グローバル化したアフリカ
発展のポイントは農業
三井物産戦略研究所主任研究員 白戸圭一氏
第15回経済分析研究会は、11月29日に「『世界経済の辺境』から『グローバル経済の一角』へ 『新しいアフリカ』の歪み」という演題で開催された。講師は三井物産戦略研究所主任研究員の白戸圭一氏。白戸氏は毎日新聞記者として豊富な現地取材を続けてきたアフリカ研究者で、2014年4月から三井物産戦略研究所の研究員となった。アフリカは2000年代に入って中国など新興国が大きく成長、需要が拡大したことで原油など資源の価格が高騰、資源に依存するアフリカ諸国の経済は拡大した。これに伴い極端な富裕層が生じた半面、貧困層も拡大している。グローバル経済の一角を占めるに至ったアフリカは、ある意味で世界の縮図と言えるようだ。
極端にグローバル化した経済
白戸氏の話は、以下の通り。
アフリカの中長期のトレンドは3つある。ひとつは、アフリカの人口爆発が続くので、2050年には世界の人口(97億人)のうち4人に1人はアフリカ人になる。そうなると、大きな食料需要が生まれるが、他方でこのまま進めばアフリカは食糧危機の震源地になると指摘した。日本も食糧輸入国なので、もし世界的な食糧危機が生じたらとアフリカが取り合うことになる。
3つめは、この20年で国家権力をめぐる紛争や内紛は大幅に減った。武装勢力は小規模化し、残っているのはテロ組織だけとなった。 2つめは、80-90年代の経済低迷と戦争の時代を経て、2000年ころから高度成長を遂げている。これは原油などの資源の需要が拡大、豊富な資源を有するアフリカの経済は成長した。この結果、日本以上にグローバル化した面もある。「資源依存」の経済成長というトレンドは続くと見られる。
アフリカの最大のアキレス腱は農業。労働人口の6割を農民が占めるにもかかわらず、自給自足ができず、食料を輸入せざるを得なくなっている。これは灌漑もせず化学肥料も使わないため生産性が著しく低いためだ。品種改良をはかるなどして生産性を上げ、うまくバリューチェーンを構築すれば、世界市場で一次産品の主要輸出国に躍り出る可能性がある。アフリカを発展させる最大のポイントは農業にあるが、人類全体にとっても大きな問題であることを強調した。
強まる中国との結びつき
続いて参加者からの質疑があった。質問は、製造業の問題、発電などエネルギー、中国との人脈から現在、大きな問題となっているエボラ出血熱まではば広い質問があった。
この中でふたつだけ紹介したい。ひとつは、なぜアフリカには製造業が育たないのかという点。白戸氏によると、最大の要因は「人件費が高い」ことにあるという。大卒など必要な人材が少ないことに加え、食料が輸入に頼っているため物価が上がり、賃金も上がりやすいという。ただ、南ア、ナイジェリア、ケニアなどでは製造業が伸びる兆候はある。
原油を掘り当てると、その国は突然豊かになるが投資をしなくなり、政治家は腐敗し極端な格差社会になる。こうしたことに対する反省もあり、製造業や農業を育てるためにも発電所、鉄道などのインフラを整備しようとするが、袖の下が横行、欧米や日本など先進国が躊躇すると、中国が受注してしまうそうだ。それも労働者まで連れてくるので安い価格で受注できるという。この結果、中国人はアフリカ全体で300万人にも膨れあがった。ちなみに日本人は7800人。
もうひとつは中国とアフリカの結びつき。これは1960年代に北京に留学したアフリカ人やモスクワで共に社会主義建設を学んだ人的関係が基礎にある。特にタンザニアとアンゴラで、マフィア化した中国人と腐敗したアフリカのトップが癒着する形で継続しているという事実もあると語った。
白戸氏の話は、我々のアフリカに対する見方だけでなく、欧米中心の世界観をとらえ返す上でも示唆に富んでいると思った。
(事務局 蜂谷 隆)