「同一労働同一賃金」実現の確実な一歩を模索
東京大学社会学研究所教授 水町 勇一郎氏
10月20日に開催した第23回研究会は、現代の労働研究会と共催で東京大学社会学研究所教授水町勇一郎氏に「『同一労働同一賃金』はどこまで可能か」と題して話していただいた。安倍政権の一億総活躍プランの一環で進められている「同一労働同一賃金」は、水町氏の考え方が議論の主軸となっている。政府内の議論の進行状況と実現に向けたテンポについても明らかにされた。同氏の考え方は、この20年EUで実施されてきたものをベースにしたもので、実現可能性からも評価されるだろう。研究会は企業の人事担当者などの参加があり活発な議論が行われた。
職務給でなければ同一労働同一賃金ができないわけではない
同一労働同一賃
金というと、日本
は勤続年数とか転勤の有無とかキャリアによって賃金が決まる職能給になのでムリという考え方が

根強い。ヨーロッパは職務給だから可能と言う。しかし、ヨーロッパモデルはかなり参考になる。「客観的理由のない不利益な取り扱いの禁止」あるいは「合理的理由のない待遇格差の禁止」と条文に規定、基本給だけでなく賞与、退職金、通勤手当、健康管理、社内食堂の利用などで不利益取り扱いの禁止、待遇格差の禁止となっている。
フランスやドイツなど先進国で実施したものをEU指令にして、各国で法制化するまでに3年程度かかっている。97年にパートタイム労働指令、99年に有期労働契約指令、08年に派遣労働指令と3段階で実現した。
日本で具体的に進めるためにはEUのように10年かけてやるわけにはいかないので、今年12月をメドに厚生労働省がガイドラインをつくり、労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法等の一括改正を目指す。来年の通常国会以降成立するとして19年度から新制度に移行するというスケジュールとなるだろう。ガイドラインに賞与、退職金、通勤手当などについて「客観的理由のない不利益な取り扱いの禁止」のための具体的な規定を設ける。来春闘以降の労使協議の目安にしたい考え。
ガイドラインの内容はこれからだが、基本給は、キャリアの幅や勤続年数、転勤の有無で差がつくという現状から出発して、均衡原則をどう適用するか問題となる。均衡というのは合理的に説明できる差ということだ。賞与や退職金は、賃金の後払いと企業の業績への貢献という性格がある。基準を同じにするが、均衡をはかることがポイントとなる。賞与は期間中の出勤日数と査定といった正社員と同じ基準になるので、ほんの「お印」というのはダメということになる。ただいきなり実施するのは企業としても大変なので、賃金原資を一定に保ちながら総合的に勘案することになるだろう。諸手当は手当の性格にもよるが、通勤手当、危険手当などは同じ処遇にすべきだ。働き方改革の中で課題となっている長時間労働の是正については労基法、労働安全衛生法など法律によって上限が異なるので、とりあえず36協定の上限を決めることになる。
委託契約への転換など課題も
以上の水町氏の提起を受けての質疑の中で、グループ会社の社員とするなど、すり抜けようとする企業が出てくるのではないか、という質問に対しては、個人事業主にして委託契約になどが増えるかもしれないが、そこまで広げると今できるものができなくなる。次の課題となると答えた。また、日本の人件費が上がることになるので、事業を海外に移す企業が増えることになるのでは、という質問には日本の企業が付加価値を高めて多少高い人件費でも生き残れるようにすべきだとした。
厚労省のガイドラインがどうなるのか、法改正がどこまで進むのかは未定だ。水町氏の考えがどこまで反映されるかは分からない。また、具体的争点は、最後は裁判で確定し積み上げていく以外ないという。その際に会社側は「客観的理由」、「合理的理由」の説明責任が課せられる。最後に、気がかりなのは政府部内での議論は活発だが、労働界を含めて国民的な議論は低調なことだ。(事務局 蜂谷隆)