規制緩和促進の手段と化した安倍政権の「国家戦略特区」
立教大学経済学部教授 郭 洋春氏
2016年7月30日に開催した第22回研究会は、立教大学経済学部教授郭洋春氏に「『国家戦略特区』」は役に立つのか」と題して話していただいた。郭氏は、第12回目に次ぐ2回目。安倍政権の成長戦略の一環で始まった「国家戦略特区」は、小泉政権、民主党の菅政権時代の特区と異なり国の主導で作られ、規制緩和をスムーズに進めるための手段として使っていると述べた。規制緩和はTPPと連動、米国の意向が織り込まれたものとなっている。外資(米国金融機関)の呼び込みにねらいがあるとした。しかし、実施されているものは小粒なものばかりで「世界で一番ビジネスがしやすい」場所をつくるといううたい文句とはかなり差があるとも述べた。
都市圏に集中、これでは地域間格差を広げるだけ
「国家戦略特区」は、現在、10の特区が作られ86の規制改革メニュー、175の事業が行われている。特徴点のひとつは
東京、関西、愛知、福岡の4大都市圏に半分以上が集中していること。ふたつめは官邸主導で少数の有識者の主導で設定されている。小泉政権の「構造改革特区」、菅政権の「総合特区」と作られ方が違う。理由は規制緩和策を実施するための実験場的な役割を担わせているためだ。特に米国からの要望の強い混合診療、外国人弁護士活動などの政策を実施している。米国の要望をかわす意味合いもある。
この結果、現場の要望によって特区が作られていないため数も増えない。また、ドローンによる配達、雇用労働相談センター開設、農家レストラン開店など成長戦略としては小粒なものばかりとなってしまった。
そもそも特区は途上国が経済開発の起爆剤として行うためのもので、すでに世界で3000から5000あると言われている。先進国で特区を作ってもよほど規制を緩和しないとグローバル企業は来ない。現実にEUも米国など先進国には特区はない。韓国や中国でも経済発展後に作ったがうまくいかなかった。外資はほとんど来なかった。日本で特区という手法を使うとすれば「地方再生」とか「被災地再生」の後押しではないか。
外資は来るとしたら中国資本では?
以上の郭氏の提起を受けて質疑を行った。この中で外資といっても米国金融機関で、ねらいはTPPと同じで郵貯と農協の金融資産だろう。ただし、米国の意向を受けて東京に金融、流通サービスで特区を作ったら、米国企業ではなく中国の企業が入ってくる可能性があると述べた。
また、特区について国民の中にあまり反対論はない。もう少し良い面を見てもよいのではという質問に対しては、特区と規制緩和を分けて論ずる必要がある。規制の中には緩和した方がいいものもある。正面から論ずるべきだ。特区でお試しをして国民の意識を慣らして実施というのは正攻法ではない。特区を作るとしたら地方だろう。その意味であえて選ぶとすれば沖縄の観光特区とか、関西圏の医療開発ではないかと述べた。
特区の背景には経済成長信仰があるのでは?という質問に対しては、成長依存からの脱却が必要だ。今後、人口が減少するのでうまく供給を減らす仕組みができれば、今の程度の成長は維持できるかもしれない。しかし、農業だけでなく中小企業経営者も高齢化が進んでいるので、日本はドラスティックな社会経済政策を打たないと厳しくなるという考えを示した。(事務局 蜂谷 隆)