同日選するのかしないのか、消費税率引き上げするのかしないのか?
経済ジャーナリスト蜂谷 隆
安倍首相はすでに決めているのか悩んでいるのか本当のところは分からないが、難題であることには違いない。メディアの論調は「消費税率引き上げを延期し同日選挙に打って出る」に傾いている。私は「消費税率引き上げを実施すると明言し同日選挙に打って出る」と見ている。
消費税率引き上げの延期はしない
まず来年4月からの消費税率を8%から10%への引き上げだが、5月18日に1-3月期のGDP速報などを見て判断するとしている。その1-3月期は前期比でかろうじてだがプラスになる可能性が高い。民間のシンクタンクのみずほ総研は0%、第一生命経済研究所は+0.8%と予測している。消費は低調のままで輸出の伸びも期待できない。設備投資が好調と伝えられているが力強さはない。事実、様々な経済統計は相変わらずまだら模様(良いのもあれば悪いのもある)で、どちらかというと悪化とする数字が増えてきた。
しかし、だからといってGDPがマイナスになるとは限らない。というのは、GDPは前期比すなわち2015年10-12月期に対する伸率だからだ。10-12月期の実質GDPは528兆円(第2次速報値)である。この水準は7-9月期の529.4兆円に比べ-0.3%である。1-3月期は、10-12月期に下がった分だけ上がりやすくなった。また今年はうるう年で1日多い。第一生命経済研究所によると前期比で0.3%の押し上げ効果があるという。さらに過去10年の1-3月期の実質GDPの伸率を見ると2009年、2011年を除いてすべてプラスとなっている。2009年はリーマン・ショックの直後で2011年は東日本大震災の影響である。
もうひとつ問題がある。GDPの速報値はその後の改定値で大きく修正されることがあることだ。 2015年7-9月期の実質GDPは、第1次速報値は前期比-0.2%(年率-0.8%)とマイナスだったが、第2次速報値で+0.3%(年率+1.0%)とプラスとなった。1-3月期の第2次速報値の発表は6月8日である。前期比-0.1%とか-0.2%程度のマイナス成長でも2期連続ならば「景気後退」ということになるが、うっかり消費税率引き上げ延期を宣言すると、6月8日にはしごを外される可能性があるのだ。
わざわざノーベル経済学賞を受賞したステグリッツやクルーグマンを呼んで「消費税率引き上げの延期」の忠告まで得ているのは事実だが、この点も真に受ける必要はないと思う。「そこまで真剣に検討した」というパフォーマンスと考えた方が正解ではないか。前回も経済学者など有識者60人からヒヤリングを受けたが7割超は「消費税率引き上げを実施すべし」だったが、延期したのだ。
むしろ2人の経済学者が提案した「財政出動」に乗って補正予算を組むことになるだろう。
同日選に突き進む
では、衆議院の解散・総選挙はどうするのか?おそらく予定されている参議院選挙との同日選挙になるのではないかと見ている。安倍首相がやりたいのは憲法改正だ。同日選挙を行えば参議院は2019年7月、衆議院は2020年7月(満期)まで選挙がない。3年間じっくりと憲法改正に取り組むことができる。
ということは、もし同日選挙がなければ満期近くまで粘るのではないか。衆議院はすでに自公で3分の2を確保しており、任期も2018年12月までだ。無選挙期間は2年半ある。あわてて同日選に打って出る必要もないとも言える。しかし、この場合、選択肢が狭められ追い込まれ解散の可能性も出てくるので、できれば早いうちに解散・総選挙をすませて体制を固めたいと考えるのではないか。
解散・総選挙となると何を掲げるのか。前回は消費税率引き上げの延期だったが、同じネタを使うのはいかがだろうか。しかも前回は消費税率引き上げを延期したものの経済はさっぱり上向かないどころか悪化に向かってしまった。そもそも解散・総選挙には大義などない。民主党の野田政権による解散・総選挙は「大義なき解散」と言われた。「大義」があるから解散するわけではないのだ。