緊縮政策を提唱している。この動きに注目すべきだ。ギリシャ危機と同時期に危機に陥ったアイスランドは、中央銀行が大量の国債を買うことで政府支出を増やし経済を立ち直らせた。ポルトガル、カナダ、スウェーデンも同様の政策で成果を上げている。

ヨーロッパの左派のブレーンの活発な論争

 ヨーロッパの左派のブレーンには、主流派ケインジアンのニューケインジアン左派のレンルイス、クルーグマン、非主流派のケインジアンにはウォーレン・モズラーらMMT (現代貨幣理論)と称する人達がいる。MMTは、通貨発行権を持つ政府にデフォルトリスクはないので、政府支出に制約はないと言い切っている。また、非主流派の中には民間銀行による信用創造の廃止を主張する人達もいる。
イギリス労働党党首コービンの公約の目玉は、イングランド銀行の量的緩和で作ったマネーで、住宅やインフラの投資をする「人民のための量的緩和」だ。2017年の総選挙で反緊縮マニフェストを掲げ大躍進した。レンルイスなどMMTに近いケインジアンがブレーンになっている。

 アメリカのサンダースの公約は「5年間で1兆ドルの公共投資」だ。スペインのポデモスも「人民の経済プロジェクト」を打ち出し、フランスの大統領選挙で2割獲得したメランションも、公的投資で景気を刺激し350万人の雇用創出を公約に掲げた。

量的緩和と政府支出増のセットでインフレ目標達成

 ただニューケインジアンとMMT・信用創造廃止派あるいはコービノミクスと市民配当・ヘリマネ派の間でも論争がある。とらえ方や重点の置き方に差はあるが共通理解も多い。通貨発行権を持つ国家は破綻しない。課税は市中の購買力を抑えインフレを抑制する手段で、財政収支の帳尻合わせに意味はない。不完全雇用であれば通貨発行による政府支出拡大でもインフレは悪化しない。民間が貯蓄超過なら財政赤字は問題ないなどだ。

 松尾氏は左派ニューケインジアンの立場をとっている。中央銀行が国債を買うこと政府支出を増やすが、「インフレ目標達成まで政府は支出を増やす」という国民の予想形成による実質利子率低下を重視する。アベノミクスによる金融緩和(黒田日銀の「異次元緩和」)は財政支出拡大とセットになっていないので不十分と批判、野党は福祉や教育などに重きを置いた財政支出拡大による積極的な経済政策を持たないと安倍政権を倒すことはできないというのが結論である。(事務局 蜂谷 隆)


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