日誌


2017/12/09

POLITICAL ECONOMY 第108号

Tweet ThisSend to Facebook | by:keizaiken
「もうはまだなり まだはもうなり」
                                                                         NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員 平田芳年
 
 東京市場の株式相場が好調である。昨年末の大納会の日経平均株価は、前日比19円安の2万2764円94銭と26年ぶりの高値で引け、新年あけの大発会(4日)から3日間で日経平均は1000円超も上げた。年末から新年に掛けて上昇相場が続き、平均株価は当面の心理的節目とされた2万3000円を軽々と超え、週末には2万4000円をうかがう水準にまで急騰している。経済専門誌や証券業界ブログなどによると、「歴史的な株高局面」なのだという。

 この株高はいつまで続くのか。証券関係者が年初に強きの予想を公表するのは「ビジネストーク」と見られがちだが、企業経営者はどう見ているのか。経済・金融通信社Bloombergが経団連など経済3団体や各業界団体が開催した新年祝賀会に出席した企業トップ13人を対象に2018年の株価予測調査を行っている。それによると、日経平均株価の高値予想の平均は2万5615円で、著名な経営者では経済同友会の小林喜光代表幹事(三菱ケミカルホールディングス会長)が9月には2万5500円まで上昇とし、トヨタ自動車の豊田章男社長は上値2万7000円、小堀秀毅・旭化成社長は2万6000円、井坂隆一・セブン&アイ・ホールディングス社長は2万6000円など全員が、現在の水準から上昇すると予想している。

株価上昇の3要因は企業業績、世界同時好況、金融緩和継続

 日経、週刊エコノミストなどの経済メディアや経営者が株高の要因として共通に挙げるのは企業業績、世界同時好況、金融緩和継続の3要因。マネックス証券のチーフ・ストラテジスト広木隆氏の分析では「現在のマクロ環境はひとことで言えば世界経済がそろって好況という状態である。これが世界景気敏感株といわれる日本の上場企業の業績拡大の背景。GDPや製造業の景況感、消費者センチメント、失業率など様々な指標から日米欧をはじめとする先進国も新興国もそろって経済が好調であることが示されている。その一方でインフレが加速しないという状況も世界共通。結果として、好景気・低インフレ・低金利が共存する『ゴルディロックス(適温)経済』が続き、株式市場にとってはこのうえない好環境が生まれている」という。

 ところで、この分析は正鵠を射ているのだろうか。わずか1、2年前には総需要の弱さと潜在成長率(自然利子率)の低下が併存する「世界経済の長期停滞論」が取り上げられ、日本では「アベノミクス」の失速と財政赤字の拡大、日銀の異次元緩和の弊害が指摘された。保護主義的色彩の強いトランプ米大統領の登場とイギリスのEU離脱、中国の過剰生産と積み上がる債務残高、中東危機、朝鮮半島危機の恒常化など国際的な経済環境は決して「好環境が生まれている」とは言い難い。

不安要因は少なくない

 このところの株高を背景に、市場では「年末までに日経平均3万円の大台」との強気観測が闊歩しはじめているが、東洋経済オンラインが「2018年、株価が下落する『7つの要因』」を特集、圧倒的少数派ながら市場への警鐘を鳴らしている。以下、参考のために7つの要因を列記しておく。
(1)日銀の政策転換、金融緩和の縮小に舵を切る
(2)安倍政権退陣
(3)1ドル=100円に迫る円高
(4)ドナルド・トランプ大統領の退陣ないしは米政権の大混乱
(5)FRBの利上げによる米株価の下落
(6)北朝鮮と米国の武力衝突
(7)中東の混乱でOPEC(石油輸出国機構)の減産合意が破綻

 同誌は「いずれも実現可能性は大きくはなく、『まだ、2018年中にはないのではないか』というくらいが平均的な見方だろう」と解説した上で、「すべてが明るく見える状況であることが不安だ」との言葉で締めくくっている。

 最後に中空麻奈BNPパリバ証券投資調査本部長の発言を引用しておく。「現在の金融市場は基本的にはバブル状態にある。何かの市場が崩れて、あっという間に金融市場が暗転するという展開は簡単に想像できます」(『NIKKEI BUSINESS』17年12月11号)。 証券市場には「もうはまだなり まだはもうなり」という相場格言があることをお忘れなく。


13:55

メルマガ第1号

金融緩和による「期待」への依存は資本主義の衰弱
                                                                   経済アナリスト 柏木 勉

 日銀の新総裁、副総裁が決定して、リフレ派が日銀の主導権を握った。副総裁となった岩田規久男氏は、かつてマネーサプライの管理に関する「日銀理論」を強く批判し、日銀理論を代表した翁邦雄氏と論争をくりひろげ、その後も一貫して日銀を批判してきた頑強なリフレ派である。

 さて、いまやインフレ目標2%達成に向けて、「「期待」への働きかけ強化」の大合唱となっている。この「期待」は合理的期待理論として欧米の主流派を形成している。そのポイントはこれまでにない大胆な金融緩和による「期待インフレ率の上昇」とされている。これによって実質金利を低下させ、それを通じて日本経済が陥っている流動性の罠からの脱出が可能になるというわけだ。ちなみに、近年ブレーク・イーブン・インフレ率なるものがよく出てくるが、これは普通国債の利回りから物価連動国債の利回りを引いて計算したものであり、期待インフレ率を表すとして利用されている。この期待インフレ率は、アベノミクスが騒がれ出してから、最近では1%程度にまで上昇してきた。同時に株高、円安が進んだ。これを見て「期待への働きかけ」は十分可能であり、現実に実証されつつあるとしてリフレ派の勢いは一層増している。

 リフレ派の主張に対しては様々な反論がなされている。その極端なものとしては、財政赤字が拡大する中で日銀が国債購入を増大させれば、財政ファイナンスとみなされ国債の信認(償還への信頼)が低下し、国債価格暴落で金利の急上昇がおこるというものだ。この時、設備投資はもちろん失速、財政は危機的状況をむかえる。もうひとつはカネを市中にジャブジャブに出していくわけだから、%インフレにとどまらずハイパーインフレをまねくというものだ。

 だが前者に対しては、いまだ家計の現金・預金が昨年で850兆円に増加し外国人の国債保有率も9%弱にとどまっているし、日本の金融機関の国債への信任は当分大丈夫だとか、また少なくとも今後の国債の新規発行分についてはその大半を日銀が購入してしまえば金利の大幅上昇はないとかの再反論がある。

 後者については遊休設備と多くの失業者を抱え潜在成長率との需給ギャップが大きい。だからハイパーインフレなどあり得ないとの再反論がある。その他様々な論点について論争はかまびすしい。

 だが問題は、リフレ派はデフレによる実質金利の上昇に焦点を絞っているのだから、実質金利と景気とりわけ利潤率との関係を見ることが必要だろう。実質金利の推移をみると、2000年代に入って近年まで実質金利は高い時でせいぜい2%強程度ときわめて低水準で推移している(ただし、リーマンショック直後を除く)。ちなみに80年代は5%台を上回っていたのである。そのなかでいざなみ景気は戦後最長を記録した。この間平均してCPIはマイナス.2%程度、実質経済成長率は2%弱と、日本経済はデフレ下で成長したのである。

 その後はリーマンショックにより大幅に落ち込み、回復ははかばかしくないが、ともかく2000年代全体を通じて、実質金利は長期にわたり低水準で大きな変化がないにもかかわらず、好況、不況が生じている。つまり景気の転換を左右しているのは実質金利以外の要因であり、例えばいざなみ景気の起動力となったのは、物価デフレよりも資産デフレからの脱却、デジタル家電を先頭としたデジタル革命、世界の工場となったアジアの生産ネットワークの形成、金抑制による労働分配率の低下であった。

 実質金利が高いと云う場合、何に対して高いのかが問題だが、むろん利潤率に対してだ。高くて2%程度の実質金利をクリアーできない利潤率が最大のネックなのだ。これを突破するのは最終的には不況下の合理化投資と需要創出型のイノベーションだ。デフレ下の低価格であっても利益を生むイノベーションである。しかし現状では200兆円におよぶ内部留保を抱えながら投資が低迷している。これはケインズの謂う企業家の「血気」の喪失というほかないだろう。
 
 そもそもインフレ期待を生むために、中央銀行による市場への説明能力やコミュニケーション能力などという小細工が大問題になるのは笑止千万というべきだろう。政府・日銀による「期待」の醸成という、お情けの支援なしには自ら投資に打って出ることができない。それほど「血気」が失われているわけだ。

 結局のところ、金融主導で金融面から資産効果を引き起こし、それによってようやく実体経済が動き出すというパターンしかとれず、それがまたバブルの形成・崩壊を繰り返すというのが現在の資本主義である。グローバル化で市場経済が世界中に浸透しているかの如く見えようとも、資本主義の中枢部分をなす先進国は、「期待」の醸成に頼るしかないという衰退の段階に入っている。

 

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次回研究会案内

次回研究会決まり次第掲載します




 

これまでの研究会

第36回研究会(2020年11月28日)「ポストコロナ、日本企業に勝機はあるか!」(グローバル産業雇用総合研究所所長 小林良暢氏)


第37回研究会(2021年7月3日)「バイデン新政権の100日-経済政策と米国経済の行方」(専修大学名誉教授 鈴木直次氏)

第38回研究会(2021年11月6日)「コロナ禍で雇用はどう変わったか?」(独立行政法人労働政策研究・研修機構主任研究員 高橋康二氏)

第39回研究会(2022年4月23日)「『新しい資本主義』から考える」(法政大学教授水野和夫氏)

第40回研究会(2022年7月16日)「日本経済 成長志向の誤謬」(日本証券アナリスト協会専務理事 神津 多可思氏)

第41回研究会(2022年11月12日)「ウクライナ危機で欧州経済に暗雲」(東北大学名誉教授 田中 素香氏)

第42回研究会(2023年2月25日)「毛沢東回帰と民族主義の間で揺れる習近平政権ーその内政と外交を占う」(慶応義塾大学名誉教授 大西 広氏)

第43回研究会(2023年6月17日)「植田日銀の使命と展望ー主要国中銀が直面する諸課題を念頭に」(専修大学経済学部教授 田中隆之氏)

第44回研究会(2024年5月12日)「21世紀のインドネシア-成長の軌跡と構造変化
」(東京大学名誉教授 加納啓良氏)


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