グローバル金融危機の中で発生したユーロ危機
「ドイツ帝国」から連帯型への転換が問われている
東北大学名誉教授・田中素香氏
10月3日に開催した第19回経済分析研究会は、東北大学名誉教授田中素香氏に「ギリシャ危機と揺れるユーロ」と題して話していただいた。田中氏は、危機の本質はギリシャの債務危機ではなく、ユーロ危機にあり、その背景は金融資本主義にあるとした。ユーロ危機を回避できたのは、欧州中央銀行(ECB)が権限を強化し動いたためと評価。しかし、そのプロセスでそれまで権限強化に反対してきたドイツが、主導権を得て「ドイツ帝国型」を作り出したと分析している。田中氏は、一人勝ちしたドイツの強圧的とも言える態度こそ問題で、ギリシャの反乱は、ある意味で「人間がいる」ことを示したと述べた。
ドイツ主導でつくったユーロ制度に欠陥
ユーロ危機は、ギリシャの債務危機が表面化
したことが契機になっている。ギリシャに問題があることは事実だが、独仏の大銀行の行動に問題がある。1999年のユーロ導入を機に独仏の大銀行は、ギリシャ、スペイン、イタリアなど南欧諸国に大量に資金を投じた。このことで南欧諸国の金利は低下、バブルとなったが、ギリシャの債務問題が表面化すると一斉に撤退したため、一気に金利は高騰、資金難となった。独仏の大銀行には貸し手責任がある。ところがこうした問題は不問とされたままであった。
ユーロ危機の解決を困難にした大きな要因は、ドイツ主導で作られたユーロ制度にある。そもそもこうした金融危機を想定していなかったのだが、ECBや危機国の中央銀行が国債を購入することを禁じるなど、危機に陥った国を救済するシステムがなかった。田中氏はこれを「非連帯型」と名付けている。これはドイツの制度がそのまま持ち込まれたもので、ギリシャ危機でもドイツはこの姿勢を堅持した。
しかし、実際のプロセスは、ドイツの反対を
押し切ってECBが積極的に対応、ギリシャ国債を大量に購入(資金供給)、特に第3波では無制限に購入、高騰した金利を下げ、沈静化に成功している。
ユーロ危機を経て、ECB、EUは、危機国救済に向け権限強化に動いた。欧州委員会が各国の経常収支、住宅価格などマクロ経済的をチェック、問題があると改善を勧告することになった。田中氏は「ドイツ帝国型」、「部分連帯型」と名付けている。「ドイツ帝国型」としたのは、ドイツが主導権を握っているからだ。
ユーロ改革の方向性としては、ギリシャがユーロを脱退しても戻れる「危機国一時脱退制度」のようなシステムを作ること、もうひとつは、危機国に財政的な支援を行う「財政資金トランスファー制度」をつくること。このふたつができれば、ユーロ制度は、改善され連帯が強化されるとした。
問われているのは勝者ドイツ
質疑では、ドイツ封じ込めという政治的思惑だけが先行するというユーロ創設そのものに問題があったのではという、いわゆる「そもそも論」が争点になった。この点については、確かに東欧に経済圏を作りつつあるドイツを牽制する意味があったことは事実だが、ドイツの経済界はユーロ創設に賛成で、その後を見ても、東欧諸国の低賃金を使うと同時にマルクよりも安い評価のユーロを活用して、中国など新興国に輸出を伸ばした。ユーロ制度に欠陥があるのは事実だが、しっかり定着してしまったので、今更元には戻せない。危機国の救済を組み込んだ制度に変えていくことが必要であることを強調した。
このほか、ギリシャ経済再生の可能性や中国、ロシアの思惑なども議論になった。全体を通して明らかになったことは、ユーロ危機はギリシャなど南欧諸国にも問題があるが、最も大きな問題は一人勝ちしているドイツにある。ドイツのユーロに対する姿勢を変えることが問われている、ということだと思う。
(事務局 蜂谷 隆)
※田中氏の報告の詳細は『FORUM OPINION』31号に掲載されています。