連合は最低賃金「時給1000円」でアベノミクス「成長戦略」
につけ込め
グローバル産業雇用総合研究所所長 小林 良暢
少し話が古くなるが、5月21日、琉球朝日放送が夕方の二ュースで「連合は、最低賃金引き上げと非正規労働者の待遇改善を求める全国キャンペーンを明日22日、沖縄からスタートさせます」と伝えたという。なんで、連合の「最賃引上げ全国キャンペーン」が、 ローカルニュースにしかならないのか。これが全国版のニュース になったのは5月28日の日本経済新聞、合が田村憲久厚生労働大 臣に「2020年までに地域別最低賃金の全国平時給を1000円に引き 上げる」よう求めた要請書を提出したという記事で、扱いは小さな 囲み記事であった。
“特定最賃”をめぐる攻防
この6月から、2013年度の最低賃金の改定について公労使の目安議論を始まる。だが、今年の最低賃金を巡る状況は例年になく厳しい。
今年の春闘で、経団連は経営労働政策委員会報告で、地域別最低賃金の決定プロセスに疑念を表明、また特定(産業別)最低賃金について も廃止を主張した。じっさい2012年の東京都の電機と自動車の特定最賃が、経営側の不同意で据え置かれたままで地域別最賃を下回る事態になった。特定最賃は地域最賃よりも50~100円ほど高く設定されるのが全国的な傾向で、それが“逆転”するというのは異常事態である。
東京の特定最賃は地域最賃より高かったが、“逆転”に向かう兆候を見せ始めたのは2007年からである。2007年とは第1次安倍内閣の時。「成長力底上げ戦略推進円卓会議」で地域最賃を当面5年程度で「高卒初任給」を目安に引き上げをめざす合意がなされ、その直後に生活保護基準との整合性を盛り込んだ改正最低賃金法が成立した。その後、福田、麻生政権から民主党政権の5年間で、東京都の地域最賃が111円アップしたが、特定最賃の方は自動車で27円、電機も23円の引上げにとどまったために“逆転”されたのである。
その原因は2つある。ひとつは、リーマンショックを挟んだ自民・民主党政権が生活保護の基準額の上積み圧力に抗しきれず、地域最賃をとりわけ東京で引き上げ過ぎたことである。いまひとつは、連合が正規と非正規の均等待遇に取り組み、その実現にむけて特定最賃の運動を強化したが、これが地域最賃の引上げに波及することを怖れた経団連が、その骨抜きと廃止を東京に狙いを定めて反撃したことである。
我が国の賃金の低層構造は、一番下が地域最賃(時給653~850円)、その上に特定最賃(同700~850円)、一番上に高卒初任給(月額16万円)、という具合の三段重ねになっている。高卒初任給16万円は時給に換算すると1000円で、これは東京近辺の派遣社員の時給や北関東の製造派遣(請負)の労働者の時給も1000円と同水準だ。しかし、地方の派遣や
製造請負の現場の時給は特定最賃に50~100円プラスして決まるので、
その水準は800円台にとどまる。
高卒初任給並みの処遇
この人たちこそが、日本の工場やショップ、オフィスの現場を支えているのだから、せめて企業内ミニマム賃金である高卒初任給並みの処遇にせよというのは説得力のある話である。それを手っとり早く実現するには、三段重ねの“餡子”である特定最賃とりわけ天下分け目の東京を決戦の場に据えて、自動車(839円) ・電機(829円)など機械金属の基幹部隊が時給900円に届けば、「時給1000円」が指呼の間に見えてくる。
今年は、4月の参議院予算委員会で安倍晋三首相が、「最低賃金引き上げに努力する」と答弁し、自民党も参議院選挙前とあって引き上げ自体には前向きである。時あたかも6月は成長戦略の閣議決定の時期、黒田日銀の「異次元緩和」の綻びが見え始めた中で、「2年で2%」の物価目標を手っとり早く実現するには、賃上げでミニ・インフレを起こすしかない。
そのために連合が、アベノミクスの成長戦略につけ込んで「時給 1000円」戦略を組み込ませれば、均等待遇の実現への橋頭堡になる。今からでも、まだ間に合う。ただし、ミニ・インフレがハイパー・インフレになるリスクを伴うので、その時連合は応分の痛みを引き受ける覚悟をしておくことである。