雇用類似の働き方も保護は必要
グローバル産業雇用総合研究所所長 小林 良暢
厚生労働省の「雇用類似の働き方に関する検討会」は、10月30日に「雇用類似の働き方の者」の保護とこれからの検討課題を提起した。
「雇用類似の働き方の者」といっても、聞き慣れない言葉と思う人が多いだろう。この検討会では、「発注者から仕事の委託を受け、主として個人で役務を提供し、その対償として報酬を得る」かたちで働いている人たちことを、こう呼んでいる。具体的には、経営者、個人事業主、自由業、フリーランス、クラウドワーカー、テレワーク、副業などで働いている人たちである。同検討会が調査した結果によると、我が国に約 228万人いるとしている。
だが、クラウドソーシングのプラットフォームの大手であるランサーズの「フリーランス実態調査」(2018)によると、フリーランサーだけでも1,119万人にはいるとしている。調査の目的や手法も異なるので、どちらが実情に近いかはなんともいえないが、上にあげたフリーランス、クラウドワーカー、テレワーク、副業などについて、個別の統計を集計したのが、巻末の「働き方類型別労働者数」の図表(添付図表参照)である。
この図表は、左から正社員の数、真ん中がパートタイマー・契約社員・派遣労働者などのいわゆる非正規労働者、一番右は検討会が「雇用類似の働き方の者」と呼び、私は「働き方フリー労働者」と名付けた、この3類型を比較したものである。
現在、正社員で働いている人は3400万人、非正規労働者が2100万人いるのに対して、「働き方フリー」も1800万人と、正社員や非正規にも迫る勢いで、労働市場に確固たる位置を占める存在になっている。
クラウドワーカーは倍増する
この図表の右の「働き方フリー労働者」の中に出てくるクラウドワーカーで働いている人は、現在400万人ということになっている。だが、NTT東日本系のクラウドワークスが、クラウドサービスのブラットフォームを運営する大5社の登録者数を基に推計したところによると、2020年代にはクラウドワーカーだけでも1000万人に倍増するとされている。
アメリカでは、クラウドワーカーは既に4000万人に達しており、経済規模からすると、我が国も2000万人にいくのは自然の流れだろう。
仮に、将来「働き方フリー労働者」が2000万人になるとすると、その増加分の約1500万人が正社員と非正規からそれぞれ700万人とか800万人ずつ「働き方フリー労働者」にシフトすることになる。
ないない尽くしの業委委託慣行が横行
ところが、フリーランスにしろ、クラウドワーカーにしろ、業務の発注者サイドの一方的な都合で、業務委託が切られても文句が言えず、またライターは取材をして原稿を週刊誌などの編集部に持込んでも、ボツにされれば取材費も原稿料も出ないというのが、半ば業界の慣習になっている。事ほど左様に、契約書もなければ、最低報酬の保障もなく、紛争処理の制度もなく、ないない尽くしの業委委託慣行が横行している。こうした状況の下で働いている人々をどのように保護の網を被せるかには検討会と私とでは、考え方がまったく違うようだ。こうした観点から、今度の検討会の提起を読むと、3つの問題点がある。
①「雇用類似の働き方の者」と「雇用フリー労働者」
検討会は、フリーランスやクラウドワーカー、テレワーク、副業などについて、「雇用類似の働き方の者」と記し、検討会は労働者という言葉を使うことを避けている。私は働くものは労働者だとし、その働き方は会社フリー・時間フリー・雇用フリーで働いているから、「雇用フリー労働者」と呼ぶ。この分岐は呼び方の問題でなく考えた方が異なる。
②労働者性
これは、フリーランスやクラウドワーカー、自営業者などを、どこまで労働者とみなすか否かにつきる。これを労働法学では「労働者性」の有無という。検討会では、労働者性の判断基準を拡張して、雇用類似の働き手を保護すべきという意見がでたが、これは見送られた。
③「雇用類似の働き方の者」の保護
「雇用類似の働き方の者」の法的な保護は、「雇用類似の働き方の者」は画一的に定義することは困難だとして、労働者性を有して、言い換えれば「雇用従属性」の類似の者に限定した結果、もっとも保護の網が必要な人たちを追いやってしまったのである。