異次元緩和を逆手にとった福祉中心の財政出動の可能性
経済アナリスト 柏木 勉氏
2016年4月9日に開催した第21回経済分析研究会は、経済アナリスト柏木勉氏から「異次元緩和を逆手にとった福祉中心の財政出動の可能性」と題する報告をしていただいた。柏木氏は政府の国債を日銀が直接引き受け、1年で15兆円、3年で45兆円といった思い切った財政出動を行い、社会保障、福祉に投入し経済と社会を立て直す政策を行う必要があると述べた。柏木氏の報告は刺激的なこともあって活発な議論が展開されたが、批判的な意見が多かった。しかし、アベノミクスとりわけ「異次元緩和」については、頭ごなしに否定する見方が多い中で、角度を変えて見る、深掘りをするという点で貴重な提案だったと思う。
国債の日銀直接引き受けで財源をつくる
政府と日銀は一体ではないが、政府は親会社、日銀は子会社

にたとえられ「統合政府」考えることができる。政府の借金を日銀が負担しているということは、夫の借金を妻が負担しているようなものだ。異次元緩和により日銀は国債を買い増すことで、国際保有高における日銀のシェアが増しているが、これは「統合政府」として見
れば国債残高は実質的に減少していることを意味している。
そこで15兆円の無利子・無期限国債、永久利付債を新規に発行、すべてを日銀が直接引き受けを行う。3年間続ける。これを原資に3年で45兆円の予算を組む。景気対策だけでなく福祉、社会保障、教育などで思い切った措置を行うことで、景気を一気に回復させる。景気が上向けば税収は増加するのでその後の財政は安定化する。
こうした財政出動を行うと悪性インフレになるという批判があるが、もしインフレになったら売りオペ(日銀が国債を売却)すればよい。これまでの悪性インフレは供給能力が破壊され需要が大きく上回ることで発生したもので、現在の経済の状況では考えられない。新規国債を日銀が直接買い取ることは財政法第5条で禁じられている。しかし、現在行われている金融機関を介した日銀による買い取りは事実上の直接引き受けである。必要であれば財政法を改正すればよい。
活発な議論を展開
柏木氏の報告を受けて質疑を行った。主なものは、「統合政府」という考え方はおかしい、日銀の独立は歴史的な反省から得たもので、財政が限りなく拡大する恐れがある。45兆円の財政出動をしても景気が持続的に拡大する保障はない。景気拡大が途切れれば政府の負債が増えるだけ。保育士や介護施設職員の賃金を上げても、4年目以降の財源が問題になる。国債を大量に買い込むと日銀の資産が毀損する可能性が出て信用問題になる。金融緩和を終了させた後の出口戦略が明らかにされていない、などであった。
柏木氏からは、財政出動のタイミングとしては現時点よりも以前、政権交代時あたりの方が効果的であったことは事実だが、4年目以降の財政は景気が相当拡大しているので税収の拡大は見込めるはずだ、との反論があった。
確かに柏木氏の言うように日銀の事実上の財税ファイナンスで、政府は低金利による調達が可能になっている。ならば円安に誘導して株価を吊り上げることしかやらないアベノミクスではなくて、同じ手法を使って社会保障などに使う方が得策と考えるというのは、分からないわけではない。しかし、だからといって多少無茶なことをやっても構わないというはいかがなものか。そこはやはり慎重に考えないといけないのではないか。国民は反対するが増税をして財源を得る方が正攻法だと思うがいかがだろうか。今後も議論を続けていきたいものだ。
(事務局 蜂谷 隆)