日誌


2025/11/02

POLITICAL ECONOMY第297号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
グローバル税制の現在地
          横浜アクションリサーチ 金子 文夫

 高市政権が様々な経済政策を打ち出すなかで、金融所得課税、法人税の租税特別措置の見直しなど、ようやく消費税以外の税制への関心が高まってきた。しかし、依然として内向き志向が強く、世界的に進行している国際課税制度の改革問題についてはほとんど話題にならない。以下では、最近のグローバル税制改革の動向について、三つの側面から整理してみたい。

BEPSから国連枠組条約へ―グローバル法人税改革

 21世紀に入り、経済のグローバル化、デジタル化が進む中で、グローバル企業のタックスヘイブンを利用した課税逃れが横行し、従来の国際課税制度では対応できなくなった。OECDは2012年にBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを立ち上げ、G20との共同の取組として、2015年には15項目の行動計画を作成した。それに基づき、2016年に多国間BEPS条約が締結され、加盟国・地域は2025年11月時点で107に達した。その成果は多方面に渡るが、グローバル企業に国別報告書を提出させるなど、情報開示が義務付けられたことが重要だ。

 その後、残された課題に取り組むべく参加国を増やしてBEPS2.0(包摂的枠組)交渉が進められ、2本柱のグローバル法人税改革案が作成された。しかし、第1の柱(デジタル企業への課税権を市場国にも配分)は米国が拒否したため多国間条約が成立せず、行き詰まってしまった。第2の柱(グローバル・ミニマム課税)は法人税の世界共通最低税率15%を設定するもので、日本を含む各国は国内法を改訂し、実施過程に入った。ところが、これに対しても米国が異議を唱えたため、G7は米国企業を対象外とする便宜的対応をとり、改革の意義は骨抜きにされた。

 こうした先進国主導のBEPSプロジェクトに対して、グローバルサウスは国連のもとで改革に取り組むべきと主張し、2023年末の国連総会で「国際租税協力に関する国連枠組条約」の促進が決議された。2024年の準備プロセスを経て、2025年から3年間の政府間交渉が始まり、11月にはナイロビで第3回会合が開かれている。当面の目標は、枠組み条約本体および国際デジタルサービス法人税、租税紛争の予防・解決という二つの議定書の採択だ。この交渉が開始された直後、米国は交渉からの離脱を表明している。これは交渉を進めやすくする反面、成果に実効性をもたせる点では問題が残るだろう。

超富裕層課税?グローバル所得税・資産税改革

 2024年7月、ブラジルで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議において「国際租税協力に関するリオデジャネイロ宣言」が採択された。そこで注目されたのが、超富裕層に対する国際協力に基づく課税だ。これはフランスの経済学者ズックマンが提出した報告書に基づく宣言であり、要点は次のようなものだ。世界で10億ドル以上の資産をもつ個人は約3000人、総資産額は14兆ドルに達する。ここから生まれる所得に年2%課税すると約2000億ドルの税収が得られる。この額は世界のODA総額に匹敵するほどの規模であり、さらに対象を1億ドル以上の資産家に広げ、税率を3%に上げれば、税収約6000億ドルにのぼると見込まれる。

 この課税方式は所得税の形をとっているが、実質的には資産税だ。実現のためにはグローバル富裕層のデータベースが必要になる。それには各国税務当局の国際協力が欠かせないし、富裕層が軽課税国に住居を移しても捕捉できる仕組みも必要だ。早期に実現するものではないが、そうした議論が出てきたこと自体、画期的と評価できる。

グローバル連帯税の現状

 グローバル税制改革の議論は、現時点では、課税対象はグローバルであるとしても、税収は各国が取得する前提で進められている。これに対して国際連帯税(グローバル連帯税)は税収の使途をSDGsなどグローバル課題に向けるという構想だ。2006年に導入された航空券連帯税は税収を国際機関が管理し、国際保健分野に投じるという唯一実現している連帯税だ。しかし、この施策の推進役だったフランスは、航空券課税の税率を引き上げるとともに、税収を一般財源にする方針に転じた。この決定は航空券連帯税の推進にとってマイナス効果を生むだろう。一方、日本では航空券課税は国際観光旅客税(出国税)として実現し、その税率引き上げが議論される状況にある。この際、国際観光が感染症を拡大させる点に注目し、税収の一部を国際保健分野に向けることを検討すべきではないか。

 フランスには別の動きもある。2024年、フランス、ケニア、バルバドス政府の呼びかけで「気候・開発・自然のための国際課税に関するタスクフォース」が組織された。気候変動などのグローバル課題の財源調達を目的とする構想であり、スペイン、アイルランド、コロンビアなどが参加を表明した。課税案として、航空旅客税、富裕税、航空燃料税、化石燃料生産者課税などがあげられている。

 その延長上に、2025年6月の国連第4回開発資金国際会議(スペインのセビリア)に合わせて、フランス、ケニア、バルバドス、スペインなど8カ国が、「プレミアム旅客への課税を求める連帯連合」を発足させた。これはファーストクラスやプライベートジェットを利用する富裕層に的を絞り、グローバル財源の獲得を目指す試みであり、今後国際社会でどれだけ賛同を集められるか注目される。


09:27

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

会場が変更になりま
した。


第46回研究会

「高市経済政策は
何を目指している
のか!」

講師:松尾匡氏(立

  命館大学経済
  学部教授)

日時:
2026年1
  24日(土)
   14時~17

場所:専修大学神田校
舎10号館11階10115教
室(千代田区神田神保町
2-40地下鉄神保町駅A2
出口、徒歩約3分
資料代:1000円
オンライン参加ご希望の方
は「
オンライン研究会参加
方法
を参照の上お申し込
みください。
 

これまでの研究会

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)


第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)

第45回研究会(2025年10月25日)「トランプ関税でどうなる欧州経済」(東北大学名誉教授 田中素香氏)


これまでの研究会報告