日誌


2014/04/28

「グローカル通信」 第6号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
大学は地(知)の拠点として地域に貢献できるか
                                                                         東海大学教授 小野豊和

 学校教育法第52条によると「大学は、学術の中心として、広く知識を授けると共に、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする」とされていたが、平成18/19年の教育基本法改正に伴い、学校教育法第83条②に「大学は、その目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする」という地域貢献の文言を加えた。

 少子高齢化の進行、中でも15歳以上の生産年齢人口の減少は、産業界を支える人材不足だけでなく、経済規模の縮小、財政状況の悪化等が懸念される。一方、グローバル化の進展によるボーダレス化の進行は、新興国の台頭による国際競争の激化など地球規模で解決すべき問題に発展している。国内問題としては、地方の過疎化・都市の過密化の進行が加速し、社会的・経済的格差の拡大も懸念される。産業構造、就業構
造の変化は地域住民の生活環境にも影響し、医療・介護・保育等、地域におけるケアサービスの分野において漏れのない政策が可能かどうかの課題も生まれている。このような社会的背景のなかで、地域に根ざす大学はいかにあるべきか、文科省は、目指すべき6つの大学像を求めている。

1.学生がしっかり学び、自らの人生と社会の未来を主体的
    に切り拓く能力を培う大学 
2.グローバル化の中で世界的な存在感を発揮する大学 
3.世界的な研究成果やイノベーションを創出する大学 
4.地域再生の拠点となる大学 
5.生涯教育の拠点となる大学 
6.社会の知的基盤としての役割を果たす大学 

 東日本大震災の影響や教訓を検証・評価し、新たな教育振興策の必要性から、政府は、第2期教育振興基本計画(平成25年6月14日閣議決定)を策定し、①社会を生き抜く力の養成、②未来への飛躍を実現する人材の養成、③学びのセーフティネットの構築、④絆づくりと活力あるコミュニティの形成−の4つの基本的方向性を発表し“社会が人を育み、人が社会をつくる好循環”を目指している。

文科省が「地(知)の拠点整備事業(大学のCOC事業)」を公募

 文科省は「地(知)の拠点整備事業(大学のCOC:Center of Community事業)」を立ち上げた。その目的は、大学が自治体と連携し、全学的に地域に志向した教育・研究・社会貢献を進めることを支援することで、課題解決に資する様々な人材や情報・技術が集まる地域コミュニティの中核的存在として大学の機能強化を図ることである。大学は、教育研究を行う
共に、これらの成果を基にした公開講座や産官学連携による産学振興、スポーツの推進、防災や環境保全、地域医療・公衆衛生、健康増進、過疎対策など、社会や地域における様々な課題解決に取り組み、地域の再生・活性化に貢献している。

  今後、地域の実情に応じて学部学科や専門分野の枠を超えて、地域の高等教育機関が全学的に連携し、地域の課題解決に参画するなど、地域との相互交流を促進し、地域から信頼される地域コミュニティの中核的存在としての機能強化を図ることを期待している。初年度の2013年度は全国大学から319件の申請があり52件が採択(私学では180件中15件が採択)された。

東海大学が「地(知)の拠点整備事業」に採択

 東海大学は初年度に全国連動型地域連携事業として「To-Gollaboプログラム*」を申請し採択された。全国にキャンパスを有する大学ならではの全国連動型地域連携活動が特徴で、地域特有の問題や共通課題を各校舎の学部、学生、研究者が共有し協力して解決策を見出す仕組みで「大学共通の教養科目の改革」を中心に据え、地域連携を前提とした「パブリックアチーブメント型教育*」を取り入れた全学的なカリキュラム改革と組織改革の実行をめざしている。

 具体的には、4つの共有課題(①地域の生活を充実させる、②多世代の交流を促進する、③地域の魅力を発信する、④自然環境を守る)を掲げ、4計画8事業に取り組んでいる。一例を上げると、伊勢原校舎(神奈川)の「大学病院と地域医療活動の連携による在宅医療の促進」、農学部のある阿蘇校舎(熊本)の「阿蘇地域に適した高機能性ヤーコン品種の育」、「阿蘇地域における絶滅危惧生物の保全のための環境教育法の開発」などがあり、地(知)の拠点として活動を行っている。To-Collaboの根底にあるものは創立者松前重義博士が掲げた「明日の歴史を担う強い使命感と豊かな人間性を持った人材を育てる」という建学の精神なのである。

*To-Collabo=Tokai university Community linking laboratoryの略称で、北海道から九州まで、日本全国に広がる総合大学の高等教育拠点である東海大学(Tokai university)を生かした地域連携の教育および研究所(Community linking laboratory)を示している。

*パブリックアチ‐ブメント=若者が社会活動を通じて民主社会における市民性を獲得していく実践であり、そのための組織と学習プログラム


13:04

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告