中国経済の「新常態」と国有企業改革
NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員・平田芳年
中国の全国人民代表大会(全人代=国会)が3月15日、閉幕した。期間中、政府活動報告を行った李克強首相は2015年の国内総生産(GDP)の成長率目標を14年の7.5%から7.0%に引き下げることを表明、「構造改革と安定成長のバランス」を強く訴えた。習近平指導部は、今後の中国経済は高成長が終わり中成長へと移行する「新常態(ニューノーマル)」の段階に入ったとの認識を強調、成長の減速という新しい局面に対応した経済構造の改革を打ち出したものだ。
全人代に先立って、中国共産党機関紙「人民日報」は昨年8 月上旬、「中国経済新常態」と題した特集を4日連続して一面 に掲載、シャドーバンクや供給過剰体質、輸出・投資主導型経済からの転換、環境問題など今後解決すべき課題をアピールした。いずれも中国経済の基幹部門に君臨する「国有企業」と密接に絡まるテーマだ。
2000年以降、中央政府所管の国有大企業の肥大化が進み、「国進民退」(国有企業が強化され、民有企業が後退する) 論が世情を騒がせた。「フォーチュン500社リスト」に登場する石油3社(中国石油、中国石油化学、中国海洋石油)、通信キャリア3社(中国移動、中国電信、中国聨合通信)、4大銀行 (中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行、中国銀行)、 2大送電企業(国家電網、中国南方電網)、3大自動車メーカー(上海汽車、第一汽車、東風汽車)、3大鉄鋼会社(宝山製鉄、 首都製鉄、武漢製鉄)などの存在だ。
このころから「国有経済の戦略的調整」が提唱され、「第12次5か年計画」(2011-2015年)で国有企業改革の目標が「規模の拡大」から「強くて超優良の、国際競争力を持つ世界一流企業」(走出去)へシフトする。中央国有大企業に対する年度評価は、経済的付加価値(EVA)と、海外有力同業とのベンチマーク評価をより重視する傾向にあるという。最近でも中国化工集団のイタリアのタイヤ大手・ピレリ社の買収や東風汽車のシトロエン出資など国有大企業の巨大企業集団化が目立ちはじめている。
内需主導型経済への転換が構造改革の中軸
問題は「新常態」に移行した中国経済の構造改革を考えたときに、「大型国有企業のパワーを強化することが中国の国民経済を成長させる上で望ましい道なのか」という指摘だ。従来の大量の低賃金労働力に頼る輸出主導型経済モデルは持続できず、社会にも受け入れられないことがはっきりした。「新常態」下では、国内需要を掘り起こしながら、国民の豊かさ向上に視点を据えた内需主導型経済への転換が構造改革の中軸にならざるを得ない。産業政策も従来の重厚長大型重視から消費・生活関連、バイオメディカル、電子商取引、先端技術産業といった付加価値の高い新興産業がイノベーションを繰り広げながら次第に舞台の主役に躍り出て、中国経済
を牽引する姿に移行する必要があるのではないか。
国有企業は非国有企業(民間)よりも一貫して利潤率は低 く、腐敗の温床ともなっている。国有企業がそれ以外の企業よりも経営効率が悪いのだとしたら、その国有企業に国家が発展させたい分野を独占的に任せると、かえってその産業の発展を鈍くさせてしまう恐れはないのか。いまや、アリババ集団、レノボ、ハイアール、TCL、奇瑞汽車など国有企業から民間企業に転じた新興企業群が大きく成長し、国際社会で存在感を増している。党、国家が人事、経営権を握る国有企業に、中核産業やハイテク産業を先導する役割を期待するのは余り賢明な策とは言えないように思われる。