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2014/11/18

第14回研究会報告

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
日本型雇用に未来はあるか!?

                           日本労働政策研究・研修機構主席統括研究員 濱口 桂一郎氏

 9月27日に現代の労働問題研究会と共催で研究会を開催した。
経済分析研究会としては14回目となる。講師は日本労働政策研究・研修機構主席統括研究員の濱口桂一郎氏で、演題は「日本型雇用に未来はあるか?!」。濱口氏はEUの雇用問題に詳しく、長年EUとの比較の中で日本の雇用のあり方を研究してきたが、今回の講演ではメンバーシップ型である日本型雇用は、社会の変化の中で大きく揺らいでいる。特に年功制は崩れていくだろうと語った。

 濱口氏の話は、日本で企業に採用されるということは、社員になることで、仕事の中味は入ってから決める。したがって、整理解雇する時も社内に他の仕事を探す努力をしたうえでやるのだが、そうなると解雇された人は社内にあてがう仕事が何もないくらいダメな人というレッテルが貼られるというジレンマがある。

 ヨーロッパは対照的で、企業と個人はジョブでつながっているので、解雇も仕事がなくなったからというのが、正当な理由となる。個人の能力と関係がないので労使協議に乗りやすい。

 日本型雇用は、戦時中にできたとみているが、固執したのは労働側だ。政府や経済界は、戦後ジョブ型への転換を打ち出したが、70年代後半以降は日本型に回帰した。90年代以降は、なし崩し的な議論が多くなったと濱口氏は見ている。特に産業競争力会議や規制改革会議などでは、賃金が相対的に高い中高年をパフォーマンスが悪いと言って解雇するための口実としてジョブ型を取り上げているだけと厳しく批判した。ただ、限定社員については、ジョブ型ということで労働者にとってもメリットの要素もあるので、もう少し考えた対応が求められると語った。

 質疑の中では、ブラック企業の問題や非正規雇用、女性労働、限定社員などが取り上げられた。濱口氏は、日本型とジョブ型はどちらが優位かという話ではない。問題は日本型が時代状況に合わなくなってきていることで、年功制は変わらざるを得ないという見方を示した。

 濱口氏の話は、これまである意味では絶対視してきた日本型雇用の問題を整理する上で意味が大きいと思う。ヨーロッパのジョブ型との対比や歴史的なとらえ返しも説得力があった。戦時中の国家と企業の関係の中でメンバーシップ型が作られたこと、その最大の担い手が企業内労働組合であったことなどである。たぶん適合的というか収まりが良かったのだろう。

 日本型雇用のカテゴリーは、男性正社員である。質疑の中でもあったが、女性は結婚退職が前提だ。また、日本型雇用が成立する前提として正社員と別の非正規雇用の労働者がいる。不況による人員整理や産業構造の転換による解雇は、まず非正規の雇い止めから始まる。70年代も80年代もこれでやってきたのだが、2000年代になると非正規雇用があまりに増えたことで、リーマン・ショックでは社会から「派遣切り」という形で批判を受けた。今や少数派となった正社員の雇用を維持する日本型雇用にきしみが生じていることは事実なのだろう。

 濱口氏は、あまり強調しなかったが、著書などを読むと、ジョブ型をうまく活用することが必要と言っている。限定社員はそのひとつなのだろう。労働組合が企業内の正社員だけで組織されていることが、ひとつの限界になっているのかもしれない。いずれにしても濱口氏の問題提起を受け止めて議論を活発化させる必要があると感じた。(事務局 蜂谷 隆)


20:29

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場所:専修大学神田校舎10号館11階10115教室(会場が変更となりました。お間違えないように)

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