日誌


2025/10/16

POLITICAL ECONOMY第296号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
秋田県で起きていることは日本社会の縮図
            街角ウォッチャー 金田 麗子

 環境省によると、今年度上半期の熊の出没件数は2万792件。件数を公表していない北海道を除くと、岩手県4499件、秋田県4005件。青森1835件、山形1291件と続き、東北6県の出没件数が全国の6割を占めている。捕獲件数はすでに6063頭に達している。

 今年の特徴は人の生活圏への発生割合が7割以上で、人的被害は99件108人に達している。背景として、温暖化による気候変動で、主食の団栗などのエサが減少していることや、個体数が増加していること、超少子高齢化による人口減少などが上げられている。

 秋田県は私の故郷だが、一昨年からの出没地域は、90年代以降に衰退した集落地域に重なっていて、そこから市街地、スーパー、バス路線道路、学校、病院、人家の小屋、家屋内まで広がっている。

 頻繁に熊の出没を知らせる警報や、パトカーの巡回で、餌となる柿や栗の実、畑の作物を取り入れるようアナウンスされても、老人ばかりの世帯が多く迅速な対応が出来ないと、友人が嘆いていた。

 根本的な対策として、草刈り間伐など、人の生活感を熊に示していく必要があっても、高齢化で困難を極めている。熊の駆除にあたる秋田県猟友会も、1471人のうち44%が70代以上(2023年3月)と高齢化が進み、世代交代が不可欠だ。

 11月13日からライフルを携帯する警察官を配置。熊の駆除にあたるというが、経験を積まなければ警官の命はもちろん住民が流れ弾に当たる危険とも隣り合わせである。この先を見越して、猟友会のベテランに指導を受けて、公的なハンターを増やす対策をとることは必須だろう。

女性に選んでもらえる職場や地域

 『ルポ人が減る社会で起きること―秋田「少子高齢課題県」はいま』(工藤哲、岩波書店)(写真)によると、2024年度、日本の出生数は68.7万人に対し、秋田は3309人である。人口減少率の高さは全国一。高齢化率も全国平均29,3%に対し、秋田のみ40%を超えている。さらに国立社会保障・人口問題研究所によると、今後約25年間に4割近くも人口減少すると予想されているのである。

 人口減少の影響は、学校、公民館、金融機関、農協、医療機関、交通機関にもおよび、存続のために広域化が迫られている。県内の事業の社長の平均年齢62.5歳(帝国データバンク秋田、2023年)、後継者不在率は2023年70.0%だ。自衛隊、海上保安庁、警察官の採用倍率の低下と、経済活動も明日が見えない状況だ。

 15~24歳の若年層の転出超過状況も突出している。入学や就職を契機に東京圏、仙台など出て戻らない。若年女性はさらに多い。自分の希望や条件にあう職場を求め県外にでるだけでなく、周囲からの過度な干渉、性別による役割の固定化など閉鎖的雰囲気の地域を避け、都会に出ていくという。

 本書に紹介されている2023年に秋田市で行われたシンポジウムでは、自治体は出生数を増やし人口を減らさないことを目標にするなら、結婚支援や子育て支援だけでなく、女性に選んでもらう職場や地域を作っていかなければならないと指摘されているのだが、熊対策以上に遅きに失しているのだ。

 しかしこれは秋田だけの傾向ではない。国立社会保障・人口問題研究所は2040~45年には東京都も含めすべての地域で減少していくと推計している。本書でも秋田で起きている現象は、全国に広がると指摘している。

 朝日新聞(7月10日)に掲載された地方の女性の生きづらさを語るインタビュー動画を配信する「地方女子プロジェクト」の主催者・山本蓮さんによると、地方の生きづらさを100人を超え発信してきたが、働く場所が少ないだけでなく、都市部以上に結婚圧力の強さや、女性はリーダーに向かないなどの偏見、多様な生き方を示すロールモデルの少なさ、性別役割分業意識を強さなど、生きづらさを語っているという。

 政府が唱える「地方創生」は、若年女性の維持獲得が、その地方の存続可能性と結びつけられるが、当事者の思いを置き去りにし、子育てのしやすさを前面に押し出す自治体が多いが、子を持つ親への支援が前提で、女性が地方でキャリアを積み上げるための視点が不足していると指摘している。

「ケア責任」を共同に支えることが超少子高齢社会を変える

 『ケアする私のしんどさはどこから来るのか』(山根純佳・平山亮、勁草書房)によると、女性は自然と気遣いや思いやりができる存在という「ジェンダー」により子育てや介護を女性がやることを「自然」「必然」であるように、ケア責任を強制されているという。

 人間は生まれてから死ぬまで誰かの助けがないと死に直結する。乳幼児期、高齢期、障がい、病気などの時期であればなおさら。誰かがケアを引き受けなければ社会は持続不可能、社会の基礎となる活動である。しかもどのようなケアが必要なのか、求められ正しいのかは、常に正解はなく、悩み考える時間エネルギーを不断に必要とする。個人が一人で抱えるものではない。男性も「ケアに向かない」「長時間労働だから無理」という男性性の思い込みではなく、ケアを担う当事者として、福祉関係者や行政などと連携し、孤立化させないことが、ケアを必要とする当事者を守ることと指摘する。

 『世界』10月号で鈴木彩加氏(筑波大学)が、「『主婦的なるもの』の政治性」で指摘しているように、家庭内のケアを引き受けながら、それをよりよく行いたい、病気の時は寄り添いたい、子供の成長を見守りたいなど。本来は性別を問わず誰もが持ちうる、誰もが引き受けられるような形で、社会が支えられるべきものを「主婦的なるもの」と呼び、労働時間の短縮や男女同一価値労働同一賃金などの要求だけでは、ケアすることの価値に答えてはいないのだろうと、リベラル政党の訴求力の弱さを指摘する。

 ますます進む超少子高齢化する社会をどうしていくか。「生活の希望」としての共有可能な形で語り、分断ではなく共感を育てる「言葉の政治」が必要という提言に賛同する。今こそ「何を」だけでなく、どう語りどう合意していくかの「作風」が求められている。


18:03

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

会場が変更になりま
した。


第46回研究会

「高市経済政策は
何を目指している
のか!」

講師:松尾匡氏(立

  命館大学経済
  学部教授)

日時:
2026年1
  24日(土)
   14時~17

場所:専修大学神田校
舎10号館11階10115教
室(千代田区神田神保町
2-40地下鉄神保町駅A2
出口、徒歩約3分
資料代:1000円
オンライン参加ご希望の方
は「
オンライン研究会参加
方法
を参照の上お申し込
みください。
 

これまでの研究会

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)


第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)

第45回研究会(2025年10月25日)「トランプ関税でどうなる欧州経済」(東北大学名誉教授 田中素香氏)


これまでの研究会報告