日誌


2017/11/08

POLITICAL ECONOMY 第106号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
空しい!格差の合理・不合理

                                       まちかどウオッチャー 金田麗子


 今年の夏、私は日本郵便の「時間給契約社員」に転職し、週5日夕方から4時間、郵便の仕分けの仕事をはじめた。

 入職して驚いたことは、郵便の職場は機械化が進んでいると思いきや、人間の手によるアナログな仕事の連続で、24時間体制の眠らない現場であった。そのため、人手はいくらあっても足りない。人員の定着も悪く、いつも求人を出しているが欠員は埋まらない。

 正社員も夜勤日勤など変則勤務を行っているが、私の現場では正社員は責任者として一人配置されているだけで、大勢の非正規「時間給契約社員」が支えている。3時間、4時間の勤務形態もあれば、17時半から翌朝8時までの勤務形態もある。年齢は私の職場では30代から40代前後が中心のようだが、私のような60歳代もいる。

 総務省労働力調査によると、2016年は非正規労働者2023万人のうち、65歳以上は301万人で全体の14.9%を占める。55~64歳は415万人、20.5%を加えると、中高年化の傾向が一気に進んでいることがわかる。一方45~54歳が400万人19.8%、35~44歳が386万人19.1%とすぐ下の世代も迫ってきていて、将来この世代の比率はそのまま高齢化する可能性が高く、まさに私の職場はこの縮図だ。

日本郵便判決は大きな一歩だが

 そうした中、9月14日、日本郵便の配達業務の契約社員12人が、正社員との格差解消を求めた訴訟で、東京地裁は一部の格差を「不合理」とする判決を出した。非正社員と同様な業務態様の正社員との比較から、待遇格差の合理性を判断した点が、従来の判決との画期的な違いと評価されている。

 具体的には、年末年始勤務手当、住居手当、夏季冬季休暇、病気休暇などが認められた。もちろん賃金をはじめ大きな格差は厳然と残っている。しかし大きな一歩を勝ち取ったことは確かだろう。

 日本郵政4グループで、全国約20万人の正社員に対し19万人の非正規労働者がいると言われている。「週刊東洋経済」によると、全国の大企業で3番目に非正規労働者が多い職場であるという。転職したばかりで私はよりリアルに判決を受け止めた。

 政府は働き方改革の一環として、「同一労働同一賃金ガイドライン」案を示し、法整備を行おうとしている。その影響も判決には反映されたと言えるだろうが、その背景は次のコメントに如実に表れているだろう。

 「かつての非正規は主婦がパートタイムで働くモデルが多かった。正社員の夫が生活を支えているからパートの賃金が低くても貧困問題にならず、社会も問題視しなかった」それが「母子世帯、家計を支える世帯主も家族も非正規というケースが増えている」「正社員と非正規労働者の賃金格差が国際的にみてあまりにも大きい」これらは政府の「一億総活躍国民会議」の委員である樋口美雄氏が、朝日新聞に答えた発言である。

 総務省労働力調査によると、2017年7~9月は正職員3435万人に対し、非正規労働者は2050万人、全雇用者の37.4%を占めている。しかし賃金は、2015年OECD報告、パートタイマーの賃金格差によると、日本は正社員の46%と先進諸国の中でも格段に低い。他国は60~90%!だから、国際的にも不平等の源だ。

あいまいな「不合理な格差」

 パート法や労働契約法で正社員との不合理な格差を禁じていても、実態は伴わず訴訟等でも労働側にプラスの判断は出ていなかった。「不合理な格差」とは何かがあいまいで、仕事態様、責任、配転の有無、企業側の期待値など違いばかりが強調される。

 しかし正社員との「不合理な格差」の境界ばかり議論しても、いたちごっこともいえる。

 国内大手自動車メーカーが期間従業員の契約ルールを一方的に変更していたことが明らかになった。労働契約法に基づいて、同じ会社で通算5年を超えて雇用された場合、無期雇用に転換できる制度を回避するため、契約終了後再雇用までの空白期間を従来の1か月、3か月から6か月に変更するという脱法的ルール変更を各社が行っていたのだ。

 今度は「合理的格差」が認められる雇用形態を、企業側が求める可能性は大きい。雇用形態が変化しても、原則的にどのようなベースを整えるのかの議論に移行する必要がある。


09:27

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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