日誌


2014/06/20

「グローカル通信」第7号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
「3大プロ」—スポーツと文化を通して「広島の元気の創出・地域の活性化」をー

                              労働調査協議会客員調査研究員 白石利政

 戦後、自治体や公共団体主催の公営競技(ギャンブル)が人気を呼んだ。その目的は「財政健全化」で、広島県内では競馬、競輪、競艇が開催され、プロの騎手・選手が活躍している(いた)。しかし、福山市競馬が2012年度に廃止され、広島市競輪は廃止に向けた準備に入り、宮島競艇も売り上げ減で「重荷」になりつつある。「3大競技」の衰退である。

 それに代わるかのように熱い視線を向けられているのが「広島の3大プロ」、すなわち広島東洋カープ、サンフレチェ広島F.C、広島交響楽団である。それはファンだけではない。「広島の元気の創出・地域活性化」への期待が込められている。そこで、改めの「3大プロ」の状況をチェックしてみた。

黒字が続き経営持続

 広島東洋カープの発足は1949年の広島野球倶楽部である。現在の運営会社は株式会社広島東洋カープで、松田家所有の株式が半数を超えており東洋の名は入っているが企業の傘下に入っていない。ユニホームの胸には、ホームではCarp、ビジターではHiroshimaである。本拠地は「マツダスタジアム」(広島市所有)である。球団経営は1975年から39年連続黒字である。昨年は16年ぶりにAクラス入り、球団史上初のクライマックスシリーズに進出、今年は「てっぺん」を目指している。

 山村哲史氏の「広島は、中心選手がたびたび他球団に引き抜かれてきた。それでも限られたメンバーの中で、チャンスを得た若手や新戦力が羽ばたく。そんなチームの躍進は、見ていて楽しい」に共鳴するファンは少なくないと思う(「広島に学ぶ若い力苦境脱出のカギ」朝日新聞大阪本社版,2014年5月10日)。選手の平均年俸は2,679万円(2012年度「日本プロ野球選手会」調べ。支配下選手で外国人、育成選手を除く)で12球団中11位である。

 サンフレッチェ広島F.Cの前進は「東洋工業サッカー部」である。1991年のJリーグスタート時から加盟している。現在の運営は1992年に設立された株式会社サンフレッチェ広島で、広島に本社を置く、あるいはゆかりのある59団体の出資により設立された。筆頭株主はエディオンである。クラブ経営は2年連続黒字で、課題は「チームの成績に依存しない経営基盤を築く」(サポーターズカンファレンス議事録)ことである。ホームス
タジアムはエディオンスタジアム広島(広島市所有)。

 現在、サッカースタジアムの建設を協議中であるが、建設資金の調達が難題のようである。クラブの理念は「サッカー事業を通じて、夢と感動を共有し、地域に貢献します」で、プロを頂点にしたユース、ジュニアユース、ジュニアという普及・発掘・育成のシステムを構築している。クラブは2012年と2013年の2年連続してJ1リーグ優勝に輝いた。登録選手29人の平均年
齢は26.0歳、その平均年俸は2,305万円でJ1リーグ18チーム中8位である(2014年。http://www.soccer-money.net/より)。

 広島交響楽団は「広島市民交響楽団」として1963年に産声をあげ、1970年の「広島交響楽団」への名称変更、1972年のプロ改組、2011年の公益社団法人化を経て昨年、50周年を祝った。中国・四国地方唯一のプロオーケストラとして活躍している。楽団のキャッチフレーズは“Music for peace”−音楽で平和を−である。来年の被爆70周年に向け広島市と共同して音楽で世界に平和を訴える特別事業を企画している。

 練習場はアステールプラザ(広島市の施設)内の「オーケストラ等練習場」である。経営は2013年度も黒字(約300万円)でそれは8年連続となり、累積赤字は約3950万円にまで縮小した(中国新聞 2014年6月26日)。収入構造をネットに掲載されている2012年度のデータでみると、総収入(7.6億円)のうち、演奏収入(44.2%)は半数弱で民間からの支援(12.3%)、国(10.5%)や広島県(15.5%)、広島市(14.3%)からの補助と会費(6.7%)で支えられている。支援の広がりは「大」スポンサーのないことをも示唆している。楽団員は69人、平均年齢は48.0歳、平均年収は515.8万円である(平成24年度事業報告・決算報告書、日本オーケストラ連盟2012)。

地域に密着、市民の誇り

 「広島の3大プロ」は実績を上げ経営は堅調である。しかし選手や楽団員は収入面で恵まれていない。スポーツ選手はセカンドライフの設計という難題もある(閒野義之氏によるとプロ野球の引退選手の平均年齢約29歳、サッカーJリーグ選手のそれは約25歳と若い。朝日新聞be report, 2014年4月19日)。このような課題を抱えながらも「広島の3大プロ」は今後を睨み共同して地域に密着したさまざまな企画を立て、ファンサービス
とその裾野の拡大に努力している。

 日本創成会議の試算した2040年までに消滅可能性のある896自治体(20〜39歳の女性が半減)に広島からは12自治体が入っている。スポーツや文化で地域の活性化を図ることは難しいが、それらのない地域は豊かとはいえず人を引きつける力に欠ける。「広島の3大プロ」は広島におけるスポーツや文化の重要な発信源であり市民の誇りである。市民の参加・応援で大いに盛り上げ、「広島の元気の創出・地域活性化」へつなげたいものだ。


11:57

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告