日誌


2013/06/02

メルマガ第4号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
物価は二極化している
経済ジャーナリスト 蜂谷 隆

 世の中「アベノミクス」一色という感じで、本屋の経済書コーナーは、関連本がずらりと並んでいる。新聞、テレビもこの時とばかり解説しているが、どこでも論じられていないのが、物価が二極化している点だ。下がっているのは、テレビ、パソコンなどたまにしか買わない耐久消費財が中心で、食品、医療費、教育費など生活必需品は、逆に上がっているか、下がってもほんのわずかなのである。

 物価を総合的に調査しているのは、総務省統計局。月に1回、全国160市町村を対象に約600品目を調査している。牛乳、あんぱんから理髪料、さらには戸籍謄本手数料といった公共サービスの料金まで調査、指数化している。新しい商品とだれも使わなくなった商品は入れ替えられるし、テレビやパソコンのように同一商品でも、性能が良くなってくるので「品質調整」が行われる。さらに、商品によってウエートづけをしている。生活の実態に近づけるためだ。食料品は25.2%、住居は21.2%となっている。

 こうしてできあがった指数を、総務省は三つの総合指数として公表している。「生鮮食品を除いたもの(コアCPI)」、「持ち家の帰属家賃を除いたもの」、「食料(酒類を除く)およびエネルギーを除いたもの(コアコアCPI)」である。

 日銀が目標としている物価上昇率2%というのは、このうちのコアCPIである。3月の指数は前年比0.3%低下、99.2(2010年=100)であった。2年以内に2%の物価上昇率を達成させるために、日銀による「異次元」の質的・量的緩和が行われることになった。問題が多いと思うが、その前に現実の物価がどうなっているかを見ておくことが必要だろう。
 
生活必需品が上がっている
グラフ1を見ると、冷蔵庫、洗濯機など「家具・家事用品」の下落が著しい。
続くのがレンタルビデオなど「教養・娯楽」。パソコンはここに入る。これらの下落率が大きいのは、アジア諸国への生産シフトによる影響である。逆に上がっているのは電気・ガスなどの「光熱・水道」、授業料、塾の料金などの「教育」、そして「保険・医療」である。何ていうことはない。公共性の高いものの物価が上がっているのである。「教育」が08年から09年にかけて大きく下落しているがこれは、民主党政権による「高校無償化」の影響である。

 グラフ2を見ていただきたい。購入頻度別物価指数の推移である。
 回数は年間の購入頻度である。「15回以上」、「9-15回」、「4.5-9回」といった頻度の多い物価指数が高いのが分かる。逆に「0.5回未満」、「0.5-1.5回」の下落が激しい。太線が総合指数だが、こうした頻度の少ないものに引っ張られているのである。(「持ち家の帰属家賃」とは、持家を借家とみなした場合支払われるであろう家賃のことである)

 このふたつのグラフは、生活者の実感に近いのではないだろうか。たまにしか買わない耐久財は大幅に下がり、日常生活に必要な必需品、公共料金などのサービス料金は上がっているのである。この物価の2極構造の中で我々は生活しているのだ。

 政府が目標としている2%の物価上昇率が達成されるとどういうことになるだろうか。2つのグラフの総合指数がプラス2ということになる(グラフ2は「持ち家の帰属家賃を除いた総合指数」なので若干異なるが)ので、買う頻度の多い生活必需品はそれ以上ということなる。

 さらに来年4月から消費税を5%から8%に上げる予定だ。97年4月に3%から5%に上げた時は、10か月連続で2%上昇した。今回も当然上がる。日銀の「経済・物価情勢の展望」では、消費増税分として2014年度にプラス2%を見込んでいる。ということは政府・日銀の目標は2+2=4%ということになる。物価の上昇は、家計へのきつい負担増となることだけは間違いないだろう。

※クレディ・スイス証券チーフエコノミストの白川浩道氏の「危機は循環する」(NTT出版)を参考にさせていただきました。


18:21

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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