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2024/05/28

POLITICAL ECONOMY第261号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
日本を見捨てた大企業の「お恵み春闘」と軍事大国化
               経済アナリスト 柏木 勉
                                                     
 最近の円安をめぐってTV番組をみたが、その感想をいくつか述べたい。その番組でのゲストは、元日銀理事、他の2人はエッセイめいたことを書いているだけの「経済評論家」だった。2人の「経済評論家」のいうことは聞くに値しないのだが、そのうちの1人が安倍元首相が自民党の会合でしゃべっていたこと(2022年4月)を紹介していた。それは以下のようなものだった。

 「1ドル300円になれば、トヨタの車の価格も日本製品の価格も3分の1になる。外人の日本での旅行費用も3分の1になる。そうなればあっという間に日本経済は回復していく、という考えはどうか」

 この安倍発言に対して、番組キャスターは、もっぱら日本の国力低下を顧みない暴論だという調子でゲストの同意を得ていた。しかしTVをはじめマスコミと云うものはいいかげんなものだ。かつては超円高で日本経済はデフレで苦しんでいる、なんとかしろと叫んでいたのだ。局面が変わるとそれに流されて、全く逆のことを云いだして平気なのだ。ピントがはずれているし無責任というほかない。まあ、その程度の存在だと見ておくしかないのだが。
 
 だが、安倍元首相のいうことも間違っている。2022年になっても間違いに気が付かなったのか。愚かだ。かつてアベノミクスで円安に誘導したが、輸出数量は思うように増えなかった。企業の価格戦略が大幅に変わっていたからだ。日本の価格は円安になっても「3分の1」にならなかった。輸出企業は現地価格を引き下げることなく維持したのだ。現地価格を引き下げて輸出数量を増やして利益をあげるというかつてのやり方は時代遅れになっていた。だから、輸出数量は伸びることなく、それが生産拡大や設備投資に結びつかず、外需主導で日本経済が回復することはなかった。

 だが、日本経済が回復しなくても企業は困らない。自企業がもうかっていればそれで良いのだ。海外展開により現地企業が新たな価格戦略でもうかっていればよい。国内と海外を合算した連結決算で利益がふえればそれで良いのだ。だから海外への直接投資は急増していった。かつての日本のリーディング産業たる電機産業と自動車産業は海外展開を急拡大させた。無論、国内拠点のリストラを猛烈に進めて従業員を大幅に減少させ、賃金を抑制し続けた。

 もう一点、円安に関して所得収支黒字の話がある。貿易収支赤字が続く中で所得収支は黒字であり、経常黒字が保たれている。しかし所得収支が黒字でも、現地への再投資が拡大している。だから国内への利益還流は見た目ほど大きくならず、円安抑制の大きな力にならない。また国内の設備投資も増えない。

内需見捨てる輸出企業=大企業

 以上を要約すれば、輸出企業=大企業は、日本国内を見捨てたのだ。この結果、輸出企業の利益は膨れ上がった。しかし、国内を見捨てているから国内設備投資は増やさず、賃金も上げなかった。それが資本の論理だ。これによってコストを減らして国内でも利益があがるようになった。海外でももうかっているから個別企業としては万々歳ということになる。だから内部留保は積み上がった。海外展開にともなうリストラで労働組合は恐れをなして完全な労使協調路線に転落した。企業の完全勝利である。資本と賃労働でいえば資本の完全勝利の状態にある。だからこそ今春闘の「大幅賃上げ?」が出てきたのだ。これは完全勝利による経営サイドからのお恵みである。官製春闘ならぬ「お恵み春闘」である。経営サイドは「大幅賃上げ?」をお恵みできるほどの余裕があるのだ。

 しかし経営サイドの完全勝利は、いまややりすぎという悪影響もでている。それは生産年齢人口の減少、出生率の大幅低下という、労働力の再生産に支障が生じるほどの状態に追い込んだことである。これには長期の賃金抑制、低賃金等労働条件の悪化、非正規労働者の増加を進めたことが大きく影響している。若年層は将来不安から子供を産まない。これによって、女性や高齢者の就業促進では追い付かず、人手不足状態がうまれてきた。だからこそ政府のみならず経営サイドとしても若干の路線変更をはかっている。それが現時点の状況なのだ。

 次にインフレについてだけ述べる。コロナ禍以降世界的にインフレが進んだ。インフレが欧米の金利上昇と円安を引き起こした。インフレ要因は、1.コロナ・ショック対応の大規模な金融緩和と財政出動2.コロナ収束以降の予想外の景気回復。これらは需要増の要因だ。3.コロナ禍による世界的サプライチェーンの混乱や米国に見られる労働参加率の低下4.ウクライナ戦争によるエネルギー・食糧価格の上昇、イスラエルの極悪非道のガザ大虐殺による中東情勢の悪化=原油価格の上昇。これらは供給減の要因だ。これら要因のうち、需要増の要因はほぼ終息し、残っているのは供給制限だ。特に当面の要因としてはウクライナ戦争の影響、それに伴って一層強まった地政学的な世界の分断である。これが世界経済の縮小圧力となっている。

 これを解消し輸入インフレを抑えるためには、緊張を緩和すべく今こそ日本の平和外交が出番である。にもかかわらず岸田政権は、ウクライナ戦争でもガザ・大虐殺をめぐってもバイデンの尻を追いかける=二重基準外交のみである。それどころか安全保障を喧伝して日本の軍事大国にむけて軍備を拡張し対立を煽っている。独自の外交はゼロである。これでは世界の分断と軍備拡張により、国民生活を支える生活物資の供給制約を強めるばかりだ。そしてすでに欧米中心が崩れつつある中で、グローバルサウスから見放されている。愚かと云うほかない。  

06:30

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第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)


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第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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