米中複合覇権時代が到来!
中国の姿勢に変化、覇権を目指す
横浜市立大学名誉教授・金子文夫氏
2015年4月11日に開催した第17回研究会は、横浜市立大学名誉教授金子文夫氏に「米中複合覇権時代は来る!」と題して話していただいた。金子氏は、中国は急激な経済成長をバックに軍事を拡大し、国際政治の中で影響力を高めている。「覇権」の意思があり、力が衰えた米国に迫る形での「米中複合覇権時代」が来る可能性が高いという見方を示した。アジアを中心とした地域覇権から世界全体をガバナンスするグローバル覇権を目指すという。現在進行しているアジアインフラ投資銀行(AIIB)もこうした視点で見る必要があると述べた。
米中複合覇権の後は無極化する
中国経済の成長力は衰えたが、依然として7%台を維持しており、2020年代半ばにはアメリカを抜いてトップとなると見られる。貿易量も高まり世界経済の中に占める位置は格段に高まっている。軍事力でも陸上兵力(万人)はアメリカを抜き、海軍力(艦艇隻数)は米ロに次いで3位、空軍力(機数)は2位、軍事予算も近年増加させて第2位とまだ差はあるとはいえ、アメリカに接近しつつある。
こうしたことを背景にして、中国は09年あたりから、それまでの「韜光養晦」(目立たないようにして力を蓄える)路線から「大国意識」を強めた路線(「核心的利益論」)に変わってきた。2011年には「米中『新型大国関係論』」を唱え、2015年には「新型国際関係論」を打ち出している。
地域覇権としてはAIIBだけでなく、ロシアからインド、パキスタンまでカバーする上海協力機構(SCO)のほか、ASEAN+3やRCEPなどの東アジア経済統合などにも力を入れている。グローバルな面ではBRICsと協調しつつ、欧州に接近、アフリカへの援助でも力を入れている。
こうした中国の台頭を受け、覇権構造をめぐって米中協調、多極化、米中対立(新冷戦)、無極化などの議論があるが、米中協調で行くだろうというのが金子氏の見方。ただ米中は、経済は相互依存の面が強く協調的だが、軍事的には対立的な要素が多い。したがって不安定なものとなる。
このように「米中複合覇権」は、対立と協調の両面を併せ持っている。中国がアメリカを抜いて一極化することはむずかしいので、いずれ多極化に向かうと金子氏は予測する。
中国には利権化している国営企業、格差の拡大とか、人権問題、少子高齢化問題、共産党の独裁など多くの問題を抱えているが、いずれも中国を揺るがす決定的な問題にはならないだろうという見方を示した。
中国には普遍的な規範がない
質疑では、中国が覇権国になるためには、普遍性を持った規範がなければならないが、何を打ち出すのか、打ち出すものがないので中国はむしろ経済に重点を置いた動きをするのではないかという点が争点になった。話題になっているAIIBの行く末とも絡んで論議となった。規範について金子氏は、アジアに広く普及している儒教的な考え方が考えられるが、おそらく中国も悩んでいるのではないか、と語った。AIIBの参加国が広がったことで、中国の姿勢も人権無視や自国の利益優先という露骨な姿勢を変えざるを得なくなるのではないか、という見方とあったが、他方で人権無視や独裁国家における投資案件は少なくない。中国は姿勢を変えずに行くのではないか、という見方をする人もあった。
覇権国は、いわば横綱みたいなものだ。立ち会いでいきなり変化したりすると非難される。横綱には横綱相撲が求められるのだ。しかも負けは許されない。なりふり構わず自国の利害だけを求めるのであれば、それは力はあるが単なる図体の大きい力士に過ぎなくなる。中国は正念場を迎えつつあるのかもしれない。
(事務局 蜂谷 隆)
※金子氏の報告の詳細は『FORUM OPINION』29号に掲載されています。