コロナで底が抜けた
街角ウォッチャー 金田 麗子
私の町内は菅総理の選挙区で、コロナで自粛中の昨年5月、近所の喫茶店で、持続化給付金の申し込みを政権党の支部が相談に乗っているところに出くわした。
地域で創業50年の居酒屋の女将が、「みんな情けないね。一か月二か月店閉めたら潰れるって騒いで」「私は老後資金に取っていた500万つぎ込んだ」と啖呵を切っていた。年末に再びこんな危機的な状況になるとは思わなかったのだろう。500万円は80才を超えている彼女にとって、切実なお金だったろうに。
持続化給付金の支給が遅れていて、3か月以上たっても入金されない人、年末までに資金が受け取れなかった人も出ている。そこに第三波がきた。東京商工リサーチの12月29日の集計値によると、昨年の新型コロナウイルス関連倒産は843件。ほぼすべて中小零細企業である。業種別では飲食の141件が最多。アパレル製造・販売82件、建設67件、宿泊60件と続く。
コロナのしわ寄せは女性に
コロナの影響による失職者は、厚労省によると12月25日時点で、見込み合わせて7万9522人、前週より1783人増え年末年始期間に8万人を超える見通しだ。職種別では、製造業1万6717人、飲食業1万1021人、小売業1万399人と3業種で半数近くを占めている。打撃の大きい飲食サービス業の働き手は、非正規の女性が多い。
非正規雇用は8か月連続減少し、10月は前年同月比約85万人減った。2018年に15~64歳の働く女性の割合は70%を超えたが、半分以上は不安定雇用だった。そこをコロナ禍で解雇・雇止めを食らっているのだ。
国連事務総長が「女性と女児をコロナ対応の取り組みの中心に」と各国政府に呼びかけた。世界中で女性の自殺増加、コロナのステイホームにおける女性の負担増、DV、虐待の増加。失業により安全な居場所を失う事態が続いているためだ。
日本でも内閣府が「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」を立ち上げた。昨年11月19日に出された緊急提言では、医療や介護、保育に携わるエッセンシャルワーカーに女性が多く、就労状況が厳しい。昨年4月の女性雇用者数は3月より74万人減少し、男性の2倍超の減少のほとんどが非正規雇用であるなど、危機的状況に対し処遇改善を求めている。
警察庁によると自殺者は男女とも増えているが、女性の自殺者は急増していて、昨年10月には851人と前年同月対比約8割増えているという。内閣府のDV相談件数も前年を上回るペースで、4~9月対前年同期比約2割増となっている。
ドメステイックイデオロギーに満ちた日本社会
その矢先、渋谷区幡ヶ谷のバス停に座っていた路上生活の64歳の女性が、頭を殴られて殺される事件が起きた。被害者の女性は、夜中ベンチで休む生活をしながら、派遣登録して就労していたという。
容疑者は近くに住む46歳の男で、自営業を手伝いながら高齢の母と暮らしていた。殺害の動機を、ボランティアで行っている清掃の邪魔だったと言っているらしい。この事件には、多くの女性が「彼女は私だ」と危機と怒りを持っている。コロナ禍で失業した非正規、非婚あるいは未婚の女性たちが、住む部屋を失い路上生活せざるを得ない恐れが高まっている。公的支援としては、東京、大阪などには、民間住宅やビジネスホテルを無償提供する「チャレンジネット事業」があるが、部屋数は限られ原則3か月の利用で、その間に就職、部屋を借りるのは困難だ。
年末年始、民間団体主催の支援相談活動や、多くの自治体も相談窓口を開いて対応している。家を失った人、失いかけている人向けの支援が緊急に必要だ。
興味深いのは加害者男性である。高齢の母親に「ごめんなさい。おかあさん」と泣きながら謝ったという。母に付き添われて出頭している。46歳の息子と80代の母の生活。
厚労省「国民生活基礎調査」によると、要介護高齢者の約3人に1人、男性家族に介護されている過半数は高齢者の息子という。典型的な母子世帯なのだ。優しく親孝行な側面も持っているのに、なぜ初老女性はためらいもなく殺す対象なのだろうか。
ちょうど読み終わった「女性たちの保守運動」鈴木彩加(人文書院)の第4章に、興味深い記述がある。
ケアによって結びついた人間関係や家族の重要性が、保守運動の女性たちに大切なもの、自身の人格形成にも連なるものとして語られているが、属性の違いを超えて、すべての人がケアされるケアする権利が保障されるケアフェミニズムとの根本的違いは、「ドメステイックイデオロギー」で、安全な場所である家族、家庭、国内の「保守」運動なのだ。