「監視ビジネス」隆盛を喜べるか
NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員 平田芳年
「侵入させない、侵入者をいち早く検知する防犯システム&スマホで見られる遠隔監視カメラ。店舗・事務所の監視カメラ・まずは防犯無料診断・全国優良防犯コンテストNo1・お得なセットプランあり・サービス: 企業用監視カメラ設置, 企業用防犯カメラ設置, セキュリティシステム設置」
ネットで「監視」を検索すると、こんなキャッチコピーを宣伝する企業広告がいくつもヒットする。IT技術を高度化したAIの急速な進展を背景に、いま「監視ビジネス」と言われる新たな産業分野が注目を集めている。市場調査会社によると米国で「2016年に303億7000万ドル(約3兆3700億円)規模だった画像監視サービスは、2022年には756億4000万ドル規模にまで成長すると見込まれており、年平均成長率は15.6%」(「マーケッツ&マーケッツ」)だという。
「警察は防犯カメラに映った映像をもとに犯人を逮捕」。ここ数年、メディアの犯罪報道でよく耳にするフレーズだ。事実、都心の繁華街などで防犯カメラが急増し、その抑止効果もあって、犯罪の発生件数が大幅に減少しているという。こうした防犯体制を支える「監視ビジネス」が活況を呈することは、その限りでは喜ばしいことなのだろう。だが、「監視」という機能だけに着目してAI化の様相を観察すると、その先に手放しで喜べない社会の実相も垣間見える。
中国-AIを駆使し監視国家に
AI社会の近未来を覗くには、世界最先端のAI先進国と言われる中国社会の現状を知ることが手っ取り早い。
アリババ集団の馬雲会長は「ビッグデータの時代に、AIの力を借りれば市場の“見えざる手”に代わる計画経済が実現する」が持論で、中国では国家レベルのAI化が進む。中国政府は2014年に初めに「社会信用システム」制度を提案、2020年度までに全人口14億人にこの制度を適用するという。同システムは「日頃の行動やSNSでの発言、犯した不正行為などを総合して個々人にランク付けし、スコアが高いものに恩恵を、低いものに罰を与えるというもので、低くランク付けされた者は飛行機や高速列車の予約が取れず、日々の生活にも様々な不便が生じる」(「ニューズウイーク日本版」2018年5月2日号)よう設計されているという。
雲南省ではデータベースに登録された容疑者と人相が一致した人物を発見できる顔認証機能付「ハイテクメガネ」を警察が使用、要注意人物をピックアップ監視。深センや西安では信号機を無視した通行人を監視カメラの顔認識技術で特定し、警察に知らせる試みが始まっており、新疆ウイグル自治区などでは鳥形ドローンによる上空からの広範囲な監視を行っているという。ここまで来ると、ジョージ・オーウェルが小説「1984年」で描いた監視国家と重なる事態だ。
専制体制の中国では社会の抵抗も抑圧され、上からのAI化が進み易いが、こうした監視・管理システムは欧米や日本でも水面下で進行している事実はあまり報道されていない。米ロスアンゼルス市警は6年前から過去の犯罪データや天候、バー・クラブの営業予定などからその日の犯罪を予測するシステムを導入、京都府警は2年前からNECと共同開発した犯罪予測システムを運用する。民間でも万引き犯罪を事前予防する監視システム(千葉県)、警備ロボット(総合警備保障)、ドライブレコーダーを使った見守り隊(福井県)、スマホデータで営業社員の動きを1分刻みに把握するなど多彩。
「監視ビジネス」に社会的規制は必要
これらのシステムを支えるのが上述の「監視ビジネス」。中国、米、イスラエル企業が先行し、米シリコンバレーの監視ビジネスベンチャーは企業価値が410億?に上るほど巨大化している(日経ビジネス、2018年11月12号)。日本ではNEC、キャノン、パナソニック、日立などのほか、ベンチャー企業も登場する。いずれも事業内容は企業秘密を理由に秘匿、外からはうかがい知れない。AIは専門性が高く、近寄りがたい印象があるが、しかし監視社会を受け入れないのであれば、こうした動きを社会の側からチェックし、AIの悪用に警鐘を鳴らす活動が欠かせない。
個人の検索履歴や買い物履歴、通信データなどのビッグデータを握るグーグルやアップルなど「GAFA(ガーファ)」と称される巨大IT企業が、公正な競争環境をゆがめかねないとして、欧米で規制を強化する取り組みが始まっている。EUは昨年5月、個人情報の保護ルール「一般データ保護規則」を施行、プライバシーを侵害する個人情報へのリンクを削除できるよう求める「忘れられる権利」が明文化された。民主的で自由な活動が保障される市民社会に逆行する監視社会のツールとなりかねない「監視ビジネス」にも社会的規制の網を広げる必要がある。