高市政権の下で失敗が許されなくなったラピダス
経済ジャーナリスト 蜂谷隆
「国主導」による「強い経済」は、高市早苗首相の独自政策ではない。経産省は2021年に「経済産業政策の新機軸」という形でまとめ、その第一歩として最先端半導体の国産化を担うラピダスを設立した。ラピダスは27年度に量産化を目指しているが、「国主導」というよりも「国策会社」だ。事業が失敗した場合のリスクは、最終的にすべて国が負う構造になっている。高市首相の経済政策は、この経産省の新機軸に沿ったものである。問題はラピダスが本当に成功するのかという点にある。ラピダスは政権の命運を左右する存在であり、失敗は許されない。そのため、赤字が続いても、目標時期を先延ばししながら事業を継続する可能性がある。
いきなり最先端に挑戦
ラピダスは、北海道千歳市で世界最先端の回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体の量産を目指し、2022年8月に設立された。国はこれまでに1兆7200億円を投入、さらに26、27年度に1兆円追加投資することを決めている。27年度に量産化させるためだが、その後も31年度までに7兆円を超える追加投資が必要となり、合計で10兆円となるという大プロジェクトだ。
ところが民間企業からの出資はわずか73億円。いくらなんでも少なすぎるというので3月までに民間企業から1300億円程度の出資を確保するとしている。2月4日付「日本経済新聞」によると、1600億円超になる見込みという。当初の出資会社であったトヨタ、NTT、ソフトバンクなど8社が追加出資するだけでなく、他の有力企業、金融機関30社以上が株主となる。資金調達の多様化のためとされるが、25年12月12日付け「日本経済新聞」には「奉加帳方式」に対する批判と「まるで町内会費だ」という出資企業のぼやきが掲載されている。
しかし、よく考えるとこの話すごくおかしい。最終的に民間資金を1兆円集めるというが、本当に達成できるのか疑問だが、もし達成しても国はその9倍の9兆円を出すのだ。企業は637兆円(2024年度末)の内部留保を溜め込んでいる。なぜGDPの2倍を超える債務残高を抱える国が9兆円も出すのに、民間企業はその10分の1程度の出資しかしないのか。トヨタの内部留保は約36兆円、NTTは10兆円を超えると言われている。トヨタが2兆円、NTTは1兆円出してもおかしくないのだが、そんな話はない。
理由は「失敗のリスク」だ。民間企業が尻込みするのはこの「失敗のリスク」なのだ。経産省に言われればある程度出資するが、できるだけ少なくしたいというのが民間企業の本音なのだろう。
「無謀な投資」に引く企業
投資にはリスクがつきものだ。100%成功する投資はあり得ない。とはいえ無謀な投資はしない。ラピダスは限りなく「無謀な投資」に近い。
その理由の一つは、いきなりコンピューターの頭脳にあたるロジック半導体で、世界の最先端である2ナノの量産を目指している点にある。ロジック半導体は、メモリーに強い日本のメーカーが過去に挑戦したが失敗、撤退を余儀なくされた分野である。しかも2ナノは世界トップの台湾のTSMCですら、ようやく量産化にこぎつけたばかりの最先端技術である。現在の世界のトップ水準は5~7ナノであり、10ナノ以下ならトップグループに入ると評価される。
ところが日本の半導体の技術水準は40ナノを切っていない。国体レベルの選手が、いきなりオリンピックで金メダルを狙うと言っているようなものだ。明らかに背伸びをしている。そこにはかつて日本の半導体は世界のトップだったという自尊心が見え隠れする。
二つ目は、大口ユーザーを確保していないことである。ラピダスは半導体チップの設計を行う企業(ファブレス)から依頼を受けて生産する受託製造会社(ファンドリー)である。半導体投資の成否は、技術だけではなく大口ユーザーの確保にかかっている。というのは、半導体産業は典型的な装置産業で、「最初から大量に買ってくれる顧客」がいないと成立しないからだ。しかも陳腐化が早く5-7年で次世代投資が必要となる。
ところがラピダスは有力な大口顧客のメドも立てないまま始めてしまった。確かに世界にはファンドリー最大手のTSMCに対抗する半導体メーカーの出現を望む声はある。ということで顧客開拓は進めているのだが、いまのところ小口ユーザーが多いという。TSMCにはAppleが大量発注する。TSMCは、ユーザーのどんなムリな注文にも応ずる技術力があるというから恐れ入る。だからダントツのトップを維持できるのだろう。
ラピダスは昨年7月に2ナノの半導体の試作に成功している。次は量産化ができるかどうかだが、これが結構難しい。80%程度まで歩留まりを上げないと利益を出せない。量産化のメドがついたとして、次のハードルは前述したように大口ユーザーを獲得できるかどうかである。
国のリスク負担は高まる
ラピダスは高市政権の「強い経済」の象徴となり始めている。そうなるとラピダスは失敗が許されないので、赤字が続いても国がさらに出資をすることになりかねない。成功したら「国主導」の成功例として持ち上げられ、次の国策事業を創り出すだろう。いずれにしても民間企業の国に対する依存心は強まるのではないか。
民間企業が巨額の内部留保を抱え、国の財政が行き詰まりを見せている時に、100%リスクは国が取る投資のやり方はどう考えてもおかしい。企業の巨額の内部留保を引き出す仕組みを考えるべきだ。