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POLITICAL ECONOMY第285号06/04 18:09
「キャリアは財産」の時代における職業人生と人材育成の再構築 労働調査協議会客員調査研究員 白石利政  時代にあった競争力のある製品と高い生産性の維持、とりわけ、それらを支える人材の確保と...
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POLITICAL ECONOMY第282号04/16 09:23
先進国でトップのエンゲル係数 NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員 平田 芳年  総務省が2月7日に発表した2024年の家計調査で2人以上の世帯が使ったお金のうち食費の割合を示す「エンゲル係数」は28.3%...
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2025/06/04

POLITICAL ECONOMY第285号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
「キャリアは財産」の時代における職業人生と人材育成の再構築

                    労働調査協議会客員調査研究員 白石利政

 時代にあった競争力のある製品と高い生産性の維持、とりわけ、それらを支える人材の確保と育成が急務となっている。人生100年時代とも重なって、「職業キャリア」(以下キャリアと略)が注目されている。

 昨今のキャリアをめぐる状況について、法学者の諏訪康雄氏は、戦後から高度成長期の組織内キャリアは企業や組織の先行き不透明が進むなか行き詰っており「雇用の流動化や多様化が拍車をかけ、キャリア問題が顕在化」、「『職務は財産』(Job is property)から『雇用は財産』(employment is property)、そして現在は『キャリアは財産』(career is property)という標語が生まれ、この現実化に向けての政策や法整備の声」が広がりつつある、と述べている(「雇用政策とキャリア権-キャリア法学への模索」 弘文堂 2017年)。

キャリアのタイプと形成に求められる柔軟性

 キャリアにはどのようなタイプがあるのだろうか。アメリカの組織心理学者のエドガー・シャインは、アンカー(碇)を下ろす「無理にでも選択を迫られた場合、どうしても捨て去ることができないひとつの拠り所」から、「専門・職能別能力」、「全般管理能力(組織の中で責任ある役割を担うこと)」、「自律・独立(自分のペースやスタイルで仕事を進めること)」、「保障・安定(安定した仕事や報酬を得ること)」、「起業家的創造性」、「奉仕・社会貢献(社会を良くしたり他人に奉仕すること)」、「純粋な挑戦(解決困難な問題に挑戦すること)」、「生活様式(個人的な欲求と、家族と、仕事とのバランスを調整すること)」の8つのタイプがあると提唱している(「キャリア・アンカー」 白桃書房、2003年 原著1990年)。

 とはいえ、雇用労働者のキャリア形成は一様ではない。同じキャリアアンカーのなかでも同じ職が長期にかつ安定的に継続するとは限らないし、キャリアアンカーの変更を余儀なくされる事態もないとはいえない。

 1970年代、ヒット商品を飛ばし続けていた日本の電機産業の技術者は商品寿命の短さからくる悩みを抱えていた。電機労連(現電機連合)は傘下組合の技術者を集めて業界横断で交流と研修を行う「技術者フォーラム」を開催していた。そこで話題になることのひとつがキャリア問題で目指すべきは、基礎をもとに深く突き進むT(ティー)字型か複数の専門をもつπ(パイ)字型か、だった。産業構造がサービス化やDXへの対応を迫られ、就業構造の変化も続き、雇用労働者はそれに合わせるしかない。

 先進国での長寿化もキャリア形成に大きな影響を与える。雇用労働者の就労年限が勤め先の「寿命」を上回る時代が来ている。経済学者で英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスや米コロンビア大学の学長を務めたネマト(ミノーシュ)・シャフィクは「職業人生が長くなったからスキルの頻繁な再取得が必要なだけではなく、まったく異なるキャリアの構築が必要になる」「私はしばしば学生らに『この先のキャリアを、梯子を上るようなものではなく、木を登るようなものだと考えなさい』と言っている。木を登るには、次の高さに上がるときにいったん左右に足を踏み出さなければならないことがよくある。そして、そうした回り道をすることで、新しくて興味深い眺望が開けたりする」と(「21世紀の社会契約」東洋経済新報社2022年)。

日本における学び・学び直しの現状と課題

 このキャリア形成にはOJTとOFF-JTとがあり、いま日本で求められている職種転換や学び・学び直しには後者が向いている。ところが、日本のOFF-JTにかける費用は欧米先進国に比べ明らかに低く、必要性が高まっているにもかかわらず
この間減少傾向にある(図参照)。
 2022年10月、当時の岸田首相は臨時国会での所信表明演説で成長産業への労働移動を促す学び・学び直し支援に5年で1兆円を投じる計画を打ち出した。25年10月からは働く人々が安心して教育訓練に専念できる環境を整備することを目的とした「教育訓練休暇給付金」制度がスタートする。

 雇用労働者の教育・研修の実情の一端は、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が24年10~11月に企業で働く1万人を対象に実施したインターネット調査(正社員比率は73.7%)で知ることができる。2023年度に仕事に関する自己啓発を行った人は14.9%。自己啓発を実施した理由(M.A)のトップは「現在の仕事に必要な知識・能力を身につけるため」(62.1%)で、ついで「将来の仕事やキャリアアップに備えて」(43.9%)、「資格取得のため」(23.5%)、「昇進・昇格に備えて」(18.8%)などとなっている。一方、自己啓発を行わなかった人(85.1%)を対象にした理由(M.A)では、「仕事が忙しくて時間が取れない」が32.8%で最も高く、以下「自己啓発を行っても会社で評価されない」(26.1%)、「費用を負担する余裕がない」(21.5%)、「スキルアップを求められていない」(17.5%)などとなっている。

 厚生労働省のHPでは「職場における学び・学び直し促進ガイドライン(令和4年6月策定)」がアップされている。労使が取り組むべき事項の「推奨される取組例」には「非正規雇用労働者や、障害者、外国人、育児・介護中などの多様な事情・背景を持つ労働者が、教育訓練プログラムの提供や学び・学び直しを促進するための各種の支援の対象から漏れることのないようにするなど、学び・学び直しの促進に関して労働組合がある企業においては労働組合から、労働組合がない企業においては労働者から、意見を聞く機会を確保する」との指摘がある。

 キャリアが個人の「財産」として重視される現代において、多様な働き方と学び・学び直しの機会を支える環境整備が不可欠である。働く人々が自律的にキャリアを形成できるよう、企業・社会・政策が一体となった支援が求められている。

18:09

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第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)


第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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