日誌


2016/02/14

「グローカル通信」第25号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
地方経済とTPPの影響は? 1人区がカギを握る参院選

                                  神奈川県寒川町議 中川登志男

 昨年11月のメルマガで、今夏の参院選は農村部に多い1人区がカギを握り、その1人区の帰すうは、アベノミクスの地方への浸透やTPP(環太平洋経済連携協定)が左右するのではないかと書いた。その認識は今も変わっていないが、ここ何ヶ月間で状況の変化がいくつかあったと思う。

 一つめは、「おおさか維新の会」が結成されたことである。各種世論調査で、全国レベルで公明党や共産党と同じくらいの支持率を得ており、このままなら一定の議席を確保しよう。支持率が関西に偏っている(特に大阪では自民党並みの支持率がある)ものの、全国比例区で公明党や共産党並みの議席を取るとともに、都道府県選挙区でも関西地区で何議席かを獲得する可能性がある。

 おおさか維新は形式的には野党だが、実質的には安倍政権の補完勢力であり、改憲勢力でもある。従って、非改選議席を含め、自民党と公明党が参院の何議席を占めるかではなく、自民党、公明党、おおさか維新など合計で何議席を占めるかが、注目されなくてはならない。

 121の非改選議席では、自民党や公明党、おおさか維新が合計で81人いるほか、「日本のこころを大切にする会」などの与党補完勢力の議員が少なくとも8人いる。そのため、今回の参院選(改選121議席)で、おおさか維新を含む改憲勢力が73議席を獲得すれば、改憲勢力が参院の3分の2(162議席)に達する。

 二つめは、1人区で野党間の選挙協力が進んだことである。比例区(48議席)で自公とおおさか維新が合計26~30議席を取ると仮定する。また、6人区(東京)で自公が3議席、3~4人区(8か所)で自公が2議席ずつ、2人区(4か所)で自民党が1議席ずつ獲得するとともに、おおさか維新が京都、大阪、兵庫などで議席を確保したとする。以上合計で52~56議席となって、ここに1人区(32か所)から17~21議席以上が与党に加われば、改憲勢力は3分の2以上に達する。

4月の衆院補選も影響

 逆に言えば、1人区で野党が11~15議席取れば、改憲勢力が参院の3分の2に達することを阻止できる。そして1人区では、共産党がすべての選挙区で選挙協力に応じる姿勢を見せるなど、野党間の選挙協力が進んでいる。現時点で、1人区で野党側が勝てそうなのは数か所だけとも言われているが、選挙協力の進展にアベノミクス批判やTPP批判が加われば、野党側が獲得できる1人区はもっと増えるのではないか。

 なお、民主党と維新の党とが合流した「民進党」の誕生が三つめの変化として挙げられるが、各種世論調査では、今のところ政党支持率に大きな変化は見られない。民進党の誕生は参院選の結果を左右する大きなファクターにはならないだろう。

 参院選の帰すうを占う上でも注目されるのが、4月24日実施の衆院補欠選挙である。自民党が候補の擁立を見送った京都3区はともかく、自民党候補と野党統一候補が一騎打ちでぶつかる北海道5区の勝敗は政局を左右する。同区は札幌市厚別区や千歳市など、どちらかといえば都市部で構成されているが、北海道という土地柄を考えれば、アベノミクスやTPPへの評価も少なからず影響するのではないか。

 衆院補選で自民党が勝利すれば、余勢をかって安倍政権は衆参同日選を仕掛けてくるという観測も絶えない。だが、衆院は小選挙区制であり、参院よりも選挙区の単位が細かい。都道府県単位の参院の選挙区より、農村色の強い選挙区も少なくないのである。

 今夏の参院選や近い将来行われるであろう衆院選は、安保法制のような憲法問題に加え、アベノミクスやTPPなどの経済問題も結果を大きく左右するのではないか。野党側がそれらで与党との対決軸を示せるかどうかが問われる。


22:14

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

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これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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