日誌


2013/07/03

メルマガ第5号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
連合は最低賃金「時給1000円」でアベノミクス「成長戦略」 
につけ込め 

                                                        グローバル産業雇用総合研究所所長 小林 良暢 

 少し話が古くなるが、5月21日、琉球朝日放送が夕方の二ュースで「連合は、最低賃金引き上げと非正規労働者の待遇改善を求める全国キャンペーンを明日22日、沖縄からスタートさせます」と伝えたという。なんで、連合の「最賃引上げ全国キャンペーン」が、 ローカルニュースにしかならないのか。これが全国版のニュース になったのは5月28日の日本経済新聞、合が田村憲久厚生労働大 臣に「2020年までに地域別最低賃金の全国平時給を1000円に引き 上げる」よう求めた要請書を提出したという記事で、扱いは小さな 囲み記事であった。 

 “特定最賃”をめぐる攻防 

 この6月から、2013年度の最低賃金の改定について公労使の目安議論を始まる。だが、今年の最低賃金を巡る状況は例年になく厳しい。 

 今年の春闘で、経団連は経営労働政策委員会報告で、地域別最低賃金の決定プロセスに疑念を表明、また特定(産業別)最低賃金について も廃止を主張した。じっさい2012年の東京都の電機と自動車の特定最賃が、経営側の不同意で据え置かれたままで地域別最賃を下回る事態になった。特定最賃は地域最賃よりも50~100円ほど高く設定されるのが全国的な傾向で、それが“逆転”するというのは異常事態である。 

 東京の特定最賃は地域最賃より高かったが、“逆転”に向かう兆候を見せ始めたのは2007年からである。2007年とは第1次安倍内閣の時。「成長力底上げ戦略推進円卓会議」で地域最賃を当面5年程度で「高卒初任給」を目安に引き上げをめざす合意がなされ、その直後に生活保護基準との整合性を盛り込んだ改正最低賃金法が成立した。その後、福田、麻生政権から民主党政権の5年間で、東京都の地域最賃が111円アップしたが、特定最賃の方は自動車で27円、電機も23円の引上げにとどまったために“逆転”されたのである。 

 その原因は2つある。ひとつは、リーマンショックを挟んだ自民・民主党政権が生活保護の基準額の上積み圧力に抗しきれず、地域最賃をとりわけ東京で引き上げ過ぎたことである。いまひとつは、連合が正規と非正規の均等待遇に取り組み、その実現にむけて特定最賃の運動を強化したが、これが地域最賃の引上げに波及することを怖れた経団連が、その骨抜きと廃止を東京に狙いを定めて反撃したことである。 

 我が国の賃金の低層構造は、一番下が地域最賃(時給653~850円)、その上に特定最賃(同700~850円)、一番上に高卒初任給(月額16万円)、という具合の三段重ねになっている。高卒初任給16万円は時給に換算すると1000円で、これは東京近辺の派遣社員の時給や北関東の製造派遣(請負)の労働者の時給も1000円と同水準だ。しかし、地方の派遣や 
製造請負の現場の時給は特定最賃に50~100円プラスして決まるので、 
その水準は800円台にとどまる。 

高卒初任給並みの処遇 

 この人たちこそが、日本の工場やショップ、オフィスの現場を支えているのだから、せめて企業内ミニマム賃金である高卒初任給並みの処遇にせよというのは説得力のある話である。それを手っとり早く実現するには、三段重ねの“餡子”である特定最賃とりわけ天下分け目の東京を決戦の場に据えて、自動車(839円) ・電機(829円)など機械金属の基幹部隊が時給900円に届けば、「時給1000円」が指呼の間に見えてくる。 

 今年は、4月の参議院予算委員会で安倍晋三首相が、「最低賃金引き上げに努力する」と答弁し、自民党も参議院選挙前とあって引き上げ自体には前向きである。時あたかも6月は成長戦略の閣議決定の時期、黒田日銀の「異次元緩和」の綻びが見え始めた中で、「2年で2%」の物価目標を手っとり早く実現するには、賃上げでミニ・インフレを起こすしかない。 

 そのために連合が、アベノミクスの成長戦略につけ込んで「時給 1000円」戦略を組み込ませれば、均等待遇の実現への橋頭堡になる。今からでも、まだ間に合う。ただし、ミニ・インフレがハイパー・インフレになるリスクを伴うので、その時連合は応分の痛みを引き受ける覚悟をしておくことである。

16:01

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

LINK

次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


これまでの研究会報告