「もうはまだなり まだはもうなり」
NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員 平田芳年
東京市場の株式相場が好調である。昨年末の大納会の日経平均株価は、前日比19円安の2万2764円94銭と26年ぶりの高値で引け、新年あけの大発会(4日)から3日間で日経平均は1000円超も上げた。年末から新年に掛けて上昇相場が続き、平均株価は当面の心理的節目とされた2万3000円を軽々と超え、週末には2万4000円をうかがう水準にまで急騰している。経済専門誌や証券業界ブログなどによると、「歴史的な株高局面」なのだという。
この株高はいつまで続くのか。証券関係者が年初に強きの予想を公表するのは「ビジネストーク」と見られがちだが、企業経営者はどう見ているのか。経済・金融通信社Bloombergが経団連など経済3団体や各業界団体が開催した新年祝賀会に出席した企業トップ13人を対象に2018年の株価予測調査を行っている。それによると、日経平均株価の高値予想の平均は2万5615円で、著名な経営者では経済同友会の小林喜光代表幹事(三菱ケミカルホールディングス会長)が9月には2万5500円まで上昇とし、トヨタ自動車の豊田章男社長は上値2万7000円、小堀秀毅・旭化成社長は2万6000円、井坂隆一・セブン&アイ・ホールディングス社長は2万6000円など全員が、現在の水準から上昇すると予想している。
株価上昇の3要因は企業業績、世界同時好況、金融緩和継続
日経、週刊エコノミストなどの経済メディアや経営者が株高の要因として共通に挙げるのは企業業績、世界同時好況、金融緩和継続の3要因。マネックス証券のチーフ・ストラテジスト広木隆氏の分析では「現在のマクロ環境はひとことで言えば世界経済がそろって好況という状態である。これが世界景気敏感株といわれる日本の上場企業の業績拡大の背景。GDPや製造業の景況感、消費者センチメント、失業率など様々な指標から日米欧をはじめとする先進国も新興国もそろって経済が好調であることが示されている。その一方でインフレが加速しないという状況も世界共通。結果として、好景気・低インフレ・低金利が共存する『ゴルディロックス(適温)経済』が続き、株式市場にとってはこのうえない好環境が生まれている」という。
ところで、この分析は正鵠を射ているのだろうか。わずか1、2年前には総需要の弱さと潜在成長率(自然利子率)の低下が併存する「世界経済の長期停滞論」が取り上げられ、日本では「アベノミクス」の失速と財政赤字の拡大、日銀の異次元緩和の弊害が指摘された。保護主義的色彩の強いトランプ米大統領の登場とイギリスのEU離脱、中国の過剰生産と積み上がる債務残高、中東危機、朝鮮半島危機の恒常化など国際的な経済環境は決して「好環境が生まれている」とは言い難い。
不安要因は少なくない
このところの株高を背景に、市場では「年末までに日経平均3万円の大台」との強気観測が闊歩しはじめているが、東洋経済オンラインが「2018年、株価が下落する『7つの要因』」を特集、圧倒的少数派ながら市場への警鐘を鳴らしている。以下、参考のために7つの要因を列記しておく。
(1)日銀の政策転換、金融緩和の縮小に舵を切る
(2)安倍政権退陣
(3)1ドル=100円に迫る円高
(4)ドナルド・トランプ大統領の退陣ないしは米政権の大混乱
(5)FRBの利上げによる米株価の下落
(6)北朝鮮と米国の武力衝突
(7)中東の混乱でOPEC(石油輸出国機構)の減産合意が破綻
同誌は「いずれも実現可能性は大きくはなく、『まだ、2018年中にはないのではないか』というくらいが平均的な見方だろう」と解説した上で、「すべてが明るく見える状況であることが不安だ」との言葉で締めくくっている。
最後に中空麻奈BNPパリバ証券投資調査本部長の発言を引用しておく。「現在の金融市場は基本的にはバブル状態にある。何かの市場が崩れて、あっという間に金融市場が暗転するという展開は簡単に想像できます」(『NIKKEI BUSINESS』17年12月11号)。 証券市場には「もうはまだなり まだはもうなり」という相場格言があることをお忘れなく。