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2020/09/11

POLITICAL ECONOMY第172号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
香港のカナリアたち
                                           街角ウオッチャー 金田 麗子


 夏になると大学生の時受けた益田勝美の授業を思い出す。
 益田勝美は「万葉集」研究の第一人者で、徴兵の経験にもとづいてこんな話をされた。
「私は軍隊生活がさほど苦ではなかった。しかし軟派で享楽的な生活を送って来た人はとても辛そうだった。自由が束縛されることや統制される生活が苦痛だったのだ。私は彼らこそが、炭鉱で危険を真っ先に知らせるカナリアのような存在だと思った」

中国の弾圧姿勢は明らか

 2020年6月30日、香港で「国家安全維持法」が成立した。2019年6月、刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」改正に対し、200万人規模の反対デモに発展。香港政府は改正案の撤回に追い込まれた。それでも収まらぬ抗議行動を鎮圧するために、中国共産党が「香港基本法」の附則に組み込んで成立させたのである。

 「国家安全維持法」は「国家分裂」「政権転覆」「テロ活動」「外国勢力との結託」を禁じ、最高刑では終身刑を課す。違反者は中国大陸に移送される可能性がある。香港人か外国人か問わず、国外での反中国的言動は、すべて摘発対象に含めかねない内容だ。

 翌7月1日、抗議デモで「香港独立」の旗を掲げただけで、10名が逮捕され、国安法違反容疑が適用された。8月26日には、民主派の立法会議員二名を含む男女16名が逮捕された。昨年7月に起きた二つの抗議活動に絡んでのもので、議員の一人は、10年以上の禁固刑が科せられる暴動罪の疑い。弾圧の姿勢が明らかだ。

 香港は1842年、「南京条約」に基づいて香港島が、1860年には九龍半島南部がイギリス領となった。以来150年間イギリス支配が続いてきた。1997年中国に返還されるにあたって、一国二制度に基づいて司法の独立や言論の自由に代表される高度な自治を50年間変えないと約束。以来香港は「国際金融都市」としての役割を果たしてきた。対中国直接投資の7割は香港から行われている。(ジェトロ2019年1~6月集計)

 しかし国安法の施行で、外国企業が重視する司法制度の公正さと透明性が揺らげば、ビジネス拠点としての地位は低下する可能性が大きい。英シンクタンクによる2020年3月発表の「世界金融センター」ランキングで、香港は昨年3位から6位に順位を落としている。ロイター通信の6月中旬の国安法について世論調査では、6割近くの人々が反対の意思を示している。

 2019年、香港大学の調査によると76.4%の人が自分を香港人だと思っている。デモに家族連れの参加や高校生を含む若者の支持や陰で支える地域の人々や香港の人々にとって、自由な言動が抑圧されることに対する拒否反応が根本にある。

香港市民に支持される「アップルデーリー」

 8月10日、突然逮捕された中に、「アップルデーリー」の創業者黎智英氏と、日本でも有名な民主派のスポークスマンである周庭さんが含まれていた。私にとって「アップルデーリー」は、香港で読むゴシップ記事の媒体だった。他の新聞が政府の顔色をうかがう中、いつの間にか反体制の媒体になっていた。

 黎智英氏が逮捕された翌日の新聞は、通常7万部が55万部売れるほど、香港市民に支持され株価も上がったというニュースには胸が熱くなった。

 周庭さんもインタビューを読むと、嵐の松潤が好きで日本のサブカルやアイドル好きの女性。拘束中、欅坂46の「不協和音」の歌詞が頭に浮かんでいたと日本メデイアに日本語で発言し、反響が大きかった。国際的な共感を得る効果があった。

 一方、彼女を「民主派の女神」、アイコンとして扱うことに対し、本人自身も、違和感を表明しているし、美しい女性を広告のアイキャッチに使うのは、「性の商品化」と同じという批判がある。その点には私も賛成するが、彼女やアップルデーリーを支持する市民たちこそが、益田勝美の言うところの「カナリア」で、感覚として自由の大切さや抑圧への抵抗、拒否を感じる存在だと思う。

 2014年の雨傘運動の際に学生たちの活動を支持表明してきた為、映画界から干されてきた香港の名優黄秋生が、久々に主演し三回目の香港電映金像奨主演男優賞を受賞した映画「淪落の人」を、今年2月に見た。

 香港映画はその全盛期1993年には年間234本作製されたが、2013年には43本と激減している。ローカルな広東語香港映画は減少し、本土資本との合作が主流だ。
 本作は2017年の劇映画初作品プロジェクトで資金を獲得した、新人の女性監督による企画に賛同して、黄秋生がノーギャラで主演した作品である。

 公開に合わせて来日した際、彼はインタビューに答えてデモの若者たちを支持すると発言している。民主派の逮捕やテロが横行している中、身の危険を感じていると自覚しながらである。香港のカナリアたちに「香港加油」と呼びかけたいが、同じような状況下で、カナリアでいられるか、私たちも鋭く問われている。

08:00

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第35回研究会(2020年9月26日)「バブルから金融危機、そして・・・リーマン 兜町の片隅で実務者が見たもの(1980-2010)」(金融取引法研究者 笠原一郎氏)


第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)

第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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