日誌


2025/12/02

POLITICAL ECONOMY第299号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
放置できないレベルにある富の偏り                           

  NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員 平田 芳年

 25年12月17日の共同通信によると「日銀が発表した2025年7~9月期の資金循環統計速報で家計(個人)が保有する金融資産の残高は9月末時点で2286兆円となった。1年前と比べて4.9%増加し、過去最大を更新した」という。株式や投資信託といった運用資産が増えたことが大きな要因だが、全体の半分を占める現金・預金も0.5%増の1122兆円と拡大を続けている。

 マクロで見れば国全体の金融資産が増え続けることは家計が豊かになるので喜ばしいことになりそうだが、個々の世帯で見ると大半の人々は年々資産が増えているという実感はほとんどない。ではどのような人たちが資産増の恩恵を受けているのだろうか。

増加する富裕層、超富裕層

 野村総合研究所が25年初めに公表した「2023年の日本における純金融資産保有額別の世帯数と資産規模」によると、純金融資産保有額が1億円以上5億円未満の「富裕層」、および同5億円以上の「超富裕層」を合わせると165.3万世帯に上り、その純金融資産の総額は約469兆円と推計。前回調査(2021年時点)の148.5世帯から11.3%増、わずか2年で1億円以上の資産を保有する層が約17万世帯も増加しているのだという(昔風に言えば、億万長者がこれだけいるということ)。内訳は、富裕層が153.5万世帯、超富裕層が11.8万世帯で富裕層・超富裕層の合計世帯数は、この推計を開始した05年以降増加しており、それぞれの世帯数も、2013年以降は一貫して増加傾向にあるという。05年に比べ、富裕層世帯は2倍に膨らんだ。

  同総研によると、「相続」によって、相続人が富裕層・超富裕層となるケースも増えているが、新たに富裕層となった世帯で目立つのは、従業員持株会や確定拠出年金、NISA枠の活用などを通じて、運用資産が1億円を超えた人々と都市部居住で世帯年収3,000万円以上の大企業共働き世帯に代表される人々で、前者を「いつの間にか富裕」、後者を「スーパーパワーファミリー層」と命名。今後もこの二つの層は増え続けると見ている。

  「21世紀の資本」で世界史的な所得・資産分布を論じたトマ・ピケティは「戦争など特別な事情がない限り、所得や富の格差は内生的なメカニズムで拡大し続ける」と指摘、富の偏在は資本主義社会では必然の事態と強調した。しかし富める者が増え続ける一方で、可処分所得が127万円以下の相対的貧困率は15.4%、約2,000万人が貧困ライン以下での生活を余儀なくされており、単身世帯、子育て世帯(特にひとり親世帯)、高齢者世帯などで貧困率が高い。日本の相対的貧困率はOECD(経済協力開発機構)加盟38カ国中7位、G7のなかでは最も高い水準にあるとのデータを見ると、富の偏り(格差)は放置できないレベルにあるのではないか。

所得・資産再分配政策の実施が急務
  
 トマ・ピケティは富の偏在を是正する政策として「資産課税が望ましい」と指摘しているが、日本では「税制に不満があっても、それが直ちに富裕層課税強化という要求に結びつかず、制度全体の問題として拡散する傾向がある」(ビジネス・マーケティング勝鬨美樹氏)。所得税の最高税率は5割超と米国に比べ相対的に高い水準だが、富裕層の資産形成を担う金融所得は2割の分離課税と優遇されており、「富裕税」など資産に対する新規課税論も出てこない。

 年末にまとまった政府の26年度税制改正案で超富裕層に対する所得税の追加負担強化が打ち出されたが、わずか数%の課税上乗せに止まっており、富の偏在を是正するにはほど遠い措置だ。金融資産1億円以上の富裕層が165万世帯を超える一方で、419万円以下しか保有しない層が2800万世帯に上り、生活保護世帯数164万7,346(2025年)、「年収200万円、資産ゼロ」世帯が増え続ける現実は経済構造としても相当歪んでいる。こうした富の偏在を放置し続けると、中間層の没落、貧困層の生活悪化、社会の分断、経済の停滞などを引き起こし、近い将来、手痛いダメージとなって日本社会に跳ね返ってくることは避けられない。富の偏在を是正するための所得・資産再分配政策の実施が急務だ。

16:44

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

LINK

次回研究会案内

第47回研究会
「米中覇権争いとトランプの米中
“G2”構想の意味」

講師:平川均氏(国          士舘大学客員教           授・名古屋大学名誉教授)

日時:月6日(土)
   14時~17

場所:専修大学神田校
舎(予定)地下鉄
神保町駅A2出口、徒歩
約3分

資料代:1000円
オンライン参加ご希望の方は「オンライン研究会参加方法を参照の上お申し込みください。
 

これまでの研究会

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)


第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)

第45回研究会(2025年10月25日)「トランプ関税でどうなる欧州経済」(東北大学名誉教授 田中素香氏)

第46回研究会(2026年1月24日)「高市経済政策は何を目指しているのか!」(立命館大学経済学部教授 松尾匡氏)


これまでの研究会報告