貧困に対する支援の欺瞞
まちかどウオッチャー 金田 麗子
退職後私は、知的障がい者のグループホームで、パートの世話人をしている。
知的障がい者の賃金は、「平成24年版障害者白書」(内閣府)によると、一般事業所で雇用されている場合、平均11.8万円。就労継続支援A型事業所では7.2万円、B型事業所は1.3万円と、かなりの低賃金である。
雇用契約を交わす一般就労やいわゆるA型事業所と違い「訓練生」の扱いである「B型」の場合、月数千円という事業所も珍しくない。A型で就労していた利用者でも一日8時間、週5~6日勤務し月7万円の賃金だった。一般就労の利用者も一日残業2時間、土曜出勤があっても月収10万円に満たなかった。
「障害者差別解消法」は、この4月から施行されたが、どこまで有効な役割が果たせるだろうか。
支援の形骸化と人権侵害
支援のありかたを考えるうえで、印象的な出来事があった。以前勤めたグループホームで、社会福祉協議会(社協)による「福祉サービス第三者評価」のための、利用者への面接調査があり、常勤職員とともに立ち会ったことがある。
社協の面接調査員は、利用者に面接や質問の意図を、理解できるように説明できなかった。そのため、すべて施設職員が介在しての面接となった。どうしてこれで、施設や職員に対する不満や苦情が言えるだろうか。職員が利用者を虚言癖があると一方的に決めつける、後味の悪い結果に終わった。
この関連で思い出すのが、相模原市児童相談所が、一時保護中の少女に行った、衣服を脱がしての所持品検査事件である。利用者の子どもからの要望や苦情を受け付ける意見箱に備え付けていたペーパーが紛失したことに端を発し、プライバシー流出や性犯罪勧誘に悪用された過去の事例もあったため、このような身体検査を行ったのだった。
ブラックユーモアか。本末転倒もいいところ。何のための意見箱なのか。これら二つの事例は、専門家である支援者が、形骸化した支援の名の下に、明らかな人権侵害を行っているのである。
貧困化する日本
OECDによると、日本は全世帯の、約16.1%(2012年)が、相対的貧困だという。内閣府「平成22年男女共同参画白書」によると、65歳以上の相対的貧困率は22%。このうち高齢単身男性世帯は38.3%だが高齢単身女性世帯は52.3%と高齢女性の2人に1人が貧困だ。
一方、ユニセフが最近報告した分析によると、EUやOECDに加盟している先進41か国中、子どもの貧困格差について、日本はワースト8位であり、日本の子ども世帯の貧困が深刻であるということであることが如実になった。 阿部彩さん(首都大学東京)によると、母子世帯の貧困率は60%近い。(2010年)ここでも2人に1人が貧困だ。
一方労働力調査によると、男性も非正規率が高くなり、25歳から34歳の男性雇用者のうち、非正規雇用者は16.5%(2015年)、35歳から54歳で10%。並行して賃金低下がすすんでいる。
このように、日本全体が貧困化しているにもかかわらず、政府の対策支援は不十分だ。
生活保護の手前のセーフテイネットとして、昨年4月に始まった「生活困窮者自立支援制度」で、自治体が受け付けた相談件数が、国の示す目標達成を上回ったのは、4都道府県のみだったという。生活保護申請を排除する役割だけになっていないか。「子どもの貧困対策法」で、貧困家庭の子どもに対する学習支援と言っても、ろくに予算もつけず、親の低賃金問題や低収入問題に取り組まないで、実効性があがるはずがない。
ここでもまた欺瞞的、支援したふりの人権侵害になっているのではないか。