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2024/07/11

POLITICAL ECONOMY第264号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
軍拡路線で急成長する軍事産業
          横浜アクションリサーチ 金子 文夫


世界的な軍拡潮流に呼応する日本

 ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ侵攻が長期化するなかで、世界的な軍備拡張の潮流が生じている。NATOは加盟国32カ国のうち23カ国が軍事費のGDP比2%目標を2024年に達成する見込みという。

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、2023年の世界の軍事費は前年比6.8%増の2.4兆ドルと過去最高に達した。1位の米国は2.3%増の9160億ドル、2位の中国は6.0%増の2960億ドルだったが、3位のロシアは24%増の1090億ドル、8位のウクライナは51%増の648億ドルへと急増した。その影響で日本は10位から11位に順位を下げたが、11%増の502億ドルと過去最大の増加率を記録した。

 2022年末の安保3文書閣議決定を契機に軍拡路線に突入した日本の防衛関係予算は、22年度の5.2兆円が23年度は6.6兆円へと当初予算ベースで27.4%増、さらに24年度は7.7兆円へと17.0%の増加だ。軍拡予算の規模は2023~2027年度の5年間総額で43兆円と見積もられているが、1ドル=108円と想定した計画であるため、おそらくさらに大幅な増額になるだろう。軍拡予算の使途は自衛隊員の生活・勤務環境の改善まで含めて多方面に渡るが、ミサイル・戦闘機などの兵器増強が中核となることはいうまでもない。

「防衛特需」で潤う軍事産業
 
 安保3文書では軍事産業を「いわば防衛力そのもの」と位置づけ、その育成・強化を強調している。そのための手段として、軍事産業への手厚い利益保証(営業利益率15%)、輸出促進等の様々な支援策を打ち出している。それらは22年4月に経団連が公表した「防衛計画の大綱に向けた提言」の内容を受ける形で制定されたと考えられる。

 軍事産業の対応は迅速だった。三菱重工は23年11月に開催した「防衛事業説明会」で、スタンドオフミサイル、統合防空ミサイル(PATRIOT、SM-3、イージス艦等)、無人兵器(航空、海洋
陸上)、次期戦闘機、宇宙機器等の重点事業を説明し、26年度までに売上高倍増、それに対応して人員2~3割増といった経営方針を表明した。また24年5月に行った23年度決算説明では、全体として受注高、売上高、当期利益は過去最高、特に「航空・防衛・宇宙」部門は受注高が7000億円から2兆円へと3倍近く増加したと報告している。これに続く事業計画説明でも、泉澤社長は「国家安全保障へのニーズの急激な高まりに応えることで事業を拡大する」と言明した。三菱重工の株価は23年末と比較して24年6月時点で8割高に達し、PBR(株価純資産倍率)は2倍を超えた。

 川崎重工は防衛省向け受注高を22年度2628億円から23年度5530億円へと2倍以上伸ばした。同社の主力製品は航空機、ヘリコプター、潜水艦などで、決算説明では防衛省向けが「抜本的な防衛力強化という防衛省の方針のもと、需要増や採算性の改善が期待できる」と記している。IHIは23年度決算説明資料で、防衛省向け航空エンジン・装備品の受注高が2022年度の1156億円から23年度の2684億円へと2.3倍に増加して過去最高を記録、24年度はさらに上回る見通しと説明した。また「成長事業について(民間エンジン・防衛・宇宙事業)」と題する資料では、「防衛力強化」の7つの重点分野を示し、「当社の強みが発揮できる分野に特に大きく予算が割り当て」と期待を滲ませている。

 その他、NEC、三菱電機、日本製鋼所なども受注を伸ばしている。軍事産業の裾野は広く、戦闘機1100社、戦車1300社、艦船8300社にのぼるといわれており、「防衛特需」の影響は多方面に及ぶと想定される。

際限のない武器輸出へ
 
 軍拡予算に対応して生産能力を増やした軍事産業は、海外市場への輸出拡大を追求することになる。第二次安倍政権は発足早々、「武器輸出3原則」を「防衛装備移転3原則」へと変更したが、殺傷兵器の輸出に関しては抑制的だった。ところが岸田政権は安保3文書の閣議決定とともに、3原則運用指針の全面的転換へと踏み込み、自民党・公明党の一部議員の検討を経て、23年末には一部殺傷兵器輸出の限定的解禁、さらに24年3月には戦闘機の輸出容認に至った。これには、イギリス・イタリアとの国際共同開発品に限るなどの条件が付与されたが、そんなものは今後いくらでも変更できるだろう。問題は、こうした重要な政策変更を閣議決定のみで進めていることだ。米国などは兵器輸出について議会がチェックする仕組みをもっており、日本も国会にそのような役割をもたせるべきではないか。

 この間、防衛省は軍事産業に働きかけ、内外の兵器展示会・商談会への参加を促してきた。国内では22年から在日米軍との取引を想定した商談会「インドストリーデー」を開催、また中小企業の軍事産業関与を狙って「防衛産業参入促進展」を東京・大阪で開いている。海外では、23年9月、ロンドンで開かれた欧州最大の兵器展示会「DSEI」に日本企業8社が出展、11月にはシドニーで開催された展示会「インド・パシフィック」に初めて日本企業10社が参加した。さらに24年2月の航空機関連展示会「シンガポール・エアショー」に初めてブースを設け、日本から13社が出展した。 このような防衛省と軍事産業の一体化した武器輸出に向けた動きに対しては、厳しく監視していく必要があろう。

21:32

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第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)


第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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