放置できないレベルにある富の偏り
NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員 平田 芳年
25年12月17日の共同通信によると「日銀が発表した2025年7~9月期の資金循環統計速報で家計(個人)が保有する金融資産の残高は9月末時点で2286兆円となった。1年前と比べて4.9%増加し、過去最大を更新した」という。株式や投資信託といった運用資産が増えたことが大きな要因だが、全体の半分を占める現金・預金も0.5%増の1122兆円と拡大を続けている。
マクロで見れば国全体の金融資産が増え続けることは家計が豊かになるので喜ばしいことになりそうだが、個々の世帯で見ると大半の人々は年々資産が増えているという実感はほとんどない。ではどのような人たちが資産増の恩恵を受けているのだろうか。
増加する富裕層、超富裕層
野村総合研究所が25年初めに公表した「2023年の日本における純金融資産保有額別の世帯数と資産規模」によると、純金融資産保有額が1億円以上5億円未満の「富裕層」、および同5億円以上の「超富裕層」を合わせると165.3万世帯に上り、その純金融資産の総額は約469兆円と推計。前回調査(2021年時点)の148.5世帯から11.3%増、わずか2年で1億円以上の資産を保有する層が約17万世帯も増加しているのだという(昔風に言えば、億万長者がこれだけいるということ)。内訳は、富裕層が153.5万世帯、超富裕層が11.8万世帯で富裕層・超富裕層の合計世帯数は、この推計を開始した05年以降増加しており、それぞれの世帯数も、2013年以降は一貫して増加傾向にあるという。05年に比べ、富裕層世帯は2倍に膨らんだ。
同総研によると、「相続」によって、相続人が富裕層・超富裕層となるケースも増えているが、新たに富裕層となった世帯で目立つのは、従業員持株会や確定拠出年金、NISA枠の活用などを通じて、運用資産が1億円を超えた人々と都市部居住で世帯年収3,000万円以上の大企業共働き世帯に代表される人々で、前者を「いつの間にか富裕」、後者を「スーパーパワーファミリー層」と命名。今後もこの二つの層は増え続けると見ている。
「21世紀の資本」で世界史的な所得・資産分布を論じたトマ・ピケティは「戦争など特別な事情がない限り、所得や富の格差は内生的なメカニズムで拡大し続ける」と指摘、富の偏在は資本主義社会では必然の事態と強調した。しかし富める者が増え続ける一方で、可処分所得が127万円以下の相対的貧困率は15.4%、約2,000万人が貧困ライン以下での生活を余儀なくされており、単身世帯、子育て世帯(特にひとり親世帯)、高齢者世帯などで貧困率が高い。日本の相対的貧困率はOECD(経済協力開発機構)加盟38カ国中7位、G7のなかでは最も高い水準にあるとのデータを見ると、富の偏り(格差)は放置できないレベルにあるのではないか。
所得・資産再分配政策の実施が急務
トマ・ピケティは富の偏在を是正する政策として「資産課税が望ましい」と指摘しているが、日本では「税制に不満があっても、それが直ちに富裕層課税強化という要求に結びつかず、制度全体の問題として拡散する傾向がある」(ビジネス・マーケティング勝鬨美樹氏)。所得税の最高税率は5割超と米国に比べ相対的に高い水準だが、富裕層の資産形成を担う金融所得は2割の分離課税と優遇されており、「富裕税」など資産に対する新規課税論も出てこない。
年末にまとまった政府の26年度税制改正案で超富裕層に対する所得税の追加負担強化が打ち出されたが、わずか数%の課税上乗せに止まっており、富の偏在を是正するにはほど遠い措置だ。金融資産1億円以上の富裕層が165万世帯を超える一方で、419万円以下しか保有しない層が2800万世帯に上り、生活保護世帯数164万7,346(2025年)、「年収200万円、資産ゼロ」世帯が増え続ける現実は経済構造としても相当歪んでいる。こうした富の偏在を放置し続けると、中間層の没落、貧困層の生活悪化、社会の分断、経済の停滞などを引き起こし、近い将来、手痛いダメージとなって日本社会に跳ね返ってくることは避けられない。富の偏在を是正するための所得・資産再分配政策の実施が急務だ。