定住の選択可能な外国人労働者の受け入れを提言
経済ジャーナリスト 蜂谷 隆氏
第20回経済分析研究会は、2015年11月28日、「移民受け入れにカジを切る時がきた」と題して蜂谷が行った。急激に進む人口減少や労働力不足の中で移民受け入れに対する関心は高まっていることもあって、質疑・討論は白熱を帯びた。議論を通して移民問題の論点が浮かび上ったと思う。
移民問題や外国人労働者問題は、これまでも多く議論されてきたが、問題点が整理されないままに終わることが多かった。そこで、これまでの受け入れ論議の整理と移民の定義を明確にすることから報告は始まった。移民の定義は、「定住、永住」という形の狭義の定義と就労、留学など帰国を前提としている人達を含めた広義の定義のふたつがある。通常は広義の定義で論じられることが多い。
日本における移民受け入れの現状は、狭義の定義では137万人、広義の定義では217

万人となる。80年
代後半のバブル経済を契機に未熟練労働者の受け入れが課題になり、政府は表向き「受け入れない」という政策を堅持しつつ、日系ブラジル人などの日系人と新たに創設(1993年)した外国人技能実習制度による実習生の受け入れという形で、なし崩し的に受け入れてきた。
行き詰まるなし崩し的な受け入れ
日系人はリーマン・ショックによる解雇の嵐で帰国した人も多かったが、残った人達は定住化(永住資格の取得)の道を歩んでいる。外国人技能実習制度は人権問題、賃金未払いなどの労働問題が多発、国内だけでなく海外からも批判が強まり、制度として行き詰まりを見せている。また、シンガポール、台湾、韓国が受け入れ国になってきたことで、出稼ぎ労働者は条件の良いところを選択するようになった。その中で日本が選ばれない事態も出始めている。
今後の日本の移民受け入れのあり方については、ドイツのシュレイダー政権以降の「移民受け入れ国への転換」政策が参考になる。二重国籍を認める国籍法の改正、定住化する(した)移民に対する統合政策、産業ごとの労働力不足を明確にした上での採用(労働市場テスト)などである。
日本の受け入れは、まず統合政策をきちんと整備する必要がある。これは「多民族・多文化共生社会」を創るというもので、外国人差別禁止法、移民庁、公的な支援センターの設置など。もうひとつは、あくまでも国内の労働力不足を補うことためという前提(労働市場テスト)で外国人労働者を受け入れ、一定の年限の後、希望すれば定住への道を可能とする-という提案をした。
「選択的移民政策」も議論
質疑・討論では、ドイツでは即永住可能な高度人材、年限など条件付きで永住可能な熟練労働者、期限が来たら帰国する未熟練労働者と分けられているが、この線引きがどこで行われているかが問題となった。その線引きによって政策の濃淡がはっきりするからで、ドイツでも高度人材を重視し、未熟練労働者の受け入れは厳しくしていることには変わりないようだ。これは「選択的移民政策」と言われ、多くの先進国で採り入れられている。都合のよい人だけを受け入れるという点をどう考えるかは大きな問題だと思う。
「日本は労働力不足なので日本で働いてください、というようにメッセージを明確化することはいいことだ」という意見があった。あいまい、ダブルスタンダードにしないということで、政策の意図が明確になると、トラブルになった時にも問題が見えてくるからだと言う。まったくその通りだと感じた。議論は白熱したが、残念だったのは「移民は入れるべきではない」あるいは「移民受け入れはムリ」という主張する人がいなかったことだ。
(事務局蜂谷 隆)