日誌

これまで発行の「POLITICAL ECONOMY]、「グローカル通信」
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2026/01/01

POLITICAL ECONOMY第302号

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高市政権の下で失敗が許されなくなったラピダス
                                  経済ジャーナリスト 蜂谷隆

 「国主導」による「強い経済」は、高市早苗首相の独自政策ではない。経産省は2021年に「経済産業政策の新機軸」という形でまとめ、その第一歩として最先端半導体の国産化を担うラピダスを設立した。ラピダスは27年度に量産化を目指しているが、「国主導」というよりも「国策会社」だ。事業が失敗した場合のリスクは、最終的にすべて国が負う構造になっている。高市首相の経済政策は、この経産省の新機軸に沿ったものである。問題はラピダスが本当に成功するのかという点にある。ラピダスは政権の命運を左右する存在であり、失敗は許されない。そのため、赤字が続いても、目標時期を先延ばししながら事業を継続する可能性がある。

いきなり最先端に挑戦

 ラピダスは、北海道千歳市で世界最先端の回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体の量産を目指し、2022年8月に設立された。国はこれまでに1兆7200億円を投入、さらに26、27年度に1兆円追加投資することを決めている。27年度に量産化させるためだが、その後も31年度までに7兆円を超える追加投資が必要となり、合計で10兆円となるという大プロジェクトだ。

 ところが民間企業からの出資はわずか73億円。いくらなんでも少なすぎるというので3月までに民間企業から1300億円程度の出資を確保するとしている。2月4日付「日本経済新聞」によると、1600億円超になる見込みという。当初の出資会社であったトヨタ、NTT、ソフトバンクなど8社が追加出資するだけでなく、他の有力企業、金融機関30社以上が株主となる。資金調達の多様化のためとされるが、25年12月12日付け「日本経済新聞」には「奉加帳方式」に対する批判と「まるで町内会費だ」という出資企業のぼやきが掲載されている。

 しかし、よく考えるとこの話すごくおかしい。最終的に民間資金を1兆円集めるというが、本当に達成できるのか疑問だが、もし達成しても国はその9倍の9兆円を出すのだ。企業は637兆円(2024年度末)の内部留保を溜め込んでいる。なぜGDPの2倍を超える債務残高を抱える国が9兆円も出すのに、民間企業はその10分の1程度の出資しかしないのか。トヨタの内部留保は約36兆円、NTTは10兆円を超えると言われている。トヨタが2兆円、NTTは1兆円出してもおかしくないのだが、そんな話はない。

 理由は「失敗のリスク」だ。民間企業が尻込みするのはこの「失敗のリスク」なのだ。経産省に言われればある程度出資するが、できるだけ少なくしたいというのが民間企業の本音なのだろう。

「無謀な投資」に引く企業

 投資にはリスクがつきものだ。100%成功する投資はあり得ない。とはいえ無謀な投資はしない。ラピダスは限りなく「無謀な投資」に近い。

 その理由の一つは、いきなりコンピューターの頭脳にあたるロジック半導体で、世界の最先端である2ナノの量産を目指している点にある。ロジック半導体は、メモリーに強い日本のメーカーが過去に挑戦したが失敗、撤退を余儀なくされた分野である。しかも2ナノは世界トップの台湾のTSMCですら、ようやく量産化にこぎつけたばかりの最先端技術である。現在の世界のトップ水準は5~7ナノであり、10ナノ以下ならトップグループに入ると評価される。

 ところが日本の半導体の技術水準は40ナノを切っていない。国体レベルの選手が、いきなりオリンピックで金メダルを狙うと言っているようなものだ。明らかに背伸びをしている。そこにはかつて日本の半導体は世界のトップだったという自尊心が見え隠れする。

 二つ目は、大口ユーザーを確保していないことである。ラピダスは半導体チップの設計を行う企業(ファブレス)から依頼を受けて生産する受託製造会社(ファンドリー)である。半導体投資の成否は、技術だけではなく大口ユーザーの確保にかかっている。というのは、半導体産業は典型的な装置産業で、「最初から大量に買ってくれる顧客」がいないと成立しないからだ。しかも陳腐化が早く5-7年で次世代投資が必要となる。

 ところがラピダスは有力な大口顧客のメドも立てないまま始めてしまった。確かに世界にはファンドリー最大手のTSMCに対抗する半導体メーカーの出現を望む声はある。ということで顧客開拓は進めているのだが、いまのところ小口ユーザーが多いという。TSMCにはAppleが大量発注する。TSMCは、ユーザーのどんなムリな注文にも応ずる技術力があるというから恐れ入る。だからダントツのトップを維持できるのだろう。

 ラピダスは昨年7月に2ナノの半導体の試作に成功している。次は量産化ができるかどうかだが、これが結構難しい。80%程度まで歩留まりを上げないと利益を出せない。量産化のメドがついたとして、次のハードルは前述したように大口ユーザーを獲得できるかどうかである。

国のリスク負担は高まる

 ラピダスは高市政権の「強い経済」の象徴となり始めている。そうなるとラピダスは失敗が許されないので、赤字が続いても国がさらに出資をすることになりかねない。成功したら「国主導」の成功例として持ち上げられ、次の国策事業を創り出すだろう。いずれにしても民間企業の国に対する依存心は強まるのではないか。

 民間企業が巨額の内部留保を抱え、国の財政が行き詰まりを見せている時に、100%リスクは国が取る投資のやり方はどう考えてもおかしい。企業の巨額の内部留保を引き出す仕組みを考えるべきだ。


10:20
2025/12/15

POLITICAL ECONOMY第301号

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幕末のフランス人上陸でキリスト教宣教が再スタート
~九州の視点からの考察~(後編)    
             元東海大学教授 小野 豊和

 フランス革命後の混乱期を経て、フランスではカトリック信仰復興の気運が高まり、修道会に属さない教区司祭がパリ外国宣教会を設立すると、ローマ教皇庁が日本での再宣教を委託した(1838年)。パリ外国宣教会の日本宣教の使命は「宣教地を開拓して教会を建設し、邦人司祭を養成してこれに託し、新たな新開地へ行く」。日仏修好通商条約締結後の1860年にルイ・フューレ神父らが来日し長崎で大浦天主堂を建設、これが潜伏キリシタン発見につながり、日本のカトリック復興の道を切り開いた。

 時代を遡るが、大航海時代、ヨーロッパの地図にAMACUSAと記されていた。天草ではザビエル宣教以降、2代目のトルレス神父によって早い時期から多くの信徒が生まれた。イエズス会員ヴァリニャーノ神父の発案でキリシタン大名となった大友義鎮・大村純忠・有馬晴信らの名代として、有馬セミナリオ(小神学校)の4人の少年(伊東マンショ、千々石ミゲル、原マルチノ、中浦ジュリアン)を1582年に天正遣欧少年使節としてローマに派遣した。ポルトガル、スペインで歓迎され、ローマ教皇に謁見した。ヨーロッパの新しい知識を身につけ1590年に帰国。持ち込んだグーテンベルグ印刷機によって聖書だけでなく『天草本伊曾保物語』等が出版されるなど、天草、島原で南蛮文化が花開いた。

 一方、指導者を失った潜伏キリシタンたちは、長崎周辺(浦上、長崎港外の島々、外海)、平戸、生月島などで250年間信仰生活を守ってきた。五島藩が荒地開拓のための農民移民を大村藩に要請した頃(1797年)、外海には約3000人の潜伏キリシタンがいた。開国したとはいえ、まだ禁教令下で行動が制限されていたが、フランス人神父たちは危険を顧みず、山間の外海、五島の島々に出向き支援を行った。

 1873(明治6)年、キリシタン禁制の高札が撤去されると、外海地区担当のド・ロ神父が山間に畑を開墾し併せて授産場を設けた。ド・ロ神父は父親がフランス貴族の血を引く農業経営者で、農業・土木だけでなく印刷・医学の知識も持っていた。赤痢・天然痘が流行すると、浦上四番崩れで生き残った信徒たちを迎え、松永マキ等を看護婦として育成し「十字会」(後のお告げのマリア修道会)の基礎を築いた。出津救助院を建設し、2階は未亡人の貧困女性50数名の共同生活の場、1階は仕事場として日本初のマカロニ、そうめんの生産、また小麦、イチゴ、トマト、落花生等を栽培し長崎外国人居留地で販売した。さらに出津救助院に診療所と薬局を開き日本人医師に西洋医学を指導した。

女子修道会の来日で広がる医療・福祉・教育

 プチジャン神父はローマへの信徒発見の報告に併せて、パリで指導していた女子修道会に日本派遣を要請した。そして、信愛女学院のショファイユの幼きイエズス修道会は神戸に(1877年)上陸、1889年に熊本に来て孤児のための天使園を始めた。マリアの宣教者フランシスコ修道会は熊本に来て(1897年)、ハンセン病治療の療養施設「待老院」を建てる。白百合学園のシャルトルの聖パウロ修道女会は1877(明治9)年に函館に上陸し1900年に九州熊本の八代に来て社会福祉施設(八代ナザレ園)を建て、2025年に125周年を迎えた。サンモール会(現幼きイエス会)にも声を掛け、1872年に神奈川(横浜)に上陸し、教育と社会福祉に力を入れ、1925年九州福岡に双葉幼稚園を設立、現在の福岡雙葉学園につながっている。

 バチカンの指導の下、1891(明治24)年、日本全国に司教区制を導入し、東京大司教区、函館司教区、大阪司教区、長崎司教区が誕生した。1926(昭和元)年、函館司教区司祭の早坂久之助神父を日本人初の司教に任命、1928(昭和3)年1月16日、長崎司教に着座した。そして長崎教区(九州全体)を3分割し、?長崎教区(長崎市内)を邦人司祭に、?福岡教区(福岡、佐賀、熊本、大分、宮崎の5県)をパリ外国宣教会に、翌年、宮崎と大分を分離しサレジオ会(1925年に来日)に託した。そして?鹿児島教区(鹿児島県)をカナダのフランシスコ会に託すことで今日に至るカトリック教会の組織の原型ができた。

「イタリア&天草新しい友情プロジェト」スタート

 2025年9月、ローマに近いルッカ区司教一行が大航海時代の地図に書かれたAMACUSAを訪問。潜伏キリシタンの末裔で漫画家の高濱寛氏が、天草四郎の物語をイタリアで出版した。2024年にルッカ教区で開催された漫画シンポジウムでの高濱氏の講演を機に「天草&イタリア新しい友情プロジェクト」()がスタート、インバウンドを含めた「福音への道」が動き出したのである。(おわり

15:19
2025/12/03

POLITICAL ECONOMY第300号

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幕末のフランス人上陸でキリスト教宣教が再スタート
~九州の視点からの考察~(前編)    
             元東海大学教授 小野 豊和

 日本が戦国時代を迎える頃、世界は大航海時代を迎え、スペインはアメリカ大陸経由フィリピンに到達。一方、ポルトガルはアフリカ喜望峰を回ってインドに到達した。1534年にカトリック修道会のイエズス会が設立され、ポルトガルの協力を得て、創立者の一人フランシスコ・ザビエルがアジアに向かった。マラッカでヤジロウと出会い、日本への布教を決意した。1549年8月15日に鹿児島に上陸し100人余の信徒を得る。ポルトガル船で平戸に行くと南蛮貿易を進めたい領主の松浦隆信に歓迎され、平戸をキリスト教布教の拠点とした。

ザビエルの布教で根を張る

 ザビエルは天皇の全国布教許可を得るため京に上るが、応仁の乱で天皇の権威が失墜していたため平戸に戻る。その後来日したトルレス神父から洗礼を授けた大村領主の大村純忠が日本初のキリシタン大名となり、トルレス神父らの努力で島原の有馬藩、天草などで信徒が増やした。織田信長から布教許可を得たルイス・フロイス神父によって畿内での布教が始まり高山右近、小西行長、黒田官兵衛など有力武将が洗礼を受けた。その後、大内義隆(山口)、大友宗麟(豊後)に歓迎され、さらに多くの信徒を得た。

 ザビエルの日本滞在は2年3カ月。インドのゴアに戻って中国本土への上陸を目指すが上海を目前に病死した。幕府は南蛮貿易を進めるためキリスト教に対して保護政策を取っていたが、大名へのキリシタンの広がりを恐れた秀吉が、前触れなく「伴天連追放令(1587年)」を出し、キリスト教信仰を禁止した。1596年にスペイン船サン・フェリペ号が土佐に漂着した際、積み荷の没収を恐れた乗組員が「スペインは世界の強国で宣教師を送って信徒を増やし、その国を征服する」と話したこが秀吉に伝わると、京都の宣教師や信徒を捕まえ、1597年2月5日に長崎で26人を処刑した(後に日本26聖人に列聖)。

 徳川幕府になっても新たに禁教令(1613年)を発布し、キリスト教の信仰を禁止し宣教師の追放と教会の破壊を命じた。幕府はキリスト教を「神仏を惑わす邪宗」とみなし、島原の乱(1637-1638年)後の弾圧強化を経て、ポルトガル船の来航禁止(1639年)、さらに「踏み絵」などによる信徒の摘発と密航する宣教師や信徒の迫害が続く。指導者を失うことになったキリシタンたちは「7代経つと宣教師がやってくる」との予言を心の支えにして生きぬく。

250年後、予言通り宣教師の再来日が実現

 ペリー来航で開国(1858年)したが、キリスト教徒迫害を続ける幕府は、欧米諸国の圧力に屈して同年米英蘭露仏5か国との修好通商条約を締結した。その結果、5か国のために神奈川(横浜)・長崎・新潟・兵庫(神戸)・函館の港を開き、外国人居留地を設けた。長崎の居留地にパリ外国宣教会がフランス人のための教会「大浦天主堂」を建て、そこに浦上の潜伏キリシタンたちが訪問(1865年3月7日)し、「サンタマリア様だ…」と感激した。250年前にキリシタン迫害で指導者を失うが、予言通り宣教師の再来日が実現した。
 
 パリ外国宣教会のプチジャン神父がローマに“信徒発見”と報告し世界を驚かせた。浦上の潜伏キリシタンたちは、それまで仏教徒のしきたりに合わせて生活していたが、プチ
ジャン神父に出会った感激の余り、仏式の葬儀を怠ったことでキリシタ
ンであることが発覚し捕縛、投獄された。幕府の禁教令が続いていたためで、特に長崎奉行は「踏み絵」「懸賞訴人制度」「五人組連座の制」さらに「寺請制度」「宗門人別改制度」など徹底的な取り締まりを行った。浦上四番崩れの悲劇の始まりで、1874(明治6)年の禁教令廃止まで悲劇が続いた。捕縛された浦上の信徒は3,394人。西日本各地に流配され613人が亡くなった(図参照)。(つづく



11:30
2025/12/02

POLITICAL ECONOMY第299号

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放置できないレベルにある富の偏り                           

  NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員 平田 芳年

 25年12月17日の共同通信によると「日銀が発表した2025年7~9月期の資金循環統計速報で家計(個人)が保有する金融資産の残高は9月末時点で2286兆円となった。1年前と比べて4.9%増加し、過去最大を更新した」という。株式や投資信託といった運用資産が増えたことが大きな要因だが、全体の半分を占める現金・預金も0.5%増の1122兆円と拡大を続けている。

 マクロで見れば国全体の金融資産が増え続けることは家計が豊かになるので喜ばしいことになりそうだが、個々の世帯で見ると大半の人々は年々資産が増えているという実感はほとんどない。ではどのような人たちが資産増の恩恵を受けているのだろうか。

増加する富裕層、超富裕層

 野村総合研究所が25年初めに公表した「2023年の日本における純金融資産保有額別の世帯数と資産規模」によると、純金融資産保有額が1億円以上5億円未満の「富裕層」、および同5億円以上の「超富裕層」を合わせると165.3万世帯に上り、その純金融資産の総額は約469兆円と推計。前回調査(2021年時点)の148.5世帯から11.3%増、わずか2年で1億円以上の資産を保有する層が約17万世帯も増加しているのだという(昔風に言えば、億万長者がこれだけいるということ)。内訳は、富裕層が153.5万世帯、超富裕層が11.8万世帯で富裕層・超富裕層の合計世帯数は、この推計を開始した05年以降増加しており、それぞれの世帯数も、2013年以降は一貫して増加傾向にあるという。05年に比べ、富裕層世帯は2倍に膨らんだ。

  同総研によると、「相続」によって、相続人が富裕層・超富裕層となるケースも増えているが、新たに富裕層となった世帯で目立つのは、従業員持株会や確定拠出年金、NISA枠の活用などを通じて、運用資産が1億円を超えた人々と都市部居住で世帯年収3,000万円以上の大企業共働き世帯に代表される人々で、前者を「いつの間にか富裕」、後者を「スーパーパワーファミリー層」と命名。今後もこの二つの層は増え続けると見ている。

  「21世紀の資本」で世界史的な所得・資産分布を論じたトマ・ピケティは「戦争など特別な事情がない限り、所得や富の格差は内生的なメカニズムで拡大し続ける」と指摘、富の偏在は資本主義社会では必然の事態と強調した。しかし富める者が増え続ける一方で、可処分所得が127万円以下の相対的貧困率は15.4%、約2,000万人が貧困ライン以下での生活を余儀なくされており、単身世帯、子育て世帯(特にひとり親世帯)、高齢者世帯などで貧困率が高い。日本の相対的貧困率はOECD(経済協力開発機構)加盟38カ国中7位、G7のなかでは最も高い水準にあるとのデータを見ると、富の偏り(格差)は放置できないレベルにあるのではないか。

所得・資産再分配政策の実施が急務
  
 トマ・ピケティは富の偏在を是正する政策として「資産課税が望ましい」と指摘しているが、日本では「税制に不満があっても、それが直ちに富裕層課税強化という要求に結びつかず、制度全体の問題として拡散する傾向がある」(ビジネス・マーケティング勝鬨美樹氏)。所得税の最高税率は5割超と米国に比べ相対的に高い水準だが、富裕層の資産形成を担う金融所得は2割の分離課税と優遇されており、「富裕税」など資産に対する新規課税論も出てこない。

 年末にまとまった政府の26年度税制改正案で超富裕層に対する所得税の追加負担強化が打ち出されたが、わずか数%の課税上乗せに止まっており、富の偏在を是正するにはほど遠い措置だ。金融資産1億円以上の富裕層が165万世帯を超える一方で、419万円以下しか保有しない層が2800万世帯に上り、生活保護世帯数164万7,346(2025年)、「年収200万円、資産ゼロ」世帯が増え続ける現実は経済構造としても相当歪んでいる。こうした富の偏在を放置し続けると、中間層の没落、貧困層の生活悪化、社会の分断、経済の停滞などを引き起こし、近い将来、手痛いダメージとなって日本社会に跳ね返ってくることは避けられない。富の偏在を是正するための所得・資産再分配政策の実施が急務だ。

16:44
2025/11/13

POLITICAL ECONOMY第298号

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ロシア戦時経済の死角、エネルギー販売収入の大幅な減少

        季刊『言論空間』編集委員 武部 伸一
 
 2022年2月開戦以来、4年近くが経過するウクライナ戦争。日本のマスコミではロシア有利の戦況報道が続いている。だが、プーチンの戦争を支えるロシア経済に問題はないのだろうか。

原油安とルーブル高、二重の困難に直面するロシア経済

 経済誌『Forbes Japan(WEB版)』25年12月2日付記事に「ロシアの石油収入が11月に激減 財政圧力が深刻化」との記事が掲載された。筆者は化学エネルギー分野専門記者ロバート・ラピエール。https://forbesjapan.com/articles/detail/86026

同記事によれば25年11月のロシア石油・天然ガス販売収入は5200億ルーブル(約1兆円)、これは前年同月比で35%の減少。1~11月期の石油・天然ガス収入累計は1020億ドル(約16兆円)、前年比で約22%の減少とのこと。

 その原因は先ず、原油価格の下落。確かに25年1月時点で1バレル当たり73ドルを超えていたドバイ原油は10月には約64ドル。12%を超える下落となっている。さらに同記事によれば、ロシア原油は世界の基準価格に対し大幅な割引での取引を余儀なくされ、一部では1バレル30ドル台半ばまで下落しているとのことだ。

 これに追い打ちをかけるのがルーブル高。25年12月3日付ロイター配信記事によればルーブルは今年に入り対ドルで5割近く上昇、ロシアのレシェトニコフ経済発展相は「当面ルーブル高が続く」と予測、「新たな現実と共存する必要がある」と述べている。

 もちろん、一定の国内完結型の産業構造を持つロシアにとって、エネルギー販売収入の減少が即時に国内経済の崩壊を招くわけではないだろう。

 しかし、Forbes記事によればロシアは連邦予算の4分の1をエネルギー収入に頼っている。このまま26年も原油安・ルーブル高の基調が続くならば、プーチンの戦争経済に大きな影響を及ぼすことに間違いはないだろう。

石油関連施設への攻撃を強めるウクライナ

 現在、ウクライナ戦争の主戦場である東部ドンバス戦線においては守勢にあるウクライナだが、直近ではロシア内陸及び黒海沿岸の石油関連施設へのドローン攻撃を強めている。また報道によると本年12月ウクライナは黒海において、「影の船団」と呼ばれる制裁逃れのロシア産原油輸送タンカー2隻に水上ドローン攻撃を行い航行不能とした。

 これらウクライナの攻撃では、ロシア産原油輸出が一時停止を余儀なくされる、またロシア国内特に極東などの一部地方においてのガソリン不足を招くなどの影響が出ているようだ。

 一方ウクライナ国内では、11月にゼレンスキー政権有力閣僚による大規模な汚職事件が発覚し政権基盤が揺らいでいる。また国際的にはトランプ米国大統領から、繰り返し停戦(事実上ロシアへの屈服)の圧力が加えられている。

 このような状況下、現在ドンバスの戦場ではウクライナの拠点ポクロウシクがロシアの攻勢で陥落の瀬戸際にある。しかしこれをロシアの圧倒的な軍事的優位と評価することはできないだろう。ポクロウシク包囲戦は1年間にわたり継続してきた。ロシア軍はその主戦力を傾注しても、廃墟となった小都市を占拠するのに1年の時間を要している。前線ではぎりぎりの攻防が続いているのだ。

ロシア国民はいつまでプーチンの戦争に耐えられるか

 2022年2月開戦以降のロシア経済は、西側諸国の制裁にも関わらず、中国・インドをはじめとする非西側諸国との経済関係強化、戦時経済への移行に伴う国内需要増から、国際社会の予測を上回る好調を維持してきたと言われる。

 しかし2025年、ロシア経済の大きな柱であるエネルギー輸出収入は、国際原油価格と為替レートに依存する不安定な構造にあることが明らかになった。加えて、ウクライナからの執拗な石油関連施設への攻撃が続く。

 ロシア戦時経済体制は、どこまで持続可能性を維持できるのであろうか。プーチンのウクライナ侵略戦争はいつまで続くのであろうか。

 朝日新聞元モスクワ支局長の駒木明義論説委員による『ロシアから見える世界 なぜプーチンを止められないのか』(朝日新書2024年9月刊)に次のような一節がある。

 「もともとロシアの国民は、年金や物価の問題を巡って政権に反発することはあっても、外交や軍事といった分野は自分たちとは関係ないと考える傾向が強い。」

 たしかにプーチンと「特別軍事作戦」へのロシア国民の支持率は今も低くはないようだ。しかし26年、ロシア戦時経済の行き詰まりがさらに明らかになるとすればどうか。

 ロシア経済と国民の意識について注視を続け、プーチンのウクライナ侵略戦争の行方を追っていきたい。


21:57
2025/11/02

POLITICAL ECONOMY第297号

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グローバル税制の現在地
          横浜アクションリサーチ 金子 文夫

 高市政権が様々な経済政策を打ち出すなかで、金融所得課税、法人税の租税特別措置の見直しなど、ようやく消費税以外の税制への関心が高まってきた。しかし、依然として内向き志向が強く、世界的に進行している国際課税制度の改革問題についてはほとんど話題にならない。以下では、最近のグローバル税制改革の動向について、三つの側面から整理してみたい。

BEPSから国連枠組条約へ―グローバル法人税改革

 21世紀に入り、経済のグローバル化、デジタル化が進む中で、グローバル企業のタックスヘイブンを利用した課税逃れが横行し、従来の国際課税制度では対応できなくなった。OECDは2012年にBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを立ち上げ、G20との共同の取組として、2015年には15項目の行動計画を作成した。それに基づき、2016年に多国間BEPS条約が締結され、加盟国・地域は2025年11月時点で107に達した。その成果は多方面に渡るが、グローバル企業に国別報告書を提出させるなど、情報開示が義務付けられたことが重要だ。

 その後、残された課題に取り組むべく参加国を増やしてBEPS2.0(包摂的枠組)交渉が進められ、2本柱のグローバル法人税改革案が作成された。しかし、第1の柱(デジタル企業への課税権を市場国にも配分)は米国が拒否したため多国間条約が成立せず、行き詰まってしまった。第2の柱(グローバル・ミニマム課税)は法人税の世界共通最低税率15%を設定するもので、日本を含む各国は国内法を改訂し、実施過程に入った。ところが、これに対しても米国が異議を唱えたため、G7は米国企業を対象外とする便宜的対応をとり、改革の意義は骨抜きにされた。

 こうした先進国主導のBEPSプロジェクトに対して、グローバルサウスは国連のもとで改革に取り組むべきと主張し、2023年末の国連総会で「国際租税協力に関する国連枠組条約」の促進が決議された。2024年の準備プロセスを経て、2025年から3年間の政府間交渉が始まり、11月にはナイロビで第3回会合が開かれている。当面の目標は、枠組み条約本体および国際デジタルサービス法人税、租税紛争の予防・解決という二つの議定書の採択だ。この交渉が開始された直後、米国は交渉からの離脱を表明している。これは交渉を進めやすくする反面、成果に実効性をもたせる点では問題が残るだろう。

超富裕層課税?グローバル所得税・資産税改革

 2024年7月、ブラジルで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議において「国際租税協力に関するリオデジャネイロ宣言」が採択された。そこで注目されたのが、超富裕層に対する国際協力に基づく課税だ。これはフランスの経済学者ズックマンが提出した報告書に基づく宣言であり、要点は次のようなものだ。世界で10億ドル以上の資産をもつ個人は約3000人、総資産額は14兆ドルに達する。ここから生まれる所得に年2%課税すると約2000億ドルの税収が得られる。この額は世界のODA総額に匹敵するほどの規模であり、さらに対象を1億ドル以上の資産家に広げ、税率を3%に上げれば、税収約6000億ドルにのぼると見込まれる。

 この課税方式は所得税の形をとっているが、実質的には資産税だ。実現のためにはグローバル富裕層のデータベースが必要になる。それには各国税務当局の国際協力が欠かせないし、富裕層が軽課税国に住居を移しても捕捉できる仕組みも必要だ。早期に実現するものではないが、そうした議論が出てきたこと自体、画期的と評価できる。

グローバル連帯税の現状

 グローバル税制改革の議論は、現時点では、課税対象はグローバルであるとしても、税収は各国が取得する前提で進められている。これに対して国際連帯税(グローバル連帯税)は税収の使途をSDGsなどグローバル課題に向けるという構想だ。2006年に導入された航空券連帯税は税収を国際機関が管理し、国際保健分野に投じるという唯一実現している連帯税だ。しかし、この施策の推進役だったフランスは、航空券課税の税率を引き上げるとともに、税収を一般財源にする方針に転じた。この決定は航空券連帯税の推進にとってマイナス効果を生むだろう。一方、日本では航空券課税は国際観光旅客税(出国税)として実現し、その税率引き上げが議論される状況にある。この際、国際観光が感染症を拡大させる点に注目し、税収の一部を国際保健分野に向けることを検討すべきではないか。

 フランスには別の動きもある。2024年、フランス、ケニア、バルバドス政府の呼びかけで「気候・開発・自然のための国際課税に関するタスクフォース」が組織された。気候変動などのグローバル課題の財源調達を目的とする構想であり、スペイン、アイルランド、コロンビアなどが参加を表明した。課税案として、航空旅客税、富裕税、航空燃料税、化石燃料生産者課税などがあげられている。

 その延長上に、2025年6月の国連第4回開発資金国際会議(スペインのセビリア)に合わせて、フランス、ケニア、バルバドス、スペインなど8カ国が、「プレミアム旅客への課税を求める連帯連合」を発足させた。これはファーストクラスやプライベートジェットを利用する富裕層に的を絞り、グローバル財源の獲得を目指す試みであり、今後国際社会でどれだけ賛同を集められるか注目される。


09:27
2025/10/16

POLITICAL ECONOMY第296号

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秋田県で起きていることは日本社会の縮図
            街角ウォッチャー 金田 麗子

 環境省によると、今年度上半期の熊の出没件数は2万792件。件数を公表していない北海道を除くと、岩手県4499件、秋田県4005件。青森1835件、山形1291件と続き、東北6県の出没件数が全国の6割を占めている。捕獲件数はすでに6063頭に達している。

 今年の特徴は人の生活圏への発生割合が7割以上で、人的被害は99件108人に達している。背景として、温暖化による気候変動で、主食の団栗などのエサが減少していることや、個体数が増加していること、超少子高齢化による人口減少などが上げられている。

 秋田県は私の故郷だが、一昨年からの出没地域は、90年代以降に衰退した集落地域に重なっていて、そこから市街地、スーパー、バス路線道路、学校、病院、人家の小屋、家屋内まで広がっている。

 頻繁に熊の出没を知らせる警報や、パトカーの巡回で、餌となる柿や栗の実、畑の作物を取り入れるようアナウンスされても、老人ばかりの世帯が多く迅速な対応が出来ないと、友人が嘆いていた。

 根本的な対策として、草刈り間伐など、人の生活感を熊に示していく必要があっても、高齢化で困難を極めている。熊の駆除にあたる秋田県猟友会も、1471人のうち44%が70代以上(2023年3月)と高齢化が進み、世代交代が不可欠だ。

 11月13日からライフルを携帯する警察官を配置。熊の駆除にあたるというが、経験を積まなければ警官の命はもちろん住民が流れ弾に当たる危険とも隣り合わせである。この先を見越して、猟友会のベテランに指導を受けて、公的なハンターを増やす対策をとることは必須だろう。

女性に選んでもらえる職場や地域

 『ルポ人が減る社会で起きること―秋田「少子高齢課題県」はいま』(工藤哲、岩波書店)(写真)によると、2024年度、日本の出生数は68.7万人に対し、秋田は3309人である。人口減少率の高さは全国一。高齢化率も全国平均29,3%に対し、秋田のみ40%を超えている。さらに国立社会保障・人口問題研究所によると、今後約25年間に4割近くも人口減少すると予想されているのである。

 人口減少の影響は、学校、公民館、金融機関、農協、医療機関、交通機関にもおよび、存続のために広域化が迫られている。県内の事業の社長の平均年齢62.5歳(帝国データバンク秋田、2023年)、後継者不在率は2023年70.0%だ。自衛隊、海上保安庁、警察官の採用倍率の低下と、経済活動も明日が見えない状況だ。

 15~24歳の若年層の転出超過状況も突出している。入学や就職を契機に東京圏、仙台など出て戻らない。若年女性はさらに多い。自分の希望や条件にあう職場を求め県外にでるだけでなく、周囲からの過度な干渉、性別による役割の固定化など閉鎖的雰囲気の地域を避け、都会に出ていくという。

 本書に紹介されている2023年に秋田市で行われたシンポジウムでは、自治体は出生数を増やし人口を減らさないことを目標にするなら、結婚支援や子育て支援だけでなく、女性に選んでもらう職場や地域を作っていかなければならないと指摘されているのだが、熊対策以上に遅きに失しているのだ。

 しかしこれは秋田だけの傾向ではない。国立社会保障・人口問題研究所は2040~45年には東京都も含めすべての地域で減少していくと推計している。本書でも秋田で起きている現象は、全国に広がると指摘している。

 朝日新聞(7月10日)に掲載された地方の女性の生きづらさを語るインタビュー動画を配信する「地方女子プロジェクト」の主催者・山本蓮さんによると、地方の生きづらさを100人を超え発信してきたが、働く場所が少ないだけでなく、都市部以上に結婚圧力の強さや、女性はリーダーに向かないなどの偏見、多様な生き方を示すロールモデルの少なさ、性別役割分業意識を強さなど、生きづらさを語っているという。

 政府が唱える「地方創生」は、若年女性の維持獲得が、その地方の存続可能性と結びつけられるが、当事者の思いを置き去りにし、子育てのしやすさを前面に押し出す自治体が多いが、子を持つ親への支援が前提で、女性が地方でキャリアを積み上げるための視点が不足していると指摘している。

「ケア責任」を共同に支えることが超少子高齢社会を変える

 『ケアする私のしんどさはどこから来るのか』(山根純佳・平山亮、勁草書房)によると、女性は自然と気遣いや思いやりができる存在という「ジェンダー」により子育てや介護を女性がやることを「自然」「必然」であるように、ケア責任を強制されているという。

 人間は生まれてから死ぬまで誰かの助けがないと死に直結する。乳幼児期、高齢期、障がい、病気などの時期であればなおさら。誰かがケアを引き受けなければ社会は持続不可能、社会の基礎となる活動である。しかもどのようなケアが必要なのか、求められ正しいのかは、常に正解はなく、悩み考える時間エネルギーを不断に必要とする。個人が一人で抱えるものではない。男性も「ケアに向かない」「長時間労働だから無理」という男性性の思い込みではなく、ケアを担う当事者として、福祉関係者や行政などと連携し、孤立化させないことが、ケアを必要とする当事者を守ることと指摘する。

 『世界』10月号で鈴木彩加氏(筑波大学)が、「『主婦的なるもの』の政治性」で指摘しているように、家庭内のケアを引き受けながら、それをよりよく行いたい、病気の時は寄り添いたい、子供の成長を見守りたいなど。本来は性別を問わず誰もが持ちうる、誰もが引き受けられるような形で、社会が支えられるべきものを「主婦的なるもの」と呼び、労働時間の短縮や男女同一価値労働同一賃金などの要求だけでは、ケアすることの価値に答えてはいないのだろうと、リベラル政党の訴求力の弱さを指摘する。

 ますます進む超少子高齢化する社会をどうしていくか。「生活の希望」としての共有可能な形で語り、分断ではなく共感を育てる「言葉の政治」が必要という提言に賛同する。今こそ「何を」だけでなく、どう語りどう合意していくかの「作風」が求められている。


18:03
2025/09/29

POLITICAL ECONOMY第295号

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アメリカ・ファーストの源流に“いらいらした愛国心” 
             金融取引法研究者 笠原 一郎
 
 昨年、アメリカ・ファーストを掲げ、波乱の中で大統領に再び返り咲いたドナルド・トランプが打ち出した「トランプ関税」-これまで利害が異なる各国が築き上げてきた貿易秩序を破壊しかねない、唯我独尊とも思われる行い-には、日本に限らず世界中が振り回されているように見える。一方で、トランプが少なからぬアメリカ国民からの熱狂的ともいえる支持を受けていることも、また事実であろう。

自分たちが作ってきたことが国をまとめるもの

 このようなトランプに熱狂するアメリカの民衆の心の底に流れているものは何か、その手掛かりの一つとして、30年近く前の政治学者 故高坂正堯(1)氏の教示がある。まず、高坂は代表的なアメリカ研究者であるトックビルの言葉を用いて「愛国心の核となる慣習、追憶を持たない人工国家たるアメリカの“いらいらした愛国心”、…… 自分たちが作ってきたこと、作っていること以外にアメリカを国としてまとめるものがなく、アメリカへの批判に対しては、……攻撃されているものは彼の国ばかりでなく、彼自身でもあるからなのである」との見方を示す。

 さらに高坂は、1914年パナマ運河の開通において米英間で取り決められた通航税についてアメリカが行った理不尽な決定に対して、時のイギリス大使プライスが外務官僚(後の総理大臣)幣原喜重郎に語った言葉を紹介している。プライスは「……戦争をする腹がなくて、抗議ばかり続けて、何の役に立ちましょうか」として、アメリカに対しパナマ運河に関する国際法の論文のような、長くて決して感情の混じっていない文書を送り、打ち止めとした。

 そして大使は「アメリカ人の歴史を見ると、外国に対して相当不正と行為を犯した例はある。しかし、その不正は、外国からの抗議とか請求とかによらず、アメリカ人自身の発意でそれを矯正している。これはアメリカの歴史が証明している。われわれは黙ってその時期の来るのを待つべきである」と語った。高坂は、このプライスの言葉を受け、「実際にはアメリカは自ら反省するのが本筋なのだが、そればかりに頼るわけにもいかない。……とくにアメリカは-現在の日本にも似て、いやそれ以上に-変わったところがあって、ヨーロッパの人々は長い時間をかけて、そのことを経験し、考えさせられてきた。そんな彼らのやり方、粘り、冷静さ、そしてどこでホコをおさめるのかを学び、考えること」が我々には必要と結んでいる。

 もうひとつ、トランプを生み出したアメリカの選挙、その報道をみると、共和党・民主党を問わず、推薦人による熱いキーノート・スピーチに支持者たちは歓喜し、立候補者はこれにこたえる形で熱弁をふるい、集まった多くの者はさらに狂喜し、集団的熱狂ともいえる姿が映じられる。わたしは、このような姿に自由で明るいフロンティア精神の国とイメージとの違和感を持ち続けていた。分断アメリカの熱狂、熱病とも思われる独善の根底について、キリスト教研究者 森本あんり(2) 氏は「若い移民の国、アメリカの生い立ち、厳格なピューリタンたちが「旧いイングランド」を脱し、神との新しい契約のもとで「新しいイングランド」を創設すべく、これから偉大な実験の旅に出ようとした国である」との底流を示したうえで、これらの行動は「信仰復興(リバイバル)であり……それは、ピューリタン社会の知的土壌の上に開花し、以後繰り返しアメリカ史にあらわれる、いわば周期的な熱病のようなものである」との見方を示す。

「自分たちが理想としているものは正しい」

 さらに、欧州政治研究者である君塚直隆(3)氏からは「東部13州から始まったアメリカが、先住民を周辺へと追いやりながら西漸活動を続け、ついには太平洋へと到達し・・・・・(この)ピューリタン的な価値観が及ぶ範囲を拡大させていくという活動」をとおして「自分たちが理想としているものは正しい」という社会的土壌があることを指摘している。

 このような独自の土壌をもったアメリカには、歴史的に見ても世界情勢に対する姿勢への振れ幅の大きさの指摘(4)がなされている。第5代大統領モンローが掲げた孤立主義、第一次大戦前後のアンチグローバル姿勢、国際連盟への加入不批准、一転、第2次大戦後、1950年代の国を挙げての集団パニックとも思える赤狩り、そして、民主主義の守護・世界の警察官を自認して、対ソ連の共同防衛網たるNATOを組成、朝鮮戦争・ベトナム戦争を主導し、民主主義の守護・世界の警察官を自認してきたかと思えば、アメリカ自国の利益しか考えないようにしか見えないトランプを出現させたのではないか、とも感じる。

 それはまさしく「(アメリカが)自分たちの理想を実現するために極端な行動をとる傾向……孤立主義と介入主義の両端に触れがちなのも、理想の実現をめぐっていつも両端に振れ動いている」、“いらいらした愛国心”を源流に持つ民衆の国であるとの視座を持ってすれば、“アメリカ・ファースト”、そして、己の価値観を押し付としか見えない“予測不能のトランプ”への多くの民衆の熱狂に、多少なりとも合点がつくのかもしれない。

(1)  高坂正堯『世界史の中から考える』新潮選書(1996)83-85頁参照
(2)  森本あんり『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』新
     潮選書(2015)21頁、56頁 参照
(3 ) 岡本隆司・君塚直隆『帝国で読み解く近現代史』中公新書ラクレ
  (2024)205頁 参照
(4)  岡本ほか(2024)・前掲注3)207頁


11:01
2025/09/16

POLITICAL ECONOMY第294号

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イスラエル・シオニストの虚偽、虚構
ガザ・ジェノサイドに至る植民地主義、人種差別主義
               経済アナリスト 柏木 勉 

 イスラエルは建国以来中東の平和、世界平和にとって大きな脅威となってきた。その成り立ちはナチスが犯したホロコースト、それを引き起こしたヨーロッパ、ロシアの「ユダヤ人問題」にある。ロシアは日本国内ではあまり知られていないようだが、ポグロムによるユダヤ人迫害がロシアを中心にシオニズムを誕生させ、その指導者達はイスラエル建国=パレスチナ人・アラブ人への弾圧、殺戮、追放(ナクバ)に大きく貢献した。シオニストはパレスチナに住む人々を野蛮人と呼び、彼らの土地を強奪、収奪して国民国家を作り上げた。だから、最初から植民地主義、人種差別主義をその本質とする。その様な国家は世界にとって大きな脅威であることは自明であるし、軍事支援を続けてきたトランプ等歴代の米政権と米国福音派、ドイツ、イギリス、フランス等は大罪を犯して来たのだ。ドイツについていえば、ホロコーストへの責任を深刻ぶった哲学的言辞で表明してきたが、今回のガザ大虐殺によってその欺瞞がはっきりした。

話しの本筋・基本はイスラエル解体
 イスラエル国民といっても様々な考えがあり、パレスチナ人との連帯をはかる人々もいる。だが少数をのぞくと、大勢は人種差別主義者であり植民地主義者である。小生はヨーロッパ、ロシア、米国が今日の惨状を現出させた責任をとり、イスラエルを解体し、その国民を引きとるべきだと考える。解体して引き取るべき割合は、欧米三分の二、ロシア三分の一が適当だろう。これが話の本筋であり、問題解決の根本だ。この本筋を確認しない限り一時的な「解決」は必ず破綻する。実際、歴史はそのように推移したし、今後もそうだ。(なお、以上は根本である責任の明確化である。具体的解体策等々ではない)

 話しの本筋=イスラエル建国の非道・不当性は、欧米やイスラエル政権がまき散らす愚昧なレトリックやデマゴギーは一切無視して、次の簡単な応答ですぐわかる。
・「パレスチナ人にホロコーストの責任はあるか?」 答えは「責任はない」。
・「ホロコーストに責任のないパレスチナ人が、なぜホロコーストの責任のツケを払わなくてはならないのか?」 答えは「払う必要はない」。 
このきわめて単純な応答を否定できるものはいない。

幻想にすぎない神話を解体せよ! 
 次に、現代にいたってもなお存続する神話解体が必須である。第一には、シオニストのいう「約束の地・パレスチナへの帰還」はユダヤ教の教えに反するただのナショナリズムにすぎない。ユダヤ教の説く「約束の地への帰還」とは精神のなかの問題であり、シオニストが唱えるような現実の地理上の物理的空間=空間的・物理的地域への移住ではない。精神のなかでの問題なのだ。そして神のなすわざであって人間のなすわざではないとされる。

 そもそもイスラエルを主導するシオニストはとっくにユダヤ教を捨て去ったが、国内ではまがいものの宗教行事を政治的に利用して、それを隠蔽している。だがイスラエル国民の大半は無信仰者でありユダヤ教とは無関係だ。元々、イスラエルは単なる近代ナショナリズム国家にすぎない。

 次に、聖書やエルサレム神殿破壊やローマによる「追放」等々が、現代イスラエル国家が連綿として結びついているというのも、悪質な神話である。聖書や古代からの神話を現在と直結させている。天照大御神や神武天皇と現代日本国家が連綿として結びついているという主張と同じだ。愚かしさの極みだ。加えて、歴史的には例えば紀元前13世紀とされるモーゼの「出エジプト」はなかった。そのころのカナンの地はエジプトが支配していたのだ。ダビデやソロモンの時代の強国も存在せず、当時のエルサレムはわびしい小村にすぎなかった。また「追放」もなかった。「追放」を記した歴史書は一冊もない。「追放」は発明されたのだ。殆どのユダヤ人はそのままパレスチナの地にとどまり、その後はイスラムの支配を受け入れた。

 シオニストは国民国家イスラエルを「正当化」すべく、聖書と「民族」をつなげるため「ユダヤ人」をつくり出したのだ。(注:シュロモー・サンド 「ユダヤ人の起源」 浩気社 2010年を参照)

 次に重要なことは、近代「ユダヤ人問題」とそれ以前の宗教的対立とを区分することである。アーレントは、著書「全体主義の起源」の中の「反ユダヤ主義」の章で、概要次のように述べている。反ユダヤ主義」は1870年代以前には存在せず、近代の「反ユダヤ主義」とそれ以前の宗教上の対立によるユダヤ人憎悪とは別物であると。つまり、近代の反ユダヤ主義は資本主義の発展と変容から生まれたのだ。古代からの歴史とは関係はない。古代と現代を短絡させるべきでない。

「ユダヤ人国家」はナチスの「純粋アーリア人国家」と同じ
 最後に、イスラエルは独立宣言や基本法で「ユダヤ人国家」と規定されている。これはナチスと同じ思想である。ナチスは真正のアーリア人・帝国市民とユダヤ人等(非帝国市民)を区分した。ユダヤ人を母系優先血統主義でまがいものの定義づけをおこない(ニュルンベクク法)、ユダヤ人は二等市民と位置付けられ、最後は絶滅作戦につな
がった。イスラエルも基本的に同じ母系優先血統主義でユダヤ人と非ユダヤ人(パレスチナ人等ミズラヒ・スファラディーム)を区分し、非ユダヤ人は事実上二級市民である。人種・民族で区分すれば必然的に差別意識が亢進していく。それが結局区ナチスと同じガザ・大虐殺をひきおこしたのだ。もはやイスラエルは「ホロコースト」を売り物にできない。

20:42
2025/08/31

POLITICAL ECONOMY第293号

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モンドラゴン協同組合の進化と課題 ―「もう一つの働き方」への挑戦

労働調査協議会客員調査研究員 白石 利政

 電機連合は電機産業で働く労働者の意識に関する国際調査をこれまでに3回実施している。その第2回調査(1994~95年)には14か国が参加、スペインからは国内最大の電機メーカー、ファゴール・エレクトロドメスティコス(以下「ファゴール」と略)が対象となった。経営主体が協同組合ということで驚いた。

 ファゴールの前身は、ホセ・マリア・アリスメンディアリエタ神父が1943年に設立した技術学校の教え子5人が19
56年に始めた「ウルゴル」。主たる製品は石油ストーブ。協同組合方式を採用したのは1956年からで、家電製品などの製造に力を入れるようになった1960年に「ファゴール」に改名した。その後、電機・電子部門のグループ化に取り組み1992年には7,000人もの雇用を抱えるまでに成長した。

 回収されたサンプルは168件で少ないものの全員が協同組合員ということにユニークさがある。協同組合員の職場生活についての満足度は高い。職場生活に関する14項目中、「福利厚生」を除いて、いずれも日本の<満足>を上回っている。雇用の安定や、経営者・管理者への信頼、職場の人間関係の良好さなどが窺える()。

モンドラゴン協同組合の成立と「10の基本原則」

 製造から出発した協同組合は、金融(1959年に社会保障と銀行の協同組合をそれぞれ発足・設立)、流通(5つの消費者協同組合が1969年に合併、名称をエロスキに)、知識(技術学校が1957年に正式認可、モンドラゴン大学の設立は1997年)といった異なる部門に広げ、成長し、グループ化を図っていった。

 モンドラゴングループ(現:モンドラゴン協同組合)は第1回総会(1987年)で、次のような協同組合全体を統一し運営の方向性を示す「10の基本原則」を採択している。

1.自発的かつ開かれた参加。2.労働の主権。3.労働者による自己管理(「一人一票」の原則)。4.報酬の連帯(賃金の最低と最高を原則1:6)。5.参加型経営。6.利益の社会的利用(利潤の社会的分配、雇用創出や社会貢献に再投資)。7. 協同組合間の相互扶助(連帯、支え合い、知識・リソース・リスクを共有)。8.社会的変革への貢献。9.普遍性の原則(性別、人種、信条、文化に関係なくすべての人の尊厳と権利を尊重する)。10.教育・訓練(教育と継続的なスキル向上に投資し、協同組合の理念の伝達)。

 順調に見えるモンドラゴン協同組合には、思いもしない倒産やグループからの脱退という事態も生じ、ふだん見過ごされていた問題が表面化する。

「ファゴール」の倒産 ― 人事・労務政策もその一因

 モンドラゴン協同組合の発祥で我々の調査対象となった「ファゴール」が2008年のリーマンショック以降、売上が急減、約10億ユーロの債務を抱え経営破綻、モンドラゴン協同組合グループからの支援も限界に達し、救済不能と判断され2013年11月に倒産した。従業員は約5,600人(スペイン国内で約2,000人)。2014年の公式年表には「影響を受けた1,900人の組合員のうち90%が雇用の解決策を見つけることができた」と。しかし非協同組合員の相当数は職を失った。

 この倒産についてバスク大学所属の研究者らはファゴールの人事・労務政策に着目し、次の4点を指摘している。

 その1つは協同組合員の家族や親族の優先雇用制度による能力重視の欠如(100点中最大30点を付与。5年以上の職務経験者は10点)。2つ目は欠勤率の高さ(2010年の協同組合員は8.8%、非協同組合員は3.4%、2012年はそれぞれ6.3%、1.0%。協同組合員の方が高い。また18歳から35歳で高かった)。3つ目は逆支配階層の生成と人的資源管理の対立(協同組合員の割合は1991年の86%から2007年には29.5%に急減。2006年にモンゲロス総支配人が解任され経営陣のリーダーシップが弱体化。厳しい人事政策の回避)、もうひとつは生産ラインへのテーラー主義的なマネジメント導入(協同組合主義の自律性と参加の価値観と矛盾する分業型・指示重視で労働者の参加意欲と仕事への満足度が低下)である。協同組合の「10の基本原則」を踏み外している。

モンドラゴン協組からの脱退―「協組間の相互扶助」の揺らぎ

 モンドラゴン協同組合からの脱退も、ふだん抑えられていた問題を明るみに出す。最近では2022年12月のオロナ協同組合(従業員5,500人、うち協同組合員は1,700人)とウルマ・グループ(同じく5,200人、2,800人)が話題となった。

 脱退理由はともに、モンドラゴン協同組合の中央からの管理や意思決定プロセスにもっと「自律性」を、である。この脱退により共助基金(利益の10%程度を拠出)から「解放」された(だが、モンドラゴン協同組合の労働者保険の継続や、モンドラゴン大学などとの協力関係は維持している)。脱退した両協同組合は、協同組合の「10の基本原則」に抵触している。

 モンドラゴン総会議長のペロ・ロドリゲス氏は“Mondragon Annual Report 2024で「売上高が112億ユーロを超え、従業員数は7万人を超え、6億3,200万ユーロという過去最高の利益を達成した。製造、金融、流通、知識の4つの分野は好調に推移し、協同組合モデルの有効性を実証している」と報告している。

 「創造し 所有せず、行動し 私物化せず、進歩し 支配せず」。これはモンドラゴン協同組合の創立者、ホセ・マリア・アリスメンディアリエタ神父のことばである。これからも協同組合の「10の基本原則」と照らし合わせ、課題を克服しながら、理念・「Humanity at Work」の実現へ向け歩を進めるものと思う。協同組合という「もう一つの働き方」の動向を見守りたい。

07:21
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金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

第47回研究会
「米中覇権争いとトランプの米中
“G2”構想の意味」

講師:平川均氏(国          士舘大学客員教           授・名古屋大学名誉教授)

日時:月6日(土)
   14時~17

場所:専修大学神田校
舎1号館12階社会科
学研究所会議室地下鉄
神保町駅A2出口、徒歩
約3分

資料代:1000円
オンライン参加ご希望の方は「オンライン研究会参加方法を参照の上お申し込みください。
 

これまでの研究会

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)


第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)

第45回研究会(2025年10月25日)「トランプ関税でどうなる欧州経済」(東北大学名誉教授 田中素香氏)

第46回研究会(2026年1月24日)「高市経済政策は何を目指しているのか!」(立命館大学経済学部教授 松尾匡氏)


これまでの研究会報告