成長戦略・雇用の規制緩和を斬る
「再就職支援奨励金」見直しは、要注意
連合総研副所長 龍井 葉二氏
経済分析研究会は、現代労働問題研究会と共催で、7月27日に連合総研副所長である龍井葉二氏を招き、「成長戦略・雇用の規制緩和を斬る」と題する講演会を行った。コメンテーターは、グローバル産業雇用総合研究所所長の小林良暢氏と現代労働問題研究会代表の小畑精武氏。
アベノミクスの4本目で福祉斬り捨て
最初に、龍井氏は直前に訪問したドイツについて「貿易黒字国である
が、1990年~2000年代に進められたシュレーダー政権(社民党)の規制改革に対し、保守のメンケル首相は対立点・争点を出せずに引き継ぎ、福祉削減、二極化、貧困化が進んでいる」と日本に示唆的な感想を述べた。
まず「安倍政権をどうみるか」について、格差が拡大していった小泉政権に対しポスト小泉の「再チャレンジ」政策をすすめ、最賃水準や均等待遇を打ち出した。この点では、国民年金法、最低賃金法を創設した安倍の祖父岸の後継者といえるかもしれない。しかし、アベノミクスは選挙向けの3本の矢であり、4本目は地域を疲弊させる「公務員賃金と生活保護費の切り下げ」だ。岸が進めた福祉国家的側面はかなぐり捨てられるだろう。
雇用・労働政策の分岐点は、「もはやミゼラブルでない」といわれた労働者派遣法、パート法、男女雇用機会均等法などが成立していった80年代半ばである。95年に打ち出された日経連の「新時代の日本的経営」はすでに始まっていた。人件費削減にむけた「人事・労務」から株主へ顔を向ける「財務」への転換であり、人材ビジネスの跋扈である。小泉改革、規制緩和では、金銭解決への解雇法制の見直し、製造業への労働者派遣の解禁が提起されたが、解雇の判例法理の条文化と国会修正、派遣法では3年後の雇用申し込み規定となった。ポスト小泉では、ねじれ国会、民主党の成果もあり、パート労働法改正、最賃引上げ、労働者派遣法の見直しなど、攻めぎあいの中でセイフティネット整備へとすすんできた。だが今なお“攻めぎあい”のなかにある。
人の移動が金の移動に
「解雇ルールの見直しの経緯と論点」について、龍井氏は連合本部時代
に、解雇の金銭解決を法案要綱から削除、解雇法理の国会修正で労働契約法に盛り込んだが、整理解雇の4要件は法制化に至らなかったことなど取組みの経験を述べた。非正規社員の解雇要件の見直しは必要だとしつつ、「限定正社員」について、規制改革会議のロジックを見抜くことが必要。
すでに導入され増加しているジョブ型正社員について解雇権濫用法理の突破を勤務地限定、短時間などではかろうと試みているのではないか。労働契約法改正で「無期転換社員」が生まれるが、労働条件そのままの限定正社員では均等にならない問題もある。しかし、無期転換によって職場に留まることが可能となる。ものが言える職場を、組織・交渉をどうつくっていくのか。均等待遇を一方で規定し、一方で賃金が有期から無期になっても変わらないという労働契約法の欠陥もある。さらに無限定社員の限定社員化も問題として残る。
警戒すべきは「再就職支援奨励金」見直しだ。解雇ルールを緩和し、これまでのように企業内に人材を過剰在庫させるのではなく、人材ビジネスに助成金を回し、そこを通して人の移動をはかろうとしている。人の移動が金の移動になる。今回はここが落とし所となる危険性がある。
レジュメにある「無限定な労働時間問題」、「反転に向けて」については残念ながら時間がなかった。龍井氏報告の後、現代の労働研究会の小畑精武代表から限定社員には賃上げが必要でそこに新たな労働組合の可能性があるのではないか、グローバル産業雇用総合研究所・小林良暢所長からはすでに導入されている大手企業の「中間的雇用」が紹介され、いわゆる非正規雇用を「中間的雇用」へと引き上げていくことが重要で、無限定正社員を限定正社員に下げることではない、とのコメントが出された。
(現代労働問題研究会事務局 小畑精武)
※龍井氏の報告の詳細は『FORUM OPINION』22号に掲載されています。