中国の経済成長のひずみは深刻
法政大学教授・ジャーナリスト 萩谷順氏
新たに結成された「経済分析研究会」は2月25日、専修大学で第1回研究会を開催した。法政大学教授・ジャーナリストの萩谷順氏が、「中国の経済成長のひずみをどう見るか」というテーマで報告した。
萩谷氏は、ジャーナリスト、TVキャスターとして取材しており、昨年11月、中国で起きた「2歳女児ひき逃げ見殺し事件」と「高速鉄道追突事故」を取材、テレビ番組「スーパーJチャンネル」で報告した。今回は、現地取材をもとに、これらの事件の背景にある中国社会の病巣を分析していただいた。
なぜ助けようとしなかったのか
「2歳女児ひき逃げ見殺し事件」は、日本でも繰り返し報道されたが、なぜ18人もの人が助けようともせずに通り過ぎたのかということが取材の出発点だった。
しかし、現地に行ってみて分かったことは、中国の急激な経済成長を支える「地級市」である仏山市の広大な問屋街の一角で事故は起きたという事実である。地縁、血縁も薄く、地元の言葉である広東語ではなく、標準語を話す問屋街の環境は、人間関係が希薄になっていた。
「助けたら訴えられる」という空気
しかし、助けようとしなかったのは、それだけではないと考え、「高速鉄道追突事故」のあった温州、南京なども訪れ取材を続けた。そこで分かったことは、「人助けをした人が逆に訴えられる」という事件が多発していることである。実際に06年に南京で、転んで骨折した女性を助けた男性が、逆に加害者として訴えられ、巨額の損害賠償を払わされたという事件が起きている。この事件をきっかけに「助けたのはやましいところがあるからだ」、「普通だったら助けないはずだ」、「助けたのは何か理由があるからだろう」という空気が、中国社会に広がったという。
こうした空気が中国社会に広がった背景として萩谷氏は、ヨーロッパや日本などに比べ、中国はあまりに急激に発展していること、しかも改革開放でいきなり全国民が競争社会に放り込まれてしまった。加えてその中国にピークが近づきつつあるという点を上げた。
つまり、今浮かび上がらないとだめだ、今没落したら未来永劫浮かび上がらない、というある種の強迫観念が、中国人をとらえているのではないかというのだ。だから人のことなど構っていられないと必死にならざるを得ない。その象徴的な事件ではないかと分析した。
軍の動きは要注意
萩谷氏は、中国社会のこの傾向は変わらないだろうと見ている。「中国はいずれ成熟社会になるのでは」あるいは「落ち着いて来るのでは」という質問に対しては、「そういう方向には向かわないのでは」と答えている。
むしろ改革開放によって欲望や需要が解放されたので、資源などの確保が必要になってきている。しかも、その担い手は政治的にも影響力が強まっている人民解放軍なので、軍拡に動くので要注意という。南シナ海の動きはこの延長線で考える必要があると指摘した。
これは「中国脅威論」に近い見方だと思う。異論を持つ出席者もいたと思うが、残念ながら議論は生煮えのまま終わってしまった。(事務局 蜂谷 隆)
※報告の詳細は『FORUM OPINION』16号に掲載されています。